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連載:転職で失敗する人、ダメな人
第4回
ビジネス系コンサルタントへの転身に失敗

内田靖
2001/11/16

人材コンサルタント会社に勤めている筆者が、実際に出合った事例や過去に勤めていた会社での経験を交えて、転職で失敗するエンジニアはどんな人かを毎回紹介していく。これから転職を考えているエンジニアに、転職に失敗しないために気を付けるべきことや注意すべきことを、“転職で失敗したケース”から学んでほしい。

   ビジネス系コンサルティング会社への転職

 今回は、大手SI企業からビジネス系コンサルティング会社へ転職して失敗したケースを紹介しよう。G氏(転職時に34歳)は、有名私立大学を卒業後、大手SI企業に入社し、公共関連システム開発を5〜6年、流通インターネット系のBtoBシステムを2〜3年、新規ビジネスの企画業務を1年経験した。G氏は企画業務担当になったころに転職を意識するようになり、私の会社に相談しに訪れた。そこで転職を前提に、今後のキャリアについて話し合った。G氏が転職を希望したのは、システムのソリューションを顧客へ提供するとき、単にシステム基盤を提供するだけでなく、実際に現場の人間が納得し、感謝してくれるようなサービスの提供を目指す企業だった。

 私はその話を聞き、ビジネス系コンサルティング会社とIT系コンサルティング会社を数社紹介した。G氏は、ビジネス系コンサルティング会社に興味を示した。その理由は、洞察能力、問題解決のキャリアを積みたいと考えたからである。しかし、私は、G氏の年齢、テクニカルキャリア、ヒューマンスキル、マネジメントスキルを総合的に判断すると、IT系コンサルティング会社の方がG氏に合っていると考えたので、そちらを強く推薦した。

   ビジネス系とIT系の違い

 ここで、ビジネス系コンサルティング会社とIT系コンサルティング会社のビジネススタイルを比べてみたい。ビジネス系コンサルティング会社は、業務改革を軸に、IT技術をそこにプラスして提供するなどの形でビジネスを行っている。彼らは問題点を論理的に見つけ出し、解決する方法を探るところから実行まで、幅広い業務内容をカバーしている。もちろん、そこにIT技術を利用していく。ビジネス系コンサルティング会社の人事採用基準としては、洞察能力と問題発見能力、解決能力を重視する傾向にある。それに対してIT系コンサルティング会社は、ITを軸にして、ビジネス戦略からシステム構築を行い、守りのシステム開発(運用系)だけでなく、攻撃的なシステム開発(売り上げ向上に寄与するシステム)によって、いかに問題を解決していくかが業務の主体になる。IT系コンサルティング会社の人事採用基準は、IT技術に精通していること、それにコミュニケーション能力やプレゼンテーション能力などのヒューマンスキルを重視する傾向がある。

 両者は、どこにビジネスの軸を置いているかが異なるものの、ビジネス戦略、業務改革、IT技術はそれぞれ密接な関係にあり、システム開発だけでなく、顧客のビジネス向上、増益を目的としたトータルなコンサルティング業務を行う点では共通している。

 とはいえ、採用基準が違うこともあり、IT系コンサルティングとビジネス系コンサルティングでは、働いている人材のタイプも違うことが多い。IT系の人材は、問題となっている課題を分解し、そこから解決方法を考えて実行し、結果を検証することが得意な人が多い。それは、システムのハードウェア、ソフトウェアという目に見えるものを利用することに慣れているからかもしれない。それに対してビジネス系コンサルティングは、まず問題点を発見し、それを基にして顧客に提案を行い、特定分野の高度な専門的スキルを駆使して、顧客に高い付加価値を提供し、プロジェクトのサイクル全体を自分たちで回す。こちらはスキルよりもセンスが重要になる。

   動機を明確にせず転職

 私がG氏と最初に会ったとき、すでにG氏はコンサルティング業界の現状や流れを独自で研究していたようだった。G氏は、自分のIT技術に、さらにビジネスコンサルティングの洞察能力、問題発見能力、解決能力を身に付ければ、今後のキャリアアップに役立つはずだと語った。だが、私がG氏との会話で受けた印象は、ある程度決まった枠組みの中で業務を推進していくのは得意だが、何もないところから問題点を発見し、その解決のために業務を実行するようなことは得意ではないというものだ。それは、G氏が外部依存型の性格で、そうした積極的なことは苦手であるように感じたからだ。

 また、G氏はビジネス系コンサルティング会社に転職するのは、それが今後の転職に役立つからだといったが、それ以外の動機は明確ではなかった。また、必要とされる能力(洞察能力、問題発見能力と解決能力)とは何か、本当には理解していないようだった。つまり、自己分析の能力はあまり高くなく、洞察能力や問題発見能力が欠けているように見えた。しかし、G氏は就職活動を進め、結局希望どおりビジネス系コンサルティング会社に入社した。

   コンサルティングの失敗と問題点

 G氏は入社後、すぐに大手消費材メーカーの生産管理プロジェクトに携わり、部下4人を持つチームリーダーとして業務を開始した。当初はそれまでの会社とは環境も異なり、毎日の仕事が新鮮であったようだ。しかし、消費財メーカーの現状分析のため、現場からヒアリングを行い、問題点の本質を見極める第1ステップをクリアする段階で問題が生じた。現場のヒアリングを実施せず、業務内容やその問題点を上層部からヒアリングした後、利用しているシステムやソフトウェアの詳細なヒアリングを行ったのだ。つまり、本来第1ステップで把握する必要のない細部(しかもシステム)に焦点を絞ってしまったのである。通常は、ヒアリングの結果を積み重ねて現場の問題点を表出させ、問題の本質がどこにあるのかをクローズアップしていく。しかし、G氏はそのプロセスを重視せず、自分の主観的な考え(特にシステム分野)を分析の足掛かりにしてしまった。

 それにもかかわらず現状分析の報告文書は、現場の状況を反映したかのような“それなりのレポート”になっていた。そのため、第2ステップである業務フローの再構築とそれに伴うITの再構築作業に入った。G氏は、消費財メーカーの問題点の本質をIT技術(ソフトウェア)にあると分析し、ITを軸に問題を解決しようとした。しかし、G氏のやり方にほかのプロジェクトメンバーが気付き、結局最初の第1ステップからやり直すことになったのである。この時点でG氏の上司は、G氏はチームリーダーはまだ務まらないと判断し、一般のスタッフとして参加するように命令した。しかし、これによってG氏のモチベーションは極度に下がり、プロジェクトのメンバーから距離を置くようになった。そして入社後1年2カ月で退職することになった。

 ビジネス系コンサルタントで成功するには、事実を正しく把握する能力と物事の本質を見極める洞察能力、論理的思考能力、問題発見と解決能力などがあるか、それを吸収したいと前向きに考えることができるかどうかにかかっている。また、従来の枠組みにとらわれない創造的思考能力、対人関係を向上させようとする豊かな感受性なども必要であろう。しかし何よりも大切なことは、自分が何をしたいのか、そのためにはどのような能力が必要なのか、そのために何をすべきなのかを把握することである。G氏はこうした分析が甘く、自分がほかから評価されたい、ビジネス系コンサルタントの能力があれば転職に有利だということだけに着目し、そもそも自分が何をしたいのかといった分析が甘かった点が、転職の失敗に至った原因であろう。

連載:転職で失敗する人、ダメな人

 

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