エンジニアが語るリレーエッセイ
エンジニアに資格は必要か?
第8回 資格を有効にする方法
株式会社クロノス
米山 学
2002/5/15
毎回さまざまな分野のエンジニアに、「エンジニアに資格は必要か?」をテーマに、自身の実体験などを織り交ぜて語っていただく。エンジニアの“生”の声を紹介する月刊リレーエッセイ。今回は、エンジニアとして勤務した後、現在はJavaやOracleなどを教える講師となった米山学氏が、その立場から資格についての考えを紹介する。 |
■資格を生かせるか?
私は開発現場でプログラマ、SEとしての経験を経た後、ここ1、2年はもっぱらIT技術の教育・研修に携わっている。そこで本稿では、資格取得の意義を教育の観点を交えて論じてみたい。
まず、「エンジニアに資格は必要か?」という問い掛けに対しては、「どのようにしてエンジニアが資格を自分のために生かすか?」という結論を導き出すことなしには答えることはできないだろう。つまり、せっかく資格を取得したとしても、その資格を生かすことができなければ、エンジニアにとって資格は不要なものであり、逆に資格を生かすことができるのであれば、エンジニアにとって資格は必要不可欠なものとなるのではないだろうか。では、いったいどのようにして資格を生かしていけばよいのか?
■資格を生かす手段
1つ目は、純粋に技術あるいは基礎知識を身に付けるための勉強としての資格取得である。何らかの資格を取得するための勉強をした経験がある人は分かると思うが、自分がある程度その分野で仕事をしていたとしても、知らなかったことが結構あることに気付かされる。要するに、資格取得の勉強をすることで、それまで知らなかったことや、知ってはいたがあいまいに理解していたことなどをしっかりと身に付けることができる。それによって仕事を、より効率的かつ正確にこなすことができるようになる可能性がある。
2つ目は、自分のポジションを少しでも有利に展開させる手段としての資格取得である。ポジションを有利に展開させるとは、例えば、現在の地位よりも高い地位へ昇進する、就職あるいは転職の際により良い条件で採用してもらうことなどが挙げられるだろう。あるいは営業、提案、新しいプロジェクトのミーティングなどで初対面のお客さんや、エンジニア、プロジェクト・マネージャなどの人たちと対面するときに、資格のロゴの入った名刺を差し出すことで、多少なりとも優位に話を進めることができる可能性もある。
資格取得によって自分自身の技術スキルを向上させ、効率良く仕事を進めることができる。それによって顧客や上司、同僚からの信頼を得ることは資格を生かしているといえないだろうか? あるいは資格取得によって、現状より条件の良い会社に就職することができ、高い地位や高い収入を得ることができれば、それは資格を生かしているといえないだろうか?
もし、資格取得によってそれらが実現できるなら、「エンジニアにとって資格は必要である」といえるかもしれない。
■教育と資格
IT技術の教育という観点からの資格取得という行為は、先に述べた通常のエンジニアの場合よりも大きな意味を持つと考えている。多くの人々が提唱する「教科書で学んだ机上の知識よりも、実際の開発現場での実務経験が大切」ということを否定するつもりはないが、これから初めて開発現場に出て行こうとする未経験の人たちや、実務経験の少ないビギナー・エンジニアの人たちにとっては、「実際の開発現場での実務経験」といわれても、まったく未知の世界あるいは不安だらけの世界であり、資格の取得ということが、何とかその不安をぬぐうための大きなよりどころの1つとなってくる。
また、単純に勉強をするよりも、具体的な形として結果の出る「資格の取得」は彼らにとって1つの目標となり、やる気の促進やモチベーションの維持という意味でも非常に大きな役割を果たすことになる。そういったことから私は常に、研修を受ける彼らに資格の取得を目標として持つことを勧めている。
資格取得の際に勉強した細かい部分を、試験を受けて合格した後に忘れても、まったく問題ではない。大事なことは、実際の開発で何らかの問題にぶつかったときに、「そういえば、この辺のことを勉強したな」と思い出すことである。そうやって思い出すことによって、問題にぶつかったときに解決に要する時間は、その辺の知識がまったく何もない人に比べて格段に早くなるだろう。ご存じのとおり、資格取得のために勉強する内容は、ひょっとしたらまったく実際の開発には必要がないかもしれないようなことも含まれている。しかし、そのほとんど使うことがないような知識が、頭の片隅にあるのとないのとでは大きな差が出ることもある。そして、資格取得のための教本は、そのポイントを押さえた詳細さと、体系付けられた構成から、資格取得を目標としない同様の技術本よりも役に立つことが結構あるのだ。
■資格を否定するエンジニア
資格に関しては、「資格は持っているが実際に仕事をやらせたらほとんど役に立たない」とか、「資格は何の役にも立たないし、そんなものにはまったく興味がない」「技術は、実際に仕事で経験して身に付けるもの」といったことがよくいわれる。こうした昔の職人かたぎのようなことをいっているエンジニアに限って、新しい技術を取り入れようとせず、柔軟な思考を持っていない、といったことがある。実際に筆者の周囲にもそうしたエンジニアがたくさん存在する。彼らに共通して見られる特徴は、向上心がなく、物事を決め付けて判断するような傾向があるのではないだろうか。あるいは、自分の経験で築いてきた知識を試されるのが怖いのかもしれない。
最後に、ここまでは「エンジニアに資格は必要か?」ということを堅苦しく論じてきたが、実際には私は資格取得の是非をそんなに小難しいものとしてとらえているわけではない。やっていることは、知識に対しての探究心や興味、それと同時に、何かにチャレンジしてそれをクリアしていくという単純明快な面白さ、ひょっとしたらただそれだけかもしれない。しかしながら、自分自身の“エンジニア・ライフ”を振り返ったときに、取得した数多くの資格が、あらゆる意味で大きく役に立ってきたことは事実である。そういったわけで皆さんにもぜひ、興味と向上心を持って資格取得を楽しんでほしい。
筆者紹介 |
米山学■株式会社クロノス専務取締役。独学でプログラム、データベース技術などを習得し、プログラマ、SEを経て、現在は企業やコンピュータ・スクール、大学などでJava、OracleなどWeb系開発技術全般を教える講師業をメインに活動中。現在の保有資格は、MCSE、ORACLE MASTER Platinum、Sun Certified Programmer for Java 2 Platform、LPI-1。 |
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