いま注目を集めるOMG認定UML技術者資格(OCUP)について、第1回では実用度の視点から問題内容を詳しく解説し、第2回ではUMLのエキスパートに技術者にとってのOCUPの価値について聞いた。今回は、OCUPを受験し、見事にファンダメンタルレベルで合格を果たした株式会社シー・エス・イーのシステムエンジニア
三重野隆志氏と同社で技術教育を推進する高橋透氏に、OCUPへの取り組みについて語っていただく。 株式会社シー・エス・イーは、今年で創業32年を迎える老舗のソフトウェアハウス。オブジェクト指向開発に古くから取り組み、その技術力は業界でも評価が高い。同社は、OCUP(OMG認定UML技術者資格試験プログラム)を始めとするさまざまな資格取得を積極的に推進しているが、こうした会社全体の取り組みの背景には、資格取得が“会社のステータス”になるという明確な位置付けがある。 |
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PROFILE 株式会社シー・エス・イー 営業推進本部 技術開発部 技術開発室 三重野隆志 氏 2002年、株式会社シー・エス・イー入社。Java技術者として、Webアプリケーション(Servlet/JSP)開発に従事し、特に、システム認証に関するネットワークセキュリティソリューションの開発に携わる。ファンダメンタル資格取得推進のため、UMLの社内研修を担当。神奈川大学理学部卒。同大学院修士課程修了(理学)。 |
■会社が推奨するOCUP取得
株式会社シー・エス・イーは、業務コンサルティングからシステム設計・構築・運用・教育までトータルなサービスを提供するシステム開発会社である。同社では1988年からオブジェクト指向を取り入れたソフトウェア開発に取り組んでおり、三重野氏の所属する技術開発部では、4年前から新入社員研修に「UML(Unified Modeling Language:統一モデリング言語)」の学習を取り入れている。
株式会社シー・エス・イー営業推進本部 技術開発部 三重野隆志氏は入社3年目。現在はJavaを使用してWebアプリケーションの開発を行っている。まだ若手ともいえる三重野氏が、同社で最初のOCUPの合格者となった。
「実はオブジェクト指向を含め、UMLのことは新入社員研修で初めて知りました。UMLの資格取得についても会社が積極的に推進していて、今回は上司からUMLの資格試験を受けてみないかと勧められたこともあって受験しました。まだ本格的に業務の中に取り入れていないのですが、今後はドキュメントの作成にUMLを活用していく予定です。それでこの際、基本的なUMLの表記法をしっかりと身に付けようという動機もあって、この試験を受験しました」
技術者の教育に力を入れている同社では、新入社員研修に始まり、資格取得のサポート体制が整っている。このOCUP取得にあたって、三重野氏は豆蔵とPAの主宰するファンダメンタル資格試験トレーナー養成コースを3日間、集中的に受講して試験に臨んだ。
技術開発部の社員に向けてUMLの講義を行う三重野氏。OCUP合格後UML教育のトレーナーとして起用され活躍している |
「試験対策がきちんとできていたこともありますが、ファンダメンタルレベルの問題は分かりやすく、それ程苦労しなかったという印象です。問題数は90分で84問。ボリュームは多いですが、あらかじめ出題範囲は公表されていますし、時間のかかる問題はありませんので全部解くことができました。実際の業務と比べると、普段はあまり使わないような文法上の細かい定義を問う問題があり、それが若干難しいという感じでしょうか。私は業務では、実装に近い部分を表現するのにクラス図とシーケンス図をよく使用しています。場合によってはアクティビティ図、ユースケース図も用いますが、いずれにせよ、こうした業務で日常的に使っているものがファンダメンタルの対象になっています」
4月3日に受験し、見事合格を果たした三重野氏は、今後は同社の中でトレーナーとしてUMLの教育および資格取得対策の役割も担っている。
■基本的な勉強をしっかりすれば、1カ月で取得できる
受験、というと身構えてしまう人もいるだろうが、三重野氏は業務でのUMLの使用経験はあったにせよ、ファンダメンタルレベル受験に際してそれほどハードな勉強をしたわけではないという。
「4月3日にファンダメンタル試験を受験しましたが、資格試験対策の講習は3月の半ば。1カ月もありません。シンボルや記号の意味をきちんと押さえて、演習問題などをこなせば、1カ月もあれば必要なスキルは身に付けられると思います。自分が持っている知識を確認する、体系立てて勉強することは業務の中ではなかなかできないことなので、資格取得は有意義なことだったと思います」
部署内でのUMLの使用度はこれからということもあり、現在は参考資料程度ということだが、UMLの利便性について三重野氏はこう語る。
「シーケンス図はシステムの動きをトレースするのにとても便利です。フローチャートなどは一本の線で表現するため、まわりのオブジェクトやサーバの関係がとらえにくい。その点シーケンス図であれば、全体を記述できるんですね。実はダイアグラムというのは、細かな文法まで分からない人が見ても理解できるものなので、こんな感じだよ、という風に感覚的に説明することができます。UMLは情報を共有するのに欠かせません。統一的に表記できる、利便性が高いという点で、UMLをどんどん推進していきたいです」
三重野氏は、まだUMLを知らない技術者に向けて、次のようなメッセージを語ってくれた。
「UMLといわれてしまうと敷居が高い気がしますが、つまりはコミュニケーションツールです。文章で書いてあることを皆で共有できるように、いってしまえばマンガのような、理解しやすい絵で書いてしまおうというものですから、そういう目線で入っていけばすんなり始めることができるのではないでしょうか」
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PROFILE 株式会社シー・エス・イー 営業推進本部 副本部長兼技術開発部 部長 高橋透 氏 1985年に株式会社シー・エス・イーに入社。マイコン制御系開発を担当後、CSS業務系システムの開発、Webシステム開発を担当。1988年にオブジェクト指向技術を社内導入するメンバーとなり、1992年にSmalltalkで業務パッケージを開発。社内報を通して社内にオブジェクト指向技術やJavaなど、新技術を全社に展開する事を担当してきた。 |
■「資格」を持つことは対外的なステータスとなる
三重野氏の所属する技術開発部は、OCUPに限らず、そのほかの技術者資格、ベンダ資格の取得を部の目標として掲げている。それは「資格」そのものが、会社の技術力、最新技術を持つ技術者がいることを対外的に証明し、結果として会社のアピールにつながることを会社が実感しているためだという。
株式会社シー・エス・イー 営業推進本部 副本部長 兼 技術開発部 部長 高橋透氏は、同社にいち早くオブジェクト指向やUMLを取り入れ、資格取得を積極的に推し進めている。
「弊社は、1988年からオブジェクト指向に取り組み始めています。オブジェクト指向開発の世界では、UMLがソフトウエア設計の記述法としてデファクトスタンダートとなってきた潮流があります。その中で、シー・エス・イーという会社がオブジェクト指向の技術を持っている会社なんだということを対外的に訴えるためにも、資格を持つことはステータスになると考えました。昨年(2003年)くらいから、弊社ではベンダ資格に対して積極的な認定と評価をしています。その中でOCUPも、社内の奨励資格として確実に候補に上がっています。UMLを新入社員研修の中に取り入れ、今年からはOCUPに合格したら新入社員教育が終了ということにしました。資格というのは、対外的な評価と信頼に直結します。エンジニア自身の意識やスキルアップのためにも、今後もますます取得を呼びかけていきます」
経験豊かなエンジニアが社内に数多くいるなかで、今回OCUP取得の第1号に選ばれたのは、入社3年目の三重野氏。高橋氏があえて若手を登用した理由はあったのだろうか。
「スキルのある人間が資格を取るのは、ある意味当たり前のこと。若いエンジニアが挑戦することで、資格取得は身近なことだと感じてほしかったのです。その結果、若手エンジニアが取ることで、先輩は負けられないなぁという気持ちになるし、新人に対し資格を取得するためにこんな勉強をした、というような経験談を話すことができる。そのことによって自信もつく。そういう相乗効果を狙いました」
若手エンジニアが先輩エンジニアへUMLという新しい技術を伝え、先輩エンジニアはこれまでの経験や知識を若手エンジニアに伝えるというように、ギブアンドテイクの関係ができ上がることで、エンジニアたちのスキルがあがることにもなる、と、高橋氏は資格を取得することの効果を多面的にとらえている。
■標準規格がようやく定着しつつある
高橋氏は、資格取得を目標にすることで、UMLが定着することにも期待している。
古くからオブジェクト指向開発に取り組んできたシー・エス・イーは、ソフトウェア設計の表現表記法としてUMLの普及を推進している |
「私たちの部署のメンバーは現在60名ほど。パートナーを合わせると120名くらいになります。その中でオブジェクト指向に関係するメンバーは8割ほどです。そこで、特にJavaを使って仕事をしているエンジニアについては、全員UML資格を取るように、といってあります。もちろん協力会社の皆さんにも、一緒に仕事をする条件としてできる限り資格を取って欲しいと伝えています。目標は今年中に全員が資格を取得することですね。これは何より、設計者間のコミュニケーションを密にする、SEとPGの間の意思疎通をシームレスにする、海外とのやりとりをスムーズにする。その時のツールの1つとしてUMLを活用したいという狙いがあるからです」
長い間開発現場に身をおく高橋氏は、自らの若い時代の経験もあり、ここにきてようやく設計、開発における標準規格が明確になりつつある動きを歓迎する。
「ソフトウエア業界でも、品質や開発プロセスなどについて、ISOなどの標準規格が定着しつつあるように思います。品質や開発プロセスをもっと大事にしていこうという流れだと思います。私の若い頃は力技というか、とにかくコードを書いてテストを繰り返してということでやってきましたが、技術者も段々意識が高くなっていて、ドキュメントも無いような仕事はおかしい、という感覚になってきているんじゃないでしょうか」
■UMLの現場感は?
「現在取引しているお客様の中には、組み込み系の開発にオブジェクト指向を導入し、UMLで設計し開発を進めている方もいらっしゃいます。そういう事例ではUMLが分からないと、とても開発会社としては採用してもらえないということになります。特にいま、ソフトウエア業界ではオフショア・アウトソーシングが盛んですので、海外とやりとりする場合の共通言語は何かというのは重要です。日常会話は英語だとしても、設計書はなにか。そこでUMLができますとなれば、UMLの設計書でやり取りしようというのは1つの安心感、指標になってきますね。言葉の壁があったとしても、UMLを使っていればスペックだけで開発できるわけですから、ワールドワイドな展開のためには不可欠なものです」
UMLの必要性は顧客案件に依存したものだけではない。長年オブジェクト指向に携わる高橋氏は、開発サイドとしてUMLの意義をこう見ている。
「UMLのメリットは、セマンティックギャップを縮められる部分。いかなる仕事のフェイズでも、複数の人間で仕事を進める場合には誤解をどう少なくするかが重要です。オブジェクト指向≒UMLみたいなところがあると思うので、オブジェクト指向が浸透すればするほど、UMLという共通言語は必要不可欠になるし、またUMLの浸透によって、開発の幅が広がるんじゃないでしょうか」
■OCUPは1つのブランドになる
高橋氏は、今後も社内での資格取得に対しては積極的な姿勢をとっていくという。それは技術者自身のスキルアップ、意識の向上という面だけでなく、会社としての戦略も含まれているからである。
「Javaができます、オブジェクト指向でやっていますだけでなく、UMLの資格を持っていますよということになれば、この会社はきちんとした技術を持っているんだなということの証明になり、絶対的なブランドになります。最近面白いことに、お客さまから何々のベンダ系資格を持っていますかというように、資格そのものが案件を請け負う際の1つの条件になる場合が出てきました。これまでは情報処理系の資格がメインでしたが、徐々にベンダ系の資格を推奨していきます。OCUPは、その中で間違いなく重要な資格になっていくと思います」
資格を取得することが会社にとってのブランドになるということは、資格を持つ技術者もまた、会社にとってのブランド。資格を持つことが、技術者の社内評価を左右することはまず確実である。OCUPは、こうした導入例から見ても重要な資格であることは間違いがない。今後の自分のキャリア戦略の上で、OCUPは有効な武器になるのではないだろうか。
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企画:アットマーク・アイティ 人財局
制作:アットマーク・アイティ 編集局
掲載内容有効期限:2004年5月31日
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