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本当は○○なIT業界

第1回 「ITに触れて『楽しかった』ときの気持ちを貫き通して」

唐沢正和
2009/6/1

ITエンジニアから学生たちへのメッセージ。何を思ってIT業界を選んだか、学生にはどんな思いを持って来てほしいかをIT業界の先輩エンジニアが語る。

高専時代はプログラマに「なれたらいいな」

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サイボウズ・ラボ プログラマ 天野仁史氏

 JavaScript技術の第一人者として知られるamachangこと天野仁史氏。その高い技術力を生かし、サイボウズ・ラボで未来のグループウェア開発に取り組む一方で、ブログ「IT戦記」を通じてプログラマ志望者にJavaScriptの勉強法を指南するなどブロガーとしても積極的に活動している。そんな、IT業界の最先端で活躍する天野氏だが、この業界に入るまでは、まったくの“IT素人”だったという。

 「高等専門学校の電気工学科を卒業して、岩通ソフトシステムにプログラマとして就職したのですが、学生時代はITに関しては素人同然でした。元々新しいもの好きの性格なので、パソコンにも興味をもっていましたが、それほど使い込んでいるわけではなく、自分でWindowsのインストールをしたこともありませんでした。ですから、当時の僕にとって、プログラマという職業は、なれたらいいな、という憧れのような存在でした」と天野氏。いまの活躍ぶりからは、容易に想像できない姿である。

 プログラマになりたいという気持ちを固めた天野氏は、電気工学科の多くの学生が電気関係の仕事を志望するなか、システムアドミニストレータや情報処理技術者といった情報系の資格を取得。就職試験も突破し、憧れだったプログラマとしての第一歩を踏み出すことになる。

入社1年目、プログラミングが楽しくて仕方なかった

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 「実際に仕事を始めてみて、プログラマの仕事は本当に楽しいと感じました。IT業界は、きつい、帰れない、給料が安いなどの3K職場ともいわれますが、僕はIT業界に関する知識が少なかったこともあり、そんなネガティブなイメージはまったくありませんでした。それよりも、プログラマという仕事が楽しくて仕方がなく、入社してから1年間はとにかく勉強しましたね。そして、自分よりも優れたプログラマを目標にしながら、さらなるスキルアップを目指しました」。

 最初の職場でプログラマの楽しさを知った天野氏は、自らの技術力向上にともなって、「新しい技術にチャレンジしたい」と思い始めるようになる。そのころ、天野氏の興味を一心に集めていたのがソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)の「mixi」である。

 「mixiを活用するようになって、SNSの世界にとても惹かれました。Webを通して、自分と同じ興味をもっているさまざまな人と交流できるのはすごいことです。実際に僕は、IT業界だけでなく異業種も含めて、mixiをきっかけに400人くらいの人と出会い、そこで一気に人脈を広げていきました」。

Webへの憧れ――「Webは1つの時代を作ったから」

 mixiを積極的に活用する中で、次第にWeb系プログラミングを志向し始めた。「僕は、コンテンツを載せるものが時代を作ってきた思うんです。例えば、船で移動していた時代は大航海時代、陸ならばシルクロード。コンテンツを乗せるものは時代ごとに変わります。そういう意味で、Webは1つの時代を作りました。Webへの憧れがありました」。当時ガイアックスにいた山口徹氏に誘われたことをきっかけに、天野氏は、新天地としてガイアックスへの転職を決める。山口氏ともmixiで知り合ったのだという。

 「ガイアックスに入って、仕事の取り組み方がガラリと変わりました。Web系プログラミングは、それまでの電話交換機のプログラミングとは比べものにならないくらい短いサイクルで進みます。仕事をしている時間が従来よりも倍増しました。ただ、プログラマという仕事が楽しいという気持ちは変わることはなく、仕事量が増えてもつらいと感じることもありませんでした。逆に、新しい技術に取り組める環境は、自分にとってのスキルアップとともに、会社全体の技術力向上につながります。さらに、その知識をブログで公開することで、一般技術者の知識レベル向上にも貢献でき、自らの情報発信力を高めることにもつながると思っています」

 現在、天野氏はサイボウズ・ラボで、さらに高度なWeb技術にチャレンジしているが、「プログラマという仕事が楽しいという気持ちは、いまも変わっていません。もちろん、きついときもありますが、楽しい仕事だと思えれば、乗り越えていくことができます。これからIT業界を目指す学生は、3Kのようなネガティブなイメージにとらわれず、仕事が楽しいと思える職場を選ぶことが大切です」と、アドバイスする。

 IT業界の情報や就職希望先の情報を得るための手段としては、会社説明会に参加したりWebサイトの情報などのチェックするといった方法が一般的だ。しかし、天野氏は、「勉強会やカンファレンス、ハッカソンなどの技術的コミュニティを積極的に利用して欲しい」と強く訴える。

 確かに、コミュニティを通じて、同じIT業界を志す多くの仲間と交流することで、自分1人では得られない業界知識や企業情報を得ることができる。また、すでにIT業界で働いている先輩社員から、現場の情報や職場選びのコツを学ぶこともできるかもしれない。さらに、天野氏自身がそうであったように、コミュニティでの出会いが、そのまま就職につながる可能性もあるのだ。

学生時代のうちに異業種の友達作りを

 「学生時代は、IT業界を目指そうという仲間同士の横のつながりがなかなかできにくいと感じています。コミュニティを活用することに加え、就職支援の学生向けイベントに参加することも、出会いの大きなきっかけになります。特に、昨年僕が講師として参加した『セキュリティ&プログラミングキャンプ』は、全国から22歳以下の若い人たちを集めてキャンプを行い、業界第一線で活躍するエンジニアからプログラミングやセキュリティに関する知識を学ぶというもので、IT業界の人脈作りには最適です。今年も開催する予定ですので、いま、IT業界に興味をもっている学生のみなさんはぜひ参加してみることをお薦めします」

 一方、IT業界以外の異業種の友人を増やすことも大切だと天野氏は指摘する。「知識の幅を広げるために、異業種の友人もたくさんいた方がいいですね。異業種ならではの発想から新たなビジネスチャンスのヒントを得たり、実際にコラボレーションしたビジネスができるかもしれません。いずれにしても、IT業界、異業種を問わず、学生時代は多くの友達を作ることが大切だと思っています。社会人になってできた友達よりも、学生時代の友達の方が腹を割って話すこともできますし、就職した後も自分にとって貴重な資産になるはずです」。

ITに触れて「楽しかった」ときの気持ちを貫き通して

 ITエンジニアを目指す学生にとっては、技術力の習得についても気になるところだが、「就職時に求められる基礎的な技術力があれば、まずは大丈夫。あとは、入社してから、どれだけ本気で技術力アップに取り組めるかどうかです。僕も、素人同然でIT業界に飛び込んで、いまではJavaScriptのプログラマとして認知されるようになりましたが、JavaScriptに取り組み始めたのはわずか4年前です。最初からJavaScriptのプロだったわけではなく、社内外の多くの方から叱咤激励を受けながら成長してきました。技術力がないからといって、就職前にあきらめないで、チャレンジして欲しい」という。

 「IT業界を目指そうとしている学生の多くは、ITに触れて何か楽しい経験をしたことがきっかけになっているはず」と天野氏。「その“楽しい”という気持ちを貫き通して、仕事にもつなげていくことができれば、いくら仕事が大変でもくじけることはありません」という。逆にいえば、何となくIT業界で働ければいいと思っている学生は、就職しても、思っていたイメージと違う、仕事がつまらない、といったネガティブな考えばかり出てしまうのではないだろうか。「IT業界は、学びながら、仕事を楽しむことのできる数少ない業界です。IT業界を目指すきっかけとなった“楽しさ”を大事にして、多くの学生がこの業界に飛び込んでくることに期待しています」と、エールを送る。

 

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