Oracle 10g対応のORACLE MASTERとは?

加山恵美
2004/12/3

 Oracle Database 10gの出荷に伴い、ORACLE MASTERも10gに対応した資格制度が発表された。今回の発表による大きな変化は、Bronzeという新しい資格が登場したことだ。Bronzeとはどんな資格か、なぜBronzeという資格が必要となったのか、Oracle MASTER Silver Fellowとの違いは何か、資格の移行や資格試験の変更は? 誰もが気になるポイントを解説する。

2003年の資格制度の改定

 「資格制度それ自体は、頻繁に改定して話題を呼ぶべきものではない……」

 日本オラクル オラクルユニバーシティの北岡博史氏は苦笑する。この言葉は、2003年6月に発表したORACLE MASTERの大改定を指してのもの。昨年の苦悩が透けて見えるようだ。「粛々と類推可能な改定を重ねることが本来あるべき姿です」と北岡氏は続ける。

 確かに昨年2003年10月に実施したORACLE MASTER資格制度は大改定となった。グローバルな制度の資格であるOracle Certification Programに基準をそろえようとしたのだから無理もない。2003年の改定ポイントを簡単にまとめると、グローバル制度に日本のORACLE MASTERの資格制度を合わせることにあった(図1)。

図1 2003年の改定ポイントは、図の一番左の2003年までの体系から図の真ん中の2003年10月以降の体系へと変更したことで、図の右にあるオラクルがグローバルで展開している資格制度Oracle Certification Programと整合性を合わせることにあった(画面をクリックすると拡大表示されます)

 さらに日本では、Silverとしてそれまで認定していた資格が制度改定によってなくなったため(Oracle入門とSQLの2科目の試験合格者)、日本独自にSilver Fellowなる合格証明を発行することになった(ただし、申請があった合格者に対してのみ発行)。

 このように見ても、2003年の改定が大改定というのもうなずける。

参考記事
データベースエンジニア必見 ORACLE MASTERはこう変わる!

今回の改定の目的は?

 「ですが、今回は大改定ではありません」と北岡氏は断言する。

 そうはいっても、1つだけトピックを挙げるとすれば、それはORACLE MASTER Bronzeが追加されたことだろう。Bronzeの追加は10gの製品戦略を考えると納得がいく。

 これまでOracle Databaseというと「高価、難しい、(インストール作業や設定などが大変で)すぐには使えない」といったイメージがあった。それを払しょくすべく、より優しく、より楽に、という印象を定着させたいとの思惑がオラクルにある。インストールを終了させるだけでも大変な作業、という時代はもう終わったのだということを証明するため、2003年12月のOracleWorld Tokyoでは、ガッツ石松氏とサルがOracle Database 10gのインストール作業を行う、といったデモも披露した。

 そうした10gの容易さを訴える最大のポイントは、GUIのOracle Enterprise Manager(OEM)だ。OEMを活用することで、運用管理の手間を大幅に省くことができる。

シルバーの手前にブロンズ登場

 OEMを利用することで運用管理の手間を省けるのであれば、OEMを活用した運用管理者の入門レベルの認定資格もあるべきでは、と日本オラクルは考えた。つまり10gの製品戦略と資格との整合性を持たせるということだ。10gで実現可能な「より簡単な運用」を資格として認定するには、これまでのPlatinum、Gold、Silverでいえば、Silverに含めるのが一番単純だが、それでは入門レベル、という考えが反映されず意味がない。

 では、Silver Fellowがその受け皿になるかといえば、それも厳しい。なぜなら、Silver Fellowはバージョンに限定されていないし、資格ではないからだ。

 さらに、これまでORACLE MASTERが想定していた環境とは異なる、という点もある。10gは中小企業(SMB)市場への導入にも最適だとオラクルは訴えている。つまり、そうした環境に適したデータベース運用管理者が必要になる。そのための人材育成、新たな資格レベルが必要になるからだ。

 こうした背景から、Silverの前段階に資格を設ける必要が生じた。金、銀に続くのだから銅ということなのか、名称はBronzeとなった(図2)。ただし、現時点ではBronzeは日本のみの資格となる。とはいっても、グローバルな資格制度と再度ズレが生じるのではという心配は無用だ。日本で先行導入し、その実績によってグローバルでも導入される見込みだ。

図2 Oracle9iまでは基本的に3段階であったが、Oracle 10gで4段階の資格制度となった

SQLを知らないデータベース管理者は想像できない

 こうしてSilverよりも1段階敷居の低いBronze資格が登場した。だが制定過程では認定要件にSQLを含めるかどうかで悩んだそうだ。確かに10gの運用管理では、大抵のことはOEMでこなせることになっている。SQLの知識はなくても何とかなるはずだ。だがしかし、そういわれてもどこか釈然としない。

 「中小企業のデータベース管理者がSQLを頑張って勉強する姿は想像し難いですが、データベース管理者がSQLを知らないとなると(エンジニアとしては)より想像し難いのでは」と北岡氏。もっともである。やはりデータベース管理者たる者、SQLのたしなみは身に付けておいてもらいたいという暗黙の常識が多数を占めるのではないだろうか。

 例えが適切ではないかもしれないが、プロの写真家とカメラのオートフォーカス機能や自動露出機能のようなものだろうか。プロの写真家でもフォーカスや露出をカメラに任せて写真を撮影することは可能だ。だが、プロの写真家が手動でカメラを操作する確かな技能がないというのは考えられない……。何にせよ、データベース管理者の認定試験にSQLがどこまで必須かは、今後も検討される課題になるだろう。

「ビジネスは成長する、だからOracle」

 SMBにおける技術者育成についてもう少し詳しく話を伺った。SMBがOracle Databaseを導入する背景について北岡氏は、「業務がフラットな表のデータベースで十分なら、もっと簡易なデータベースもあります。しかし、最初はシンプルで小規模でも、ビジネスは成長します。規模は大きくなり、業務要件は複雑化します。Oracle Databaseを導入する背景にはビジネスの成長を見越したビジョンが必ずあるはずです。なぜなら、データの規模が拡大すれば拡張性も堅牢性も必要となります。だからOracle Databaseという選択になるのです」と語る。

 だが導入しただけでは最大の効果が得られないと北岡氏は続けて指摘する。「社外の業者や誰かがインストールしてくれたOracleをただ使うとか、社内では誰も中身を知らないままでは、ビジネスがせっかく規模拡大できても機能拡張が滞ります。それではOracleの真価は発揮できません。あまりにもったいない」

 つまり、より効率的にOracleを活用してもらうためには、SMBの現場にいる運用管理者の知識蓄積が必要だとオラクルは考える。今回新登場のBronzeにはこうした背景が色濃く反映されている。Bronzeの取得者はSMBにおける運用管理者を想定しており、そのレベルにふさわしいものとして検討された。

 ただし「簡単に」しただけではない。データベース管理者としての第一歩としてふさわしいかどうかも大事だ。Silverよりも少し敷居を低くして、最初の一歩を踏み出しやすいようにする。そしてステップアップしやすいように、という配慮がある()。

認定資格
対応試験
ORACLE MASTER Bronze Database 10g Bronze DBA10g(テスト番号1Z0-041J)
Bronze SQL基礎 I(テスト番号1Z0-017J)
ORACLE MASTER Silver Database 10g Silver DBA 10g(テスト番号 未定)
ORACLE MASTER Gold Database 10g Gold DBA 10g(テスト番号 未定)
ORACLE MASTER Platinum Database 10g 未定

Silver Fellowは通過点

 今回の制度改定で悩むのはSilver Fellowの立場だろう。FellowがBronzeになったのか。いや、そうではない。先述したようにSilver Fellowはバージョンに限定されない資格であり、資格ではない。Bronzeとは10g(またはそれ以降)の試験に合格した際に取得が可能な資格だ。だからSilver FellowとBronzeは性質も難易度も異なる。

 ではBronzeの登場で今後Fellowは消滅するのか。いや、そうとも思えない。Fellowは「SQL」と「オラクル入門」の2科目に合格すればいい。どちらもバージョンに限定されない基礎知識を問う試験がなくならない限り、Silver Fellowは存続するはずだ。それでもSilverやBronzeとの混乱を避けるため、もしかしたらSilver Fellowという表現ではなく、ただのFellowという表現になるのかもしれないと筆者は想像するが……。

 去年の制度改定以降の受験者動向を見ると、Silver Fellowで留まる人はあまりいないそうだ。あれほどの制度改定であってもORACLE MASTERの試験の受験者数は微増程度で大きな変化はなかった。多くの受験者は制度改定に動じることなく、淡々と試験を受験している。多くのORACLE MASTER受験者はSilver Fellowを通過点と見て、あくまでORACLE MASTERの価値はSilver以降の資格だと見通しているのだろう。

移行はどうなる?

 次に移行がどうなるか、それぞれのグレードごとに説明していこう。詳しくはオラクルのWebページ「ORACLE MASTER Oracle Database 10g 資格のアップグレード」を参考にしてほしい。

Silver Fellow → Bronze Oracle Database 10g
Silver Fellowの場合、「SQL基礎」は取得しているので、「Bronze DBA 10g」(実施済み)が必要となる

Silver Oracle9i Database → Silver Oracle Database 10g
移行試験「Silver DBA 10g」(12月中旬開催予定)が必要

Gold Oracle9i Database → Gold Oracle Database 10g
移行試験「DBA 10g 新機能」(実施済み)が必要。この試験は10gの新機能を重点的に問うもので、ほかの移行試験とはやや性質が異なる

Platinum Oracle9i Database → Platinum Oracle Database 10g
来年以降実施予定か。現在のところ未定

 Silver Fellowは資格ではないと述べたとおり、Silver FellowからBronze Oracle Database 10gは厳密にいえば移行と呼べるか微妙である。実際にBronze DBA 10g試験はOEMと10gの新機能知識が必要となるので、Silver Fellowの試験よりは難易度が高い。だがあえて移行と考えるなら新規取得に比べて1科目免除されるといえる。

 そのほかにも移行パスはある。各バージョンの資格からORACLE MASTER Oracle Database 10gへの移行パスがオラクルのWebサイトで紹介されているので、興味のある人は確認してほしい。移行試験の機会を逃してしまった人や10gの資格が開始されたことを機に最新バージョンへの移行を検討されている人(バージョンが8や8iなどの時点でORACLE MASTERを取得した人)には朗報だ。ただし、8iの試験は今年いっぱいで終了するため、「Oracle8i新機能(#1Z0-020)」も終了となるので気を付けよう。

  • Oracle8からOracle8i Platinumへ(Oracle8i新機能:#1Z0-020)
  • Oracle8iからOracle9i Goldへ(Oracle9i 新機能:#1Z0-030)
  • Oracle7.3および8PlatinumからOracle9i Goldへ(Oracle9i 新機能:#1Z0-035)

 日本では海外に比べて移行試験はあまり人気がないという。一度資格を取ると満足してしまうか、もう必要ないと思ってしまうのか。または業務が忙しくてそれどころではないのか。理由は人それぞれだとは思うが、日本ではORACLE MASTERの受験者は新規に受験する人が占める割合が高いという。

 移行試験を受けなくても実務では新しいバージョンを使っているのかもしれないが、移行試験を受けないことによって新しい機能が正しく周知されていない可能性があることが、北岡氏には気掛かりだそうだ。「Oracleは新しいバージョンになるごとに確実に進化しています。例えば運用管理のワークロードは10から2に減っていることもあります。こうしたことはぜひ伝えたいし、伝える責務があると私たちは感じています」

 加えて、ORACLE MASTER対策のeラーニング教材であるオンラインライブラリでは、10g試験への対応は秋以降を予定しているという。早速9月からはBronzeの資格取得条件の1つである「BronzeDBA 試験」の対応コースである「Oracle Database 10g 管理 クィック・スタート」が登場するなど10g対応が始まっている。

 北岡氏は「現時点でSilver Fellowの方で、今後ORACLE MASTER Silver Oracle Database 10g以降の上位資格の取得を検討されている人には、Bronze DBA 10g試験を受けてもらい、その後上位資格を目指すことをお勧めします」とアドバイスしている。

Platinum取得者のいまとこれから

 さて最後はPlatinum試験に言及しておこう。2003年12月より9iのPlatinum試験が開始された。最初の合格者3名はオラクルWebサイトや雑誌に体験談が掲載されたりした。現在は全世界では約100名の認定者を出している。約半分を北米勢が占めているものの、日本も18名の合格者を出した(2004年8月現在)。

 Platinum Oracle9i Database試験は2日間の実技試験である。至高のデータベース管理者を想定した試験だけあり、それはそれは忙しいらしい。キーボードを打つ手は止まることがないそうだ。それこそ「問題を見た瞬間にcreate tableを書き始める」ほどの俊敏さが求められる。

 10gのPlatinumについては、現在どのような試験になるかは未定だ。しかし、現時点で日本国内の取得者が18名、全世界でもわずか100名しか存在しない最高峰の資格だからこそ、現場で実際に利用している9iのバージョンである現在の9iの資格から取得してもいいだろう。

 10gという製品は運用する労力を軽減できるのがアピールポイントである。運用労力が減った製品の最高峰の技術認定試験RACLE MASTER Platinum Oracle Database 10gでは何が問われるのか、何が判定基準とされるのか。ただひたすら手を動かすというよりは、データベースの全般的な奥深い知識が必要となるのだろうか。10gのPlatinum試験は来年以降に明らかになりそうだが、10gを極める資格とはどんなものになるのか興味は尽きない。

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