データベースエンジニアを目指せ!

データベースコンサルタントへの道

下玉利尚明
2003/4/9

データベースコンサルタントといっても、名称と仕事の内容は、企業によって千差万別かもしれない。ここでは、サイベースにおけるデータベースコンサルタントを例として、そこに至る道、データベースのスキルやキャリアを上げる道を紹介したい。コンサルタントを目指していなくても、多くのエンジニアの参考になるだろう。

  企業の「困った」を解決

サイベースのプロフェッショナルサービス部 シニアコンサルタントの杉田公紀氏

 データベースコンサルタントと呼ばれるスペシャリストがいる。顧客となる企業に出向き、データベースの導入から運用の提案までを手掛けるエンジニアで、時には客先でトレーニングのインストラクタにもなる。サイベースのプロフェッショナルサービス部 シニアコンサルタントの杉田公紀氏は、こうしたデータベースなどを扱うコンサルタントである。

 まず、杉田氏の通常の業務を紹介しよう。杉田氏が所属しているサイベースのプロフェッショナルサービス部は、サイベースのデータベース製品、レプリケーションサーバ、ミドルウェアの導入を検討している金融、流通、サービス業などの各企業、それらの製品を使って開発を手掛けている企業と契約し、スポット、あるいは長期にわたって、契約した企業の「困った」を解決する部署である。

  顧客ニーズの変化

 その中で杉田氏は、主にコンサルタント業務を担当している。「最も多い依頼は、パフォーマンスチューニングです。速度をいかにアップするか。それ以外には、データベースアドミニストレータのいない企業で、管理・運用を行い、その内容をレクチャーしたり、依頼があればデータベースの設計を手掛けることもあります」。パフォーマンスの向上から運用・管理、データベース設計までと、守備範囲は広く、それだけに幅広い知識とスキルが要求される。

 業務の比率としては、チューニングと導入がともに4割、設計と運用・管理が2割程度だという。システム開発の一連の流れでは、まず、顧客が何を実現したいかを聞き出し、それを可能にするために使用するハードウェアやソフトウェアの構成を決め、その後に開発に入るというパターンが一般的である。杉田氏の担当するプロフェッショナルサービス部では、「お客さまの要求、利用するハードウェアやソフトウェアが決定した後の開発の工程を手掛けます。どれだけ短時間で目標を達成できるかが勝負です」。業務の範囲でいえば、要求を聞き出し、ハードウェア、ソフトウェアの構成を決めるという業務よりも狭くはなるようだが、開発に要する時間と効率が問題となるので、より深い知識が求められるといえるだろう。

  求められるスキル

杉田氏は、データベースの知識のほか、ネットワークやハードウェアの知識が重要だという

 それでは、具体的にどのような知識やスキルが求められているのだろうか。「データベースのパフォーマンスをアップさせようとなると、データベースそのものだけでなく、ネットワークやハードウェアも絡んできます」と杉田氏は語る。つまり、データベースの知識のほか、ネットワークやハードウェアの知識が重要になる。

 データベースの設計そのものが問題となる場合がある。「データベースの作り替えには、時間もコストもかかり、リスクもあります。そのため、データベースを設計し直すところから進めた方がいいのか、パフォーマンスチューニングを実施した方がいいのか、慎重に見極める必要があります。そこでは、ネットワークやハードウェアに関する深い知識が必要になるのです」(杉田氏)。

 ただ、現在は以前と比べて低価格でハイスペックなCPUやメモリなどを購入することができ、ハードウェアに追加しやすい。手っ取り早くハードウェアを増強することで、パフォーマンスを高めることも可能である。しかし、杉田氏は「安易な解決策は本当の解決にはならない」といい切る。「CPUを増やしても、それぞれのCPUが最適に設定されていなければ、パフォーマンスは思ったようには向上しません。データベース、ディスクやネットワークなどを含めたI/O、そしてCPUの3方向で原因を解明していく視点が必要です。そのために、データベースの構造はもちろん、ハードウェア、ネットウークの深い知識が重要になるのです」

  現場で身に付けた知識とスキル

 こうしたチューニングなどの検証は、通常顧客企業に出向いて行うため、コミュニケーションの能力も求められる。「技術に特化した知識とスキルだけでなく、お客さまに本当に満足していただくためには、コミュニケーションの能力も重要です」

 杉田氏は、データベースコンサルタントとして必要な知識、スキルを「現場で経験を積みながら吸収した」と、実践を通じて身に付けたという。しかも杉田氏は、何らかの問題を解決したり、外部のトレーニングに参加して新たな知識やスキルを習得したりすると、社内で自らがトレーニング講師となってレクチャーすることで、その理解を強固にしたという。

 何らかの形でデータベース関連業務に携わっているエンジニアであれば、現場での実践を通じて必要となる知識やスキルを身に付けることは可能だろう。しかし、これからデータベースを勉強しようという人には、それは難しい(難しいと書いたのは、部署異動などで可能となる人もいるからだ)。

  最初は言語の学習から

コンピュータの知識がまったくなかったと、笑いながら語ってくれた杉田氏

 そこで杉田氏に、現場で活躍する前にデータベースの基礎をどのように学習したのかを尋ねた。「エンジニアになる前は、コンピュータ知識もなかったのですが、C言語の勉強から始めました。言語は何でもいいと思いますが、いまから始めるのでしたらJavaでしょうか。何か1つの言語でいいから、とにかく徹底的に習得し堪能になることが必要だと思います。データベースもプログラムなのです。『どうして動くのか、どう動いているのか』を理解するためにも、言語の知識は必要です」

 データベースの学習については、「多種多様なデータベースがありますが、基本は同じです。まず、データベースの構造自体を把握すること。データベースがどのようなもので、それがプラットフォーム、ハードウェアによってどのように動かされているのかを理解すべきです。その次には、ネットワークなど周辺の技術へと学習の幅を広げていけばいいと思います」という。

 もちろん、データベースだけでシステムが成立しているわけではない。Webサーバ、アプリケーションサーバ、レプリケーションサーバなどの知識も重要になる。「この中でどれか1つでも深く知っておけば、それがエンジニアとしての武器になると思います」。杉田氏は現在でも、例えば「今月は新しいOSの新機能について理解を深めよう」といったように、自分のテーマを決めて専門書を読んだり、トレーニングに参加するなどして知識とスキルに磨きをかけるべく、努力するようにしているという。

  今後の課題

 では、データベースコンサルタントの第一線で活躍する杉田氏に、自身の今後の課題を尋ねると、「いまよりももっと深い業務知識を身に付けること」という答えが返ってきた。現在は金融業界がメインだが、その業務知識も「客先での運用など、業務を通じて現場で吸収する」ことが多いという。

 もともとデータベースが大の苦手だったという杉田氏は、最後に次のように語った。「実際にお客さまと契約し業務に携わる場合、お客さまが『本当に困っている』ケースがほとんどです。ですから、私どもはそれに応えるため、どうしても結果を出す必要があるのです。データベースのパフォーマンスの向上などは大前提です。プレッシャーもありますが、そのプレッシャーを楽しみに変えることのできる人にデータベースエンジニアは向いているかもしれません。データベースは広く普及し、ネットワークやセキュリティと同様に、どんなシステムにも不可欠です。それだけに、重要でやりがいのある分野だと思いますよ」

  お薦め書籍

 それでは杉田氏に、お薦めの書籍を紹介しよう。

   データベースの基礎から今後の展望まで分かる1冊

 リレーショナル型システムを中心に、データベースの理論的な基礎から今後の展望までが解説されている。新たに注目され、普及しているオブジェクト指向のデータベースについても詳細に解説されている。まさにデータベースに関する広範なテーマを網羅した1冊で、900ページ以上もある。

杉田氏:「分厚い専門書のため、私自身もすべてを読破しているわけではありません(笑)。データベースに関することをほぼ網羅しているので、リファレンスとして利用しています」

データベースシステム概論

C.J.Date著、藤原譲監訳
丸善
1997年3月
ISBN4-621-04276-9
1万8000円(税別)

   初心者でも基礎から高度な知識までを学べる

 データベース管理システム(DBMS)の基本となる概念や関連知識について、初心者や専門外の読者でも面白く読めるのが魅力的な1冊。しかも高度な内容までを網羅し、分かりやすく工夫された解説書。

杉田氏:「私が一番初めにデータベースを勉強するために購入した書籍です。データベースの基礎について、エンジニアでなくても、データベースの知識がなくても理解できるほどに分かりやすく書かれています。初心者にお薦めです」

データベースおもしろ講座

飯沢篤志、白田由香里著
共立出版
1993年4月
ISBN4-320-02640-3
2800円(税別)

   これからリレーショナルデータベースを学ぶ人に

 データベースとは何かからリレーショナルデータベースの意義、分散型データベースシステムまで、リレーショナルデータベースについて詳細に解説されている。これからデータベースを学ぼうとする人に適した1冊だ(なお、杉田氏に紹介していただいたのは旧版。写真も旧版だが、購入できるのは新版)。

杉田氏:「エンジニア向けのリレーショナルデータベースの入門書。データベースに関する基礎知識がある程度必要かもしれません。リファレンスとして活用しています」

リレーショナルデータベース入門 データモデル・SQL・管理システム 新訂版(Information & computing 43)

増永良文著
サイエンス社
2003年1月
ISBN4-7819-1024-6
2600円(税別)


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