SEのコミュニケーション力アップ宣言

有限会社NTX 野口和裕
2006/6/1

コミュニケーションって何だ?

 これからのシステムエンジニア(SE)に必要なスキルは何でしょうか。そう、コミュニケーション力です。100人のSEに尋ねると、きっと80人はそういうでしょう。いや、たぶん。

 このように、誰もが必要性を認めるSEの必須スキル、それがコミュニケーション力。しかし、コミュニケーションっていったい何だ?

 インターネットで調べてみました。すると、コミュニケーションの訳は「情報伝達」「意思疎通」「人間関係」といろいろとありました。中には「相手の意欲を引き出す」というようなものもありました。

 つまり、これほどまでに必要とされていながら、実ははっきりとした定義が共有されていないということなのです。びっくりですよね。

 コミュニケーション力の必要性を力説する前に、まずはコミュニケーションとは何であるかをみんなで考えてみる必要があると思います。でないと、コミュニケーションといいつつ、皆バラバラのことをいっているかもしれないですよね。

 さて、ここで私のコミュニケーションの定義を紹介したいと思います。私は「人と人がお互いの考えや気持ちなどの情報を伝え合い、理解し合うこと」だと認識しています。

 つまり、考えと気持ち、この2つを互いに伝え合うことなのです。

 考えというのは、話の筋道になります。つまり論理です。例えば「プロジェクトの納期を守るのは難しい、その理由は残作業に対して作業人員が不足しているから」という筋道です。

 プロジェクトの納期を守るのは難しい、という主張があって、残作業に対して作業人員が不足しているから、という主張の根拠があります。根拠が飛躍してなくて説得力があれば、それは論理的な話といえます。

 気持ちというのは、感情です。例えば「悲しい」「うれしい」「寂しい」「楽しい」など、自分が感じていることです。双方向に、これらの考え(論理)と気持ち(感情)を伝え合うこと、それがコミュニケーションです。

考え(論理)と気持ち(感情)

 相手の考えを聞き、自分の考えを伝え、相手の気持ちを理解し、自分の気持ちを伝える。双方向に考えと気持ちを伝え合うこと、考えと気持ちの2セットというのがポイントです。

 論理だけを伝え合ってもギスギスします。いくら話の筋道が通って正論であったとしても、何となく納得できないという経験はありませんか。論理的な会話というのは、ディベートに代表されるように勝ち負けをはっきりさせる討論では大切ですが、日常、そういうケースばかりではないですよね。

 また、感情だけでも正確な状況は伝わりません。好きだから好き、嫌だから嫌。色恋ごとでは許せても、仕事となると感情だけでは済まされません。主張の根拠がはっきりしていなければ、相手を説得することができないからです。

 コミュニケーションは考え(論理)と気持ち(感情)を、時と場合に応じてバランスをとって伝え合うことが大切です。

 例で考えてみましょう。上司に納期が守れないことを報告する例です。

(1)考えだけの例
  納期はどうしても守れそうにありません、その理由は、残作業に対して現在の人員が少ないからです。
  ・上司→それは確かにそうかもしれないが、何か他人事のように聞こえるなぁ。

(2)気持ちだけの例
  納期はどうしても守れそうにありません、私はリーダーとして、いまどうすればよいのか不安を感じています。
  ・上司→不安な気持ちは分かるが、なぜ納期がどうしても守ることができないのか、根拠が分からないよ。

(3)考えと気持ちがセットの例
  納期はどうしても守れそうにありません、その理由は、残作業に対して現在の人員が少ないからです。
  私はリーダーとして、いまどうすればよいのか不安を感じています。
  ・上司→よし、分かった。安心できるように手を打とう!

 いかがでしょうか。3番目の例は、報告している部下の状況がリアルに感じ取れたのではないでしょうか。

よいコミュニケーション力を身に付けるには

 では、どうしたらうまくコミュニケーションをすることができるのでしょうか。

 考え(論理)の部分はSEの得意分野だと思いますので、今回は気持ちを伝え合うことについて考えてみたいと思います。

 ここで、私の失敗談を紹介しましょう。私はコミュニケーションのコツを、いまはやりのコーチングに求めました。

 コーチングを学ぶと、最初にでてくるのが傾聴のスキル、つまり話を聴くことです。

 ある日、私は若いSEと話をする機会がありました。コーチングで学んだテクニックを駆使して、彼の話をじっくり聴いてみました。若いSEは思う存分話をしているように見えました、そして私自身も相手の気持ちをよく聴いたと満足していたときです。最後に彼がひと言、「今日は何だか、探られているように感じました」。

 なぜでしょうか。テクニックだけでなく、誠心誠意話を聞いていたと思っていたのですが。彼の言葉はグサリと私の心に突き刺さりました。私の傾聴は、事情聴取になっていたのです!

素直なコミュニケーション

 そんなことがあった後、今度は初対面の人と話をする機会がありました。初めて会ったのに不思議と話が弾み、気が付けば、自分の内面までその人に話しているのに気がつきました。

 何だか互いの距離が縮んだようで楽しい感じ。これがコミュニケーション? 何が自分の中に起こっているのだろうか。ゆっくり心の中を見つめ直して気付きました。話が弾んだのは、相手の態度にあったのです。

 相手の方が、自分自身の内面を素直に話してくれていたのです。それにつられて気が付いたら自分も内面(気持ち)を素直に話し、結果として深いコミュニケーションになっていたのです。コミュニケーションのコツは、よろいを脱ぐこと、つまり自分自身を素直に開示することなのです。

コミュニケーションの名人、西郷隆盛?

 幕末、西郷隆盛は江戸城明け渡しを求め敵の陣中(江戸城)に、たった1人で乗り込んだそうです。彼のこの勇気ある態度には勝海舟も誠意をもって応じざるを得なかったそうです。

 人の話(本心)を聞くためには、心を開いてもらう必要があります。そして心を開いてもらうためには、まずこちらから心を開くことが大切なのです。

 ふと思い返すと、これまでの経験の中でうまくいったコミュニケーションは自分自身の気持ちを素直に話したときでした。

 新入社員のとき、新人研修の一環として営業をしたことがあります。私は初対面の人と話すのが苦手で、営業に行っても片っ端から門前払いされ、すっかりしょぼくれていました。そんなとき、たまたま話を聞いていただいたお客さまに、初対面の人と話す自信がなくて、つらい心の内を打ち明けると、お客さまは私の気持ちに共感してくださり、何と契約までしてくださったのです。

 皆さんも、そんな経験ありませんか。

 私たちはSEであり、会社員である。でもその前に感情のある人間です。その人が一人の人間であると感じられたときに、本当のコミュニケーションが始まるのだと思います。

ビジネスに感情は不要か?

 ビジネスは利益を出すことが目的、ビジネスに感情なんて不要、そういわれる人もいます。

 しかし、それがいつしか自分の責任範囲でしか情報を伝え合わなくなり、結果として大きな問題を引き起こすのではないでしょうか。

 感情は大切な情報なのです。

 コミュニケーションを織物に例えると、縦糸が考え(論理)、横糸が気持ち(感情)です。織物を編むように、縦糸(論理)と横糸(感情)を相手とともに編んでいく。それが真のコミュニケーションです。

 そして、相手の気持ちを聞く前に、まず自分の気持ちを勇気をもって伝えていくのが第一歩です。

 さあ、心と心のコミュニケーションを始めてビジネスを楽しくしていきましょう!

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