@ITで学ぶネットワーク技術 基本編

ネットワークの基本を学ぶ

@ITで学ぶネットワーク技術 基本編

鈴木淳也
2004/7/30

 以前筆者が書いた記事(「いまネットワークで求められる技術とは」)では、ネットワークエンジニアの職業について、ネットワークの分野での技術トレンドやその位置付けを紹介しました。今回は、ネットワーク技術をより具体的に分類し、いかにそれらをマスターするのか、そのコツについて解説します。

TCP/IPのファースト・ステップ

 TCP/IPをより深く知るためには、まずは動作のメカニズムをよく理解することから始めます。覚えることはたくさんありますが、そのすべてを知らなくても、メカニズムを理解しておくことで、応用分野を含むIPネットワーク技術の全体像が簡単に理解できるようになるのです。例えば、TCP/IPのデータ伝送の最小単位であるパケットには、それぞれパケット自身の配送をコントロールするためのヘッダが付与されています。ヘッダにはさまざまな情報が記されていて、その構造は複雑です。しかも拡張ヘッダと呼ばれる概念があるため、より複雑なものとなっているのです。

 しかし、TCP/IPを理解する過程において、それらをすべて覚える必要はありません。ヘッダに関していえば、送信元のIPアドレスと送信先のIPアドレスが含まれていて、それを基にパケットの配信が行われていることが分かっていれば十分なのです。細かい数値や概念を覚えるよりも、まずは全体像を把握することから始めましょう。

●TCP/IPのメカニズムを理解する
  ここ10年ほどの間に、TCP/IPは大々的な普及を遂げました。その理由の1つは、大規模で効率的なネットワークを安価に作ることができるようになったからです。TCP/IPのメカニズムを理解することによって、その普及の原動力となった長所が見えてくるはずです。

 TCP/IPの基本の基本は、最低でもデータ送信元と送信先の2拠点があり、その間にルータと呼ばれる中継装置が存在し、パケット単位に分割されたデータがその上を流れているということです。すべてのアプリケーションが、この構成をベースに動いているのです。つまり、

・通信相手を特定するにはIPアドレスを使う(IPアドレスが重複してはいけない)
・どんなに離れた拠点であっても、送信先のIPアドレスは中継装置のルータが知っている
・パケットの送信に当たっては、順番や優先順位、種類などの区別がある

という基本ルールさえ理解していれば、ネットワーク技術学習の過程において迷うことはないのです。

 この学習の手引きとなるが、先述の記事でも紹介した書籍『マスタリングTCP/IP 入門編 第3版』です。まずは本書全体にざっと目を通して、TCP/IPの概要を理解するといいでしょう。Web上の記事としては、@ITのWindows Server Insiderフォーラムにある「連載:詳説 TCP/IPプロトコル」「連載:基礎から学ぶWindowsネットワーク(第6回)」あたりが参考になるでしょう。

●TCP/IP、イーサネット、Windowsネットワーク
 ネットワークの通信は、複数の階層にわたって段階的に行われます。例えば、第4層で通信が行われることで、その下に位置する第3層での通信が行われ、さらにそれに呼応して第2層で通信が行われるといった具合です。なぜ、一見面倒なこのような構成をとっているのでしょうか? ネットワークの各層(「レイヤ」と呼びます)には、それぞれ役割が与えられており、その決められた役割に徹することでネットワーク通信全体のクオリティを保っているのです(図1)。

図1 階層化によるネットワーク通信。階層が上がれば上がるほど、データの到達可能な距離がアップする

 イーサネットと呼ばれる技術は、同じネットワーク内に存在する端末同士の接続を保証する技術で、OSIの参照モデルの第2層(データリンク層)に当たります。同じネットワークとは、ハブやスイッチなどのネットワーク機器で接続された社内LANのようなネットワークのことです。社内LANとインターネットとの境目にはルータが設置されますが、ルータの向こう側は別ネットワークとなるため、イーサネットではルータ越しの通信を行うことはできません。

 そこで登場するのがTCP/IPです。TCP/IPでは、第3層(IP)と第4層(TCP/UDP)をカバーしています。TCP/IPはルータの向こうの別ネットワークをもカバーし、最終的にデータの送信元と送信先の2点間での接続までを保証します。2つの層での違いは、IPでは2点間でのデータ(パケット)の配送を行い、TCPはパケット単位に分割されたデータを再構成し、データ自身の到達性を確実なものにする役割を担っています。

 もうお分かりかと思いますが、階層が上がれば上がるほど、到達距離とデータ転送の確実性、クオリティがアップします。Windowsで利用しているファイル/プリンタ共有は、このTCP/IPを利用して、その上の階層上で新たなサービスを提供することで実現しているのです(図2)。

図2 ネットワーク通信各層の到達距離の相関関係

 また各階層では、その役割さえ果たしていれば、その層の通信をまったく別の技術に置き換えたとしても、全体としてのネットワーク通信はきちんと機能します。例えば、イーサネットをトークン・リングといったまったく別の技術に置き換えても問題ありません。

 このようなネットワークの階層構造は、「OSI参照モデル」などと呼ばれ、全部で7階層定義されています。一応7階層分の定義はなされていますが、実際には今日のTCP/IP(インターネット)通信をOSI参照モデルに厳密に割り当てるのは難しい状況です。そこでTCP/IP通信では、第1層と第2層で1組、そして第5〜7層までを1組でくくって、全4階層で表現されます。

@ITでの参考ページ
連載:進化するイーサネット (Master of IP Network)
詳説:TCP/IPプロトコル 第6回 (Windows Servers Insider)
連載:基礎から学ぶWindowsネットワーク 第1回 (Windows Servers Insider)

●ルーティングの基本を学ぶ
 先ほど、データの送信先となるIPアドレスは、ネットワーク内にそのIPアドレスが存在する限り、ルータがその場所を必ず知っていると説明しました。データを送信しているユーザーにとっては、複雑に張り巡らされたルータ網をどのようにデータが通過していくのかは分かりません。しかし、ルータにパケットを送るだけで、後はルータが自動的に中継を行ってくれるのです。これをルーティングと呼びます。この経路情報はルートと呼ばれ、ルータ内に保持されているルート情報はルーティング・テーブルと呼ばれます。

 単純なネットワークではそれほど問題になりませんが、インターネットのように複雑で、データの送信に冗長性を持たせたいと考えた場合は、ルーティング・テーブルを作成するのにもコツが必要になります。このようにルーティングを行うために、ルーティング・プロトコルというルーティング制御のためのプロトコルが用いられます。小規模なネットワークで使用されるのが、RIPと呼ばれるプロトコルで、インターネットで用いられているのがBGP4、大規模な社内ネットワークで用いられているのがOSPFなどです。

 ルーティングのメカニズムを理解するにはRIPで十分ですが、ある程度以上の規模の社内ネットワークを構築/運用するためには、BGP4やOSPFの知識が必要となります。まずはRIPでスタートして、要求されるスキルに合わせてステップアップしていくといいでしょう。

@ITでの参考ページ
連載:ルータの仕組みを学ぼう (Master of IP Network)
連載:IPルーティング入門 (Master of IP Network)

 
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今回のインデックス
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