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このシステム、わたしがつくりました

第1回 骨髄バンクの患者とドナーのために、ITができること


河野美月(法政大学)
岑康貴(@IT自分戦略研究所)
2009/6/29


IT業界に就職すると、どんな仕事をすることになるのだろうか。実際にどんな「モノ」を作り出せるのだろうか。IT業界が生み出す「システム」は、生活者からは見えづらいものが多い。IT業界の生み出す「モノ」を可視化し、その作り手が込めた「想い」を探る。

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 皆さんは「骨髄バンク」をご存じだろうか。「白血病などにより骨髄移植が必要な患者さんに対して、骨髄提供の意思があり、かつ白血球の型が一致している提供者(ドナー)を仲介する」ための機関が骨髄バンクだ。患者とドナーをマッチングするところから、移植完了後のフォローアップまでの一連の工程業務を「コーディネート」と呼んでいる。

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 患者とドナーのマッチングはかつて、手作業で行われていた。非常にセンシティブな情報を扱う業務であり、人の手で行われていた時代、コーディネートには多大な時間がかかっていた。

 「骨髄バンク コーディネート支援システム」はこうした骨髄移植コーディネートのためのシステムである。患者とドナーのマッチングにかかる時間を短縮し、その精度を上げることによって、1人でも多くの患者が救えるようにする――それがこのシステムの役目だ。

 このシステムの構築プロジェクトの中心となった人物がアクセンチュアにいると聞き、話を聞くために東京・赤坂のオフィスに伺った。

「何を作るか」ではなく「作る目的は何か」

 「『骨髄バンクシステム、やってみない?』といわれたのは、入社5年目のことでした。これがね、うれしかったんですよ。『ぜひやらせてください!』と即答しました」

 骨髄バンク コーディネート支援システムを担当したアクセンチュア シニア・マネジャーの橋本隆介氏は、いわゆる「ITコンサルタント」と呼ばれる職種である。

 橋本氏は大学院時代、人工知能の研究をしていたが、その当時からこつこつと研究を進めることよりも、より具体的な成果が見えることに興味があった。教授から勧められる企業への就職が慣例化していた中、あえてそれを断り、「お客さまと接する仕事」を求めて就職活動を始めた。周りの人には非常に驚かれたという。

 当時「コンサルタント」という仕事についての知識はなかったが、アクセンチュアのセミナーに参加して何か感じるところがあったのだという。

 「会社の雰囲気も良かったし、何より働いている人がすごく楽しそうだったんですよね。第一印象で、あ、この会社いいな! って思いました」

取材の様子
アクセンチュア 橋本隆介氏(右)と学生記者(左)

 入社後、橋本氏はあるギャップに気付く。理系出身の橋本氏は、それまで「いかにして良いシステムを作るか」ということを考えてきた。一方、同期には文系出身者が多く、彼らの考え方は「作ったシステムを、誰のために、どういう目的で使うのか」ということが中心だった。最初は意識のギャップがあって、大変だったと橋本氏は語る。

 「すごいシステムを作った! で、じゃあそれをどう使うの? 誰のためのものなの? ……っていう目的がないと、システムの本当の価値は生まれない。入社してからしばらくは、そのことについてずっと考えていたし、同僚と飲みに行ってもそういう話ばかりしていたなぁ。もちろん文系出身の人たちは逆に『作る』っていう部分が苦手で大変そうだったけどね」

 コンサルタントは両方の視点をバランスよく持つことが求められる。同期の存在がこのことに気付くきっかけとなり、ITコンサルタントとしての視野を広げてくれたという。

システムトラブルは患者の命に直結する

 入社5年目のとき、骨髄バンク コーディネート支援システム刷新のプロジェクトを任されることになった。このとき橋本氏は「プロジェクトマネージャとしてやっていけるかどうか、力試しのチャンスが巡ってきた」と思ったと語る。

 骨髄バンク コーディネート支援システムは2000年に導入された。その後、時代の変化に伴ってシステムの刷新が必要となり、2005年、橋本氏がプロジェクトマネージャとなってプロジェクトがスタートした。

 プロジェクトマネージャとはプロジェクトの統括責任者のことだ。まずは企画提案書を作成し、クライアントにプレゼンした上で、受注契約を結ぶ。その後は予算やスケジュールを管理し、人員を集め、どのようなメンバー構成でプロジェクトに取り組むかなどを決定し、運営する。また、プロジェクトメンバーをフォローし、クライアントと密なコミュニケーションを持つことも大切な仕事の1つである。それらすべてにおいて、現場の責任を持つのがプロジェクトマネージャだ。

 このプロジェクトは他と比べて大規模すぎるわけではなく、力試しには最適だった。また、橋本氏にとって“骨髄バンク”システム構築とは、少しでも社会に貢献していることを実感できる、非常にモチベーションが上がる内容だったという。

 プロジェクトスタート前は数人のメンバーで夜中まで提案書を作成する日々が続いた。スタート後は、プロジェクトメンバーは工程によって増減したが、多い時は20人程度だったという。彼らをまとめ上げるのも、橋本氏の重要な仕事の1つだった。

 「移植にかかわるシステムですから、ちょっとしたシステムのトラブルが患者さんの命に直結する可能性があります。いつも以上に気を使いました」

 絶対にコーディネート業務に問題を起こすことのないシステム作りが求められた。それはプレッシャーであり、同時にやりがいでもあった。

 プロジェクト全体を通して、特に気を使ったのは外部システムとの連携だった。コーディネート業務自体の主管(担当)は骨髄バンク側だが、ドナーのデータは日本赤十字社が保管・管理している。それぞれの組織が管理するデータは機密情報として扱われ、これらのデータをシステム間で間違いなく連携させる必要があった。この際、システムの問題のみならず、円滑なシステム運営のため、組織同士の調整も考えなければならなかった。

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