エンジニアが語るリレーエッセイ
エンジニアに資格は必要か?
第3回 実力と資格との関係は?

田村貴夫(ソリマチ技研)
2001/11/28

毎回さまざまな分野のエンジニアに、「エンジニアに資格は必要か?」をテーマに、自身の実体験などを織り交ぜて語っていただく。エンジニアの“生”の声を紹介する月刊リレーエッセイ。第3回は、ゲーム業界出身で、現在は業務システムなどを開発などを行っている田村氏が、その本音を語る。

必要という人、不要という人

 私が勤務している会社の規模は60人程度で、流通業をメインマーケットとしたソフトウェア開発を行っています。この規模のソフトウェア開発会社のエンジニアは、どうしてもある程度マルチプレーヤであることが求められます。私の勤務先でも例外ではなく、ほとんどのエンジニアが事実上複数の職務を兼任しています。

 一番スケジュールがハードで兼務の多い人は、営業兼プロジェクトリーダー兼アナリスト兼アーキテクト兼デザイナー兼プログラマー兼テスターでしょうか。人によってはプログラマーを兼任していない人がいたりしますが、1人1人すべての組み合わせを考えたらきりがありません。かくいう私もいくつかの職務を兼任しています。

 私が所属している部署は技術センターです。組織上、私の直属の上長は、営業職がメインの課長です。その上の上長は常務取締役です。一応部長もいるのですが、組織の基本は文鎮型で、プロジェクト単位でチームを組むことが多く、プロジェクトチームと会社組織とは一致しません。

 こうした規模や組織形態を持つソフトウェア会社は、それこそ数多くあり、そうした会社に勤務する多くのエンジニアも、私と同じように混とんとした中で仕事をしているのではないでしょうか。長々とこんな話を書いたのは、資格についてどう考えるかは、立場によって意見が異なることが多く、われわれのように複数の立場を兼任する者がこのことについて話すと、同じ文章の中で矛盾した話が出てくる可能性もあると思うからです。できるだけ立場を明らかにして話そうとは思いますが、あらかじめこの点はご了承ください。

資格を取得する理由

 資格取得のために学習に割く時間があるのであれば、その時間を別の仕事に使いたいと思うエンジニアは、何も私だけではないでしょう。歯に衣を着せずにいえば、資格は現場から見ればほとんど用をなしていないと思っています。

 最近の開発の多くは、個人ではなくチームで行われます。チームでは、資格の有無など議論されません。では、何をもってその人を評価し、何をもってそのチームでの役割を決めるのか? それは実績です。これまで、どんな仕事やどんなプロジェクトでどんな役割を演じてきたのかという実績です。

 開発チームを組むときに相手を選べるのであれば、私は、資格はあるが実績がない人よりも、実績があって資格がない人を選びます。もちろん、資格があって実績もあればいいのでしょうが、私の勤務先規模の会社ですと、役割の掛け持ちが多く、有能な人ほど資格取得のために割く時間がないのが実情です。そうなると実績を優先して人を評価することになります。

 また、チームでほかのメンバーと一緒に仕事をして思うのは、資格と実力がリンクしていることが少ないのではないかという点です。現場のエンジニアから見ると、「高資格を持っていても実力がない」人が目立ちます。「資格を持っていなくても超一流の実力者」は、もっと目立ちます。しかし、「資格を持っていなくて実力が(も)ない」ケースは、目立たないだけでかなり多そうです。そのため、私を含め多くのエンジニアは、「力を示せない資格のためにわざわざ時間をかけるのはばかばかしい」と思うわけです。さらに、自社内で開発チームを組む場合は、私の勤務先ぐらいの規模であれば、全員をある程度知っているわけで、実力は資格ではなく、肌で感じ取れるわけです。

協力会社の選択基準

 ここまでは、実力を測る手段があって、自分がエンジニアの立場である場合の話です。私は大企業のことは分かりませんが、60人ぐらいの会社である程度大がかりなプロジェクトを遂行しようとすると、どうしても外部の会社を活用する必要が出てきます。いわゆる外注、下請けなどのことです。私の勤務先では「協力会社」と呼んでいます。これは対等のパートナーとしてビジネスを進めていきたいということが背景にあるからだそうです。

 さて、この場合は、私の会社のエンジニアは、リーダーやマネージャを兼任する人が出てくることになります。そしてその人が協力会社に依頼する際に重視するものは、やはり実績だったりします。Java歴2年以上とか、××系のシステム経験がある人とか、あるいはもっと詳細に要求することもあります。しかし、資格の話はほとんどありません。

 これとは逆に、私の勤務先が協力会社になる場合もあります。この場合も実績重視の傾向は同じです。例えば、メンバーのスキルシートを提出する必要があるとき、協力を求められた企業の規定のスキルシートには、資格を書く欄がないことがままあります。基本的には「いつからいつまでどんなことをやったか」を重点的に記入していきます。

 そのような理由で、私はいまの勤務先にいる限り、あまり資格を重要視しませんし、資格が必要かどうかをイエスかノーかだけで答えろというのであれば、それはノーと答えることになるでしょう。

営業活動を有利にするための資格

 従業員の資格取得に力を入れている大手企業に出張すると、玄関などの従業員や顧客からよく見える場所に、「○△資格取得者×名」などのようなリストが掲示されています。おそらく、このことは従業員の啓発意識の高揚と、顧客の信頼獲得のために掲示してあるのでしょう。確かに掲示されている人数が多ければ玄関を通る顧客(将来の顧客も含め)は、その会社はきちんとしたソリューションを提供してくれそうだという印象を持つかもしれません。

 しかし、私は技術的な説明をするためにその企業に出向くことが多いので、このリストを、どの程度専門用語を使って説明してもいいかという指標に使うだけです。

 ソリューションプロバイダとして、資格は必要なのかどうかという点では、営業の段階で資格が売り物になるのであれば、取得した方がいいだろうと答えます。特に新規顧客に食い込む際には、業界の難関といわれているメジャーな資格を取得していることは、他社に対するアドバンテージになるでしょう。

 ただ、私がこれまで仕事を一緒にしてきた顧客は、資格よりも実績を重視するケースが多いようでした。このこともあって、やはり資格は必要ではないという意識を持っています。いや、正確にいえば、必要という意識を持っていないというべきでしょうか。

 しかし、これまでの実績が通用しないような(自分にとっての)まったく新しいパラダイムにチャレンジするプロジェクトに参画したい場合は、そのパラダイムに関連する資格を持っていることが武器になります。また、資格を持っているかどうかで採用を決める顧客がいる限り、資格が不要といい切ることは難しいですね。

資格で表せないノウハウ

 ところで、私は上記のような新パラダイムプロジェクトにかかわる人員をリクエストする際にも、やはり実績を重視します。では、実績がないプロジェクトを任せるために必要な実績とはどんなものでしょう。この業界の(どの業界でもそうかもしれませんが)先進プロジェクトは、ドキュメント化が不十分だったりほとんどドキュメント化されていないようなテクノロジを使用することが多くあります。

 そんなときは、通り一遍の正攻法で調査しても手掛かりが得られないことがあります。例えば、未知のコンポーネントやフレームワークの内部アーキテクチャをその動作から推測して仮説を立て、それを検証してみる場合などです。そのようなときにモノをいうのは、これまで、どんなふうに新しいテクノロジに対してチャレンジしてきたかという実績です。未知のものをわがものとするための知るためのノウハウ、身に付けるためのノウハウを、どれだけ持っているかということです。

客観的な判断基準としての資格の有用性

 否定的な話ばかりしてきましたが、そんな私でも資格を重視するときがあります。それは、学生を採用する場合の入社の際の考査です。なぜここで学生の採用が出てくるのかというと、これも会社規模の問題からでしょうか、10年も同じ会社にいると採用面接の担当官になることがあるのです。もちろん、私の意見だけで採用が決まるわけではありません。が、面接などの所見を書いて人事部に提出すると、それは採用検討資料とされるわけです。

 学生の方を評価するときは、実績で評価できない場合がほとんどです。もちろん、中には企業研修でプログラムを組んだことがあるという経験者もいますが、たいていは開発経験があるといっても、研究室でちょっと試験用のコードを書いたという程度です。ですから、こちらも学生に実績は求めません。求めるのは将来性です。新卒者の正社員採用というのは、高いコストをかけて成長させて使いモノになるようにすることを覚悟で行うものです。ですから、コストをかけただけ(できればコスト以上に)成長してくれる将来性に期待します。

 では、私が将来性を何で見るかというと、まずは適性を評価します。その次が戦闘意欲(と書いて、キアイと読んでください)です。冷たいようですが適性がない人は問題外にしています。学校とは違い、利潤を追求する営利企業では、意欲と適性がまったくリンクしていない人がいれば、当人も周囲の人も、さらに企業にとっても不幸です。むしろ適性のある仕事に意欲を持てるように努力した方が幸せになれることは経験的に知っています。

 適性の有無は試験である程度判別できますが、その判断指標の1つとして、資格取得できるかどうかという点を評価することもあります。適性試験ではあいまいな部分が、資格でデジタルに判断できるといえるでしょう。

 新卒に限らず、大手IT業界の求人では、資格必須の場合も増えてきました。エンジニアの転職はまったく珍しい話ではないので、転職を考えているエンジニアにとっては、資格は有利な転職のために必須だといえるかもしれません。いい仕事やいい企業との出合いのための資格というところでしょうか。

結果より過程

 資格は、能力を(偏ってはいるものの)客観的に示す指標として評価すれば、それなりに有用です。先ほど実績を重視といいながら矛盾していますが、客観評価としては資格が手軽で一応公平に評価できます。評価に足る資格を取るためには、それなりに能力や勉強が必要ですから、資格を持っているということは、関連する仕事に関して、少なくとも基本的な能力や知識はあると判断できますし、難関といわれる資格を持っている人ならば、才能に恵まれているか、努力家だという(またはその両方)、適性的な面での評価もできます。

 さらに、資格取得を目指す努力も否定しません。資格そのものよりも、むしろその過程で身に付けた知識や技能は、その人のものとなって必ず役立つはずです。資格取得を目指すエンジニアのメリットは、むしろこの部分かもしれません。せっかく勉強するなら体系づけてしっかりと理解したいものです。そうでなければ時間の無駄ですから。結果より過程などというのは、プロとして失格の感もありますけれども。結果は過程の積み重ねです。

 確かに結果がすべての世界に生きていますが、「啓発」に関しては、もうちょっとウェットに考えてもいいんじゃないかな、などと思います。資格が必要か否か、二択を迫られたなら私は否と答えますが、有用性も認めないわけではありません。大事なことは、評価する側と取得する側の価値観がそろっていることだと思います。

筆者紹介
田村貴夫ゲーム業界出身エンジニア。超有名RPGで技術屋として参加。業務システムに転向後も技術屋体質はそのままという。最近は勤務先で技術的な取りまとめを行っている。趣味はバイクだが、ビッグバイクを抜く250ccなどといった変に速いバイクが好きだと語る。

「リレーエッセイ エンジニアに資格は必要か?」



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