一口にIT業界といってもさまざま。IT・ソフトウェア業界の構造と仕事内容、働く人について説明する。IT業界に就職したい学生は必見だ。 |
われわれは社会の至る所でITを活用している。家の中を見れば、洗濯機や冷蔵庫、電子レンジがあるだろう。これら家電製品は「情報家電」といわれ、ソフトウェアが組み込まれている。外に出れば、高度なITを活用し安全に運行されている電車や新幹線など、交通機関を目にする。コンビニに行けば、レジにはレジスターではなく、POSレジが設置されており、われわれの購買結果はネットワークを通じてすぐに“売り上げランキング”に反映される。
もはや日常生活でITとかかわらない日はない。にもかかわらず、ITを使って社会を支える企業や人の実態は、なかなかとらえることが難しい。製造業とは異なり、社会で直接目に触れる機会が少ないためだ。IT企業に勤めているお父さんの中には、家族に自分の仕事をうまく説明できないとボヤいている人は少なくない。IT業界の詳細な中身についてはおいおい見ていくとして、まずは業界そのものを概観してみよう。
経済産業省の特定サービス産業動態調査(通称:特サビ)によると、平成20年の情報サービス産業の売り上げは11.2兆円である(*1)。リーマン・ショックの影響を受け、平成19年からの成長率は0.2%と横ばいにとどまったものの、平成18年から平成19年の売り上げ成長率は2.3%であり、成長を続けていることが分かる。また、常用の従業員数は約32万人、派遣社員を含めると約38万人が働いている。そのうち約6割強が技術者(ITエンジニア)である。
(*1)特サビの情報サービス産業に分類される企業は、主に、システムインテグレーションを含むソフトウェア開発や情報システムの運用管理をしている企業。通信サービスやハードウェアの製造・販売を主としている企業は含まれていない。
ちなみにほかの業種の規模を見てみると、広告業は5.5兆円で4万4000人が働いており、クレジットカード業は35.2兆円で約3万4000人が働いている。IT業界ほど人によって成り立っている業界はないかもしれない。
ITの利用を軸に考えたとき、世の中の企業は2種類に分けられる。ITを使う側とITを作る側だ。ITを利用する企業をユーザー企業といい、ITを使って情報システムを構築し、ユーザー企業に導入する企業をITベンダ企業という。IT企業とは一般的にITベンダ企業のことで、後で詳しく述べるが、ハードウェアベンダ、ソフトウェアベンダ、ネットワーク、通信などさまざまな業種が存在する(図2)。ユーザー企業が新しい情報システムを構築したいときは、ITベンダ企業にシステム構築を依頼する。
図1では、ユーザー企業に情報システムを構築する際のITベンダ企業における業種や職種のかかわりを表している。
図1 IT業界全体図 |
まず、ユーザー企業が「どんな情報システムを作りたいか」という構想を立てる際、ITコンサルタントの力を借りるケースが増えている。これは、自分たちだけで考えるより、いろいろな構築事例を知っているITコンサルタントを交ぜた方が、より良い情報システムを作れるという考えに基づいている。
実際に情報システムを構築するに当たっては、システムインテグレータの力を借りることが多い。システムインテグレータとは、顧客の抱える問題点、要望、業務内容を分析し、問題の解決に向けた情報システムの企画、構築、運用などの業務を一括して請け負う業者のことである。
肝心なのは情報システムの中身。情報システムには、大きく4種類ある。1つ目がPCやサーバ、その周辺機器を扱っている「ハードウェア」関連の業種。2つ目は、これらのハードウェアで動かす「ソフトウェア」を製造・販売している業種。3つ目が、ハードウェアとソフトウェアをつなぐ「ネットワーク・通信」のサービスを提供している業種。4つ目が、これらすべてを組み合わせて「サービス」として提供している業種である。データセンターの運用もサービスの1つである(図2)。
図2 情報システムの中身 |
それぞれの業種を具体的に見てみよう。顧客のビジネス形態が企業向け(BtoB)か個人向け(BtoC)かによって従事している企業が異なることが分かる(表)。
|
||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
表 IT業界全体図 |
さらに、表で挙げた企業は、IT業界は製造業(ハードウェア産業)、通信業(ネットワーク・通信産業)、情報サービス業(サービス、後述のソフトウェア産業)の3つの産業に分類することができる。製造業、通信業については、その業種の企業に就職しても情報システム構築に携われるとは限らない。情報システム構築に就きたいなら、情報サービス業の企業を狙うとよいだろう。
企業の持続的成長を支えるうえで、重要な役割を果たしているのがITである。特に、企業の業務を支えているのは、ソフトウェア産業の企業が提供する製品やサービスである。営業・販売や材料の発注といった基幹業務から、人事や会計といった本社系の業務に至るまで、業務とITは密着に関係している。
そこで、ソフトウェア業界で活躍している企業の歴史的経緯を見てみよう。ソフトウェア業界で活躍している企業は、その出自により大きく「メーカー系」「ユーザー系」「独立系」「ソフトウェアベンダ」の4つに分けることができる。
(1)メーカー系
汎用コンピュータが出始めたころ、実際にコンピュータに仕事をさせていたのは、コンピュータメーカーの人たちであった。コンピュータ上で動くソフトウェアを開発し、オペレーションも行っていた。メーカーは、ソフトウェアに関する専門性を高める目的で、子会社を設立した。富士通システムソリューションズや日立情報システムズ、日立ソフトウェアエンジニアリング、三菱電機情報ネットワークなどが該当する。ここで挙げた企業以外にもメーカー系のグループ企業があるので、自分の専門領域に近い事業をしている企業かどうかを確認してエントリーしよう。
(2)ユーザー系
企業にコンピュータを導入する際、それを利用する企業側(ユーザー企業)にもIT部門が存在する。このIT部門が母体となって子会社として誕生したのがユーザー系のソフトウェア企業である。
金融機関のIT子会社がユーザー系の代表的な企業である。銀行でいえば、みずほ情報総研や日本総合研究所、証券会社なら野村総合研究所(NRI)、保険でいえばニッセイ情報テクノロジーなどである。金融機関以外では、鉄鋼系の新日鉄ソリューションズや、商社系の伊藤忠テクノソリューションズ、元公共系のNTTデータなどSIを得意としている企業が代表的だ。
(3)独立系
コンピュータの利用が進むにつれ、ソフトウェア開発者が不足することが明らかになってきた。その動きをとらえ、いまでいうベンチャーとしてソフトウェア開発専業の企業を立ち上げ成長させた企業が独立系である。CSKや富士ソフトが代表的な企業といえるだろう。これら独立系は、自社の成長に応じてソフトウェア開発だけでなく、SIまで事業を拡大させ、M&Aの手法も使いながら成長を続けてきた。
(4)ソフトウェアベンダ
ソフトウェアベンダは、まさにベンチャーからのスタートである。自分の得意領域でパッケージソフトを制作し、その製品がヒットすることで成長を遂げてきた。代表的なところでは、PCのOSで席捲したマイクロソフトやセキュリティ分野のトレンドマイクロ、ERPのSAPなど外資系の企業が多い。日本企業でも、「勘定奉行」で有名なオービックやグループウェアのサイボウズ、忘れてはいけないのが「一太郎」のジャストシステムなどが代表格といえるだろう。ゲーム業界ではスクウェア・エニックスや光栄(現:コーエー)などがあるが、ここでは対象から外しておくことにする。
これまで見てきた企業群をあらためて整理しソフトウェア業界マップを作成したので、ぜひ就職活動の参考にしてほしい(図3)。
図3 ソフトウェア業界マップ |
筆者プロフィール | ||
|
@IT自分戦略研究所は2014年2月、@ITのフォーラムになりました。
現在ご覧いただいている記事は、既掲載記事をアーカイブ化したものです。新着記事は、 新しくなったトップページよりご覧ください。
これからも、@IT自分戦略研究所をよろしくお願いいたします。