連載:転職で失敗する人、ダメな人
第10回
転職前に準備すべきこと
内田靖
2002/7/5
人材コンサルタント会社に勤めている筆者が、実際に出合った事例や過去に勤めていた会社での経験を交えて、転職で失敗するエンジニアはどんな人かを毎回紹介していく。これから転職を考えているエンジニアに、転職に失敗しないために気を付けるべきことや注意すべきことを、“転職で失敗したケース”から学んでほしい。 |
転職前の準備 |
最近、転職希望者に会って気になるのは、転職前に十分な準備をしないまま転職活動をしている人が多いことだ。転職の目的は、キャリアアップや年収アップではない。社会で必要とされていることと自分のやりたいこととをいかに結び付けるかにある。どちらも満足できるバランスの良い仕事を見つけ、それにどれだけ頭と体を使えるかにある。その結果、仕事からどれだけキャリアが付くか、年収がアップするかは副次的なものだ。これは理想的な考え方ではあるが、転職に失敗しないコツでもある。
今回は、そうした転職を実現するために心掛けておきたいことを、ある転職で失敗した(と感じている)Y氏の事例を紹介し、確認したいと思う。
ビジネスコンサルタントへの道 |
Y氏は、某国立大学を優秀な成績で卒業し、大手外資系コンピュータメーカーD社に入社した。Y氏はシステムエンジニアとして3年ほど従事した後、eビジネスコンサルタントとして2年ほど従事したという。ここでは、決められた範囲でシステムを構築するのではなく、上流工程から顧客に入り込み、利益を出せるビジネスインフラを提供するための戦略・改革・実行・検証を行っていた。
eビジネスコンサルタントが面白く、Y氏はその世界の専門家になって実力を付けたいと考え、有力コンサルティングファームC社へと転職した。報酬だけから判断すれば、この転職は成功したといえるだろう。しかし、Y氏は業界自体の社風や体質をよく調べていなかったため、社員と溶け込むことができなかったり、仕事の進め方で上司と意見がぶつかり合うことがあった。コンサルティングファームは、専門家の集まりがそれぞれ責任を持ってチームを組み、プロジェクトに取り組み、個人の絶対的な成果を求められる世界である。
それに対してY氏が勤めていたD社でも専門家の集まりであったのは同じだが、プロジェクトの進め方に違いがあった。D社では常にチーム内での連携が保たれているかに重点が置かれていたため、一般的なコンサルティングファームとはかなり雰囲気が違った。そのため、Y氏は次第に入社当時の元気がなくなり、またメーカーへ戻ろうかと考え、私が転職相談を受けることになったのだ。
転職する前に考えるべきポイントとは? |
ここで、Y氏が転職をする前にまでさかのぼって、いくつかのポイントを考えてみたい。
まず、Y氏にとって転職がいいのかどうかを考えることが必要である。転職はその後の人生を左右する大切なことである。そのため、安易に転職するものではなく、慎重に考えるべきで、いまの会社で少しでも力を付けられるのであれば、転職しない方がいいかもしれない。
また、転職するにしてもそれにはリスクが伴う。どんなに転職先の会社のことを調べても、入社してみないと分からないことが多い。では、どういう人ならば転職しても失敗せず、成功するのだろうか? そのバロメーターは、転職前の会社でも必要とされる人材であることだ。私の経験からいうと、そういう人材は間違いなく転職先の会社でも必要な人材となる確率が高い。
実際に転職活動をするに当たって大切なことは、いつ転職(入社)をするのか、具体的なゴール日を決め、果敢にできる限り多くの会社に応募して面接を受けることだ。何社も落ちる場合があるだろうが、あまり落ち込む必要はなく、ただマッチしなかったのだ、などと開き直って考える(達観する)ことが成功への近道だと思う。また、転職活動をするときは求人情報をさまざまな媒体で探すわけだが、人材紹介会社、サーチファーム、人材ポータルサイト、各企業のWebサイト、求人雑誌、人脈ネットワークと、とにかく手を出してみるといい。その中で、自分にしっくりくるところがベストだ。
企業分析で事前にすべきことは、企業理念(哲学)をしっかり持っているか、採用人数と退職人数が急激に増減しているか、資本構成はどうなっているか(ベンチャーキャピタルの出資率は要チェック)、借入金額は事業に見合ったものかなど、数値も厳しく見る必要がある。情報収集にはインターネットが便利だが、できれば親身になって話を聞いてくれる人材紹介会社に聞くとかなり分かるものだ。
これらを事前にしっかりとしておけば、実際の面接でも余裕を持って質問でき、逆に面接官の対応をじっくりと見て、入社するかどうかの判断材料とすればいい。そのほかで大切なのは、極力在職中に転職活動をすることだ。なぜなら、離職中での面接は、心理的に企業側の方が有利で(または有利に感じてしまう)、数回面接に落ちるとかなり弱気になってしまい企業側の条件にすり寄って、結果的に自分にとって不満足な企業に決める可能性があるからだ。
やりたいことが実現できる仕事か? |
最後に、「やりたいことが実現できる仕事か」が大切だ。ただし、やりたい仕事を実現するためには、ある程度はリスクを背負わなければならない。転職前のキャリアを転職後もそのまま100%利用できるという場合、その転職は逆説的ないい方だが、社風や人間関係がイヤになったからだと考えることができる。その場合、転職後も同じ理由で悩むこともあり得る。
しかし、最近はそうした転職者は意外と少なく、これまでのキャリアの60〜70%をベースに、新たなキャリアを注入して幅を広げていく人が多い。しかし、新しい部分(未知のキャリア)に関しては当然未知な領域であるため、実際に入社するとこんなはずではないと思うことがある。ただし、ここで新しいキャリアを自分のものとすれば、この転職時には一時的にポジションや年収がダウンするかもしれないが、2〜3年目には逆転し、実務面でも理想の転職になるだろう。そのためにはあらゆる手段を利用して情報を収集したり、転職先に勤務している人を探して話を聞いたりして、良いことと悪いことを洗い出して、現実を知ることが大切である。
やりたい仕事が実現できない場合 |
Y氏の場合の転職後の問題点は、「やりたい仕事を実現できない」ことである。コンサルティングファームに入社して、コンサルタント職に就けたのだから、よりやりたい仕事が実現できると思っていたに違いない。やりたい仕事の実現には、仕事そのものと、組織、人、環境が密接にかかわりあっていることを忘れてはいけない。ベンダ系企業とコンサルティングファーム系企業の人材タイプや社風・組織体制は違うわけだから、それらが邪魔して結果的にはやりたい仕事ができないという場合もある。ベンダ系は組織力を中心としチームが1つのゴールを目指して頑張る。それに比べコンサルティングファーム系は個人力に重点を置き、見た目はチームでビジネスを展開しているが、実際はあくまでも個人が中心となる傾向が強い。コンサルティングファーム系は決められた期間で成果を出すため、プロジェクトチームの人数をそんなに多くはしない。その理由の1つとして、人数が多いとプロジェクトがなかなか進まず、限られた期間で成果が出ないからだという。
そのため、通常1人で2〜3人分ぐらいの働きを要求されるわけで、ある一定の範囲の判断は、自己責任で進めなければならないため、相当なプレッシャーが重くのしかかる。Y氏のようなタイプは、個人の能力は非常に大切だけど、プロジェクトの規模に合ったチーム人数で構成され、チーム内で連携を取りながら、互いの意見を聞いてトライ&エラーを繰り返し、最終ゴールを目指す志向なので、コンサルティングファーム系のビジネススタイルにはマッチしていないことになる。よく転職者が陥ることだが、転職先がエキスパート集団だからといって、転職しても自分自身がうまく機能して活躍する場所があるとは限らないのだ。やりたい仕事であるかはとても重要なことであるが、社風、組織、人間的な相性や感性的なものがマッチするか、この人と一緒に仕事をしていける自信があるかなどを、面接終了後に一度頭の中でイメージすることをお勧めする。
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