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連載:転職で失敗する人、ダメな人
第11回
会社の経営志向を見破ろう

内田靖
2002/8/21

人材コンサルタント会社に勤めている筆者が、実際に出合った事例や過去に勤めていた会社での経験を交えて、転職で失敗するエンジニアはどんな人かを毎回紹介していく。これから転職を考えているエンジニアに、転職に失敗しないために気を付けるべきことや注意すべきことを、“転職で失敗したケース”から学んでほしい。

   転職で失敗しないポイントとは?

 東京都内には多くのシステム開発会社が存在する。その業務形態はさまざまであり、他社との違いなどを面接で聞いても分かりにくいことがある。そこで、こうした場合に失敗しないためのポイントが何かを考えてみた。まずは資本金、資本系列、取引先、経営陣、業務請負型か技術者派遣型か、最近リストラをしたかどうか、どのような企業から転職している人がいるのか、最高年収はどれぐらいか、などを調査してみると、転職が失敗するか成功するか見えてくることが多い。

 特に最近の不況もあって、転職先が短期的な開発で収益を確保しようとする企業や、入社してみたら条件が違っているケースなどで転職に失敗した人もいるようだ。今回は、こうしたケースに当てはまるF氏のことを紹介したい。

   F氏の事例とは

 F氏は現在26歳。もともと大学の経済学部に籍を置いていたが、このままでいいのだろうかと疑問を抱いて悩んだ結果、自分がした仕事がすぐに形となるスキル重視の仕事をしようと決意し、あるコンピュータ専門学校に入学し直した。学校ではUNIX、Linux、Windows、Java、C言語、DB、Web関連の基礎をひととおり学び、自分にも合っていると感じ、一生懸命に取り組んだという。2年生になって、専門学校と提携している大手コンピュータ会社の系列のシステム会社H社で、インターンとして3カ月間ほど仕事をして、実際の仕事のやり方やシステム開発の難しさ、チームワークなどを学び、ますますシステム開発に魅せられていった。

 F氏は結局、専門学校卒業後、インターンとして仕事をしたH社に就職した。システム開発部に配属され、主に情報系のシステム開発を3年ほど行い、その後、インターネットをベースとした、音楽や映画のWebシステム開発に3年間従事した。

 F氏は幸いにも社風を知っていた企業へ入社したので、入社後に大きなギャップを感じることもなく、着実にシステムエンジニアとしてのスキルをアップしていった。また、大手系列のシステム開発会社であるため、大きな案件が多くて充実し、また研修制度もしっかりと整っていて魅力的だったという。

   転職の理由

 そのような中にあってぜいたくな悩みだが、入社5年目ごろに危機感を感じ、このまま仕事をし続けていいのだろうかという不安がもたげ、まだ若いのだから冒険して転職してみようかと思うようになったという。大手は大手なりにいいところはあるが、ピラミッド型の組織や保身的な経営体質、開発力向上を目指さない上司など、やる気満々だったF氏は物足りなさを感じたようだ。

 F氏は、自分の考えなどと合う企業であれば転職しようと考え、転職活動を開始した。転職活動に半年ほどかけ、14社と面接をし、結局6社から内定をもらったという。このうち、独立系で急成長している設立3年目のシステム開発会社I社へ転職した。I社の社長は、元大手コンピュータメーカーのエンジニアで、業界では名が知られており、技術や人望もある優秀な人だという。I社の特徴は、システム開発における開発支援ツールを持ち、それを武器に多くの開発案件を獲得していることだ。成長率は毎年300%近く。人材を採用しても成長率に追いつかず、開発案件を断っているのが現状である。F氏はI社に転職して1年たったが、現在も勤務している。しかし、F氏は転職は失敗だったと感じているのだと、私に語った。

   I社でF氏を待っていたのは

 I社でF氏が苦痛を感じているのは、新しいテクノロジを次々と習得していくことだ。新しいテクノロジを得られるのであれば、いいではないかと反論されそうだが、研修で学ぶのではなく、実際のシステム開発の現場で、新しいテクノロジをトライ&エラーを繰り返しながら覚えていくというやり方で、かなりハードな作業を強いられているという。さらに、それと同時に開発支援ツールの修正やアップデートも随時行っているという。H社とI社とを比較すると、H社は検証済みのテクノロジを設計どおり開発すればよい受け身型開発で、I社は能動型開発といったところだろうか。さらに、開発期間が短い案件が多いのだが、人材不足のため、1人で3つの案件を抱えて仕事をしているのが当たり前という状況だという。こうなると納期は短く、新しいテクノロジの習得に十分な時間を取ることさえできない、とF氏は告白する。

 しかし、F氏は自分がいつまでこの会社で働けるか分からないが、努力し続けたいという。I社には、同じ状況を乗り越えている転職組の同期がいるが、F氏と決定的に違うのは吸収力の速さだという。F氏が驚くぐらい速く、少しの時間で知識やスキルを自分のものにしているという。それは、知識を頭に詰め込むといった頭の良さではなく、ポイントを見破る力やセンスがあるのだという。また、基本的に中途採用で転職してきた人のレベルは高く、だれ1人指示待ちで仕事をしている人などいないという。また、皆吸収力が速いのだという。

   企業の経営志向は重要な転職情報

 もう1つF氏を悩ませているのが、短期間での開発案件が多く、短期で収益を確保しようとする経営志向だという。短期利益を確保するという事業スタイルでは、当たり前だが開発案件は多くなる。しかし、人材が不足しているため、外注を多用することになる。外注中心になれば開発支援ツールを利用するという企業のメリットも薄れてしまい、外注先がメインで開発するため、働くモチベーションが下がるという。

 最近、このような会社も多く、F氏と同じような悩みを抱えている人は多い。しかし、このような企業を転職前に見破るのは非常に難しい。若手エンジニアであればあるほど、とりあえず新しいテクノロジを吸収できる企業への転職を望む。それが満たされるのであれば、ほかの条件を重視しない傾向があるためだ(ある意味、見破る以前の姿勢の問題だ)。

 設立3年目ぐらい、従業員30名以下の、何らかの新しいテクノロジを持つ企業へ転職される場合、できれば経営陣の1人と面談した方がよいだろう。経営陣と面談がなくて楽だったなどと喜んではダメだ。どんな場合でも、依頼するぐらいがいい。面談をしたら、開発期間、取引先、外注先(パートナー)、請負案件と派遣案件の比率などを聞いてみれば、その企業の事業の方向性は分かるはずだ。どこの企業も利益を求めるのは当然だが、バランスは必要だ。利益追従は開発案件を多くし、開発期間を無視してくるので、エンジニアは新しいテクノロジの習得がなかなかできず、結局会社を去っていく。遠回りかもしれないが、小規模の企業であればあるほど、経営陣と面談し経営志向が道理に合っているかどうかを確認してから、気持ちよく仕事をしたいものだ。

連載:転職で失敗する人、ダメな人

 

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