連載:転職で失敗する人、ダメな人
第5回
中途半端なスキルでは必ず失敗する
内田靖
2001/12/19
人材コンサルタント会社に勤めている筆者が、実際に出合った事例や過去に勤めていた会社での経験を交えて、転職で失敗するエンジニアはどんな人かを毎回紹介していく。これから転職を考えているエンジニアに、転職に失敗しないために気を付けるべきことや注意すべきことを、“転職で失敗したケース”から学んでほしい。 |
システムコンサルティング企業の求める人材像 |
今回は、大手メーカー系のシステム受託開発企業からシステムコンサルティング企業への転職を試みたものの、失敗したケースを紹介したい。
当初、現在の経済不況をIT不況と呼んでいたが、ソフトウェア開発などの人材は不足したままであったため、IT系の人材紹介会社にはあまり影響がなかった。しかし、不況も長期化の様相を呈してきたため、IT系人材の需給も引き締まりつつある。また、求人企業の採用担当者や転職候補者から、転職市場は買い手市場なのか、売り手市場なのかと聞かれることが多くなった。結論からいうと、完全な買い手市場にある(もちろん例外もある)。しかし、そんなご時世であっても、IT業界のシステムコンサルティング企業の求人案件は依然多い。しかし、以前よりも求められる人材のタイプやキャリアはかなり絞られている。転職市場には多くの転職希望者がいるが、システムコンサルティング企業の採用担当者は以前のように、容易に採用するわけではないようだ。
システムコンサルティング企業は、現在もまだIT業界の中では売り上げが伸び続け、求人採用数が多い業種の1つである。ただし、ここでいうシステムコンサルティング企業とは、ERP、SCM、CRMといったパッケージソフトを利用して開発をするだけの企業ではない。基本的には、クライアントに対してゼロベースからシステムの相談に乗っている企業のことである。そうした企業は、システムを構築するだけでなく、ビジネス基盤をも提案・提供し、クライアント企業の収益を上げられるようにすることを主要な目的にしている。
こうした企業の求人案件で現在求められている人材は、若いうちにしっかりとプログラミングを経験し、要求定義、概要設計、詳細設計、検証などの一連の流れをマスターしていること、コミュニケーション能力に秀でて、常に最先端技術に目を向ける年齢30歳前後の人のようである。しかし、システムコンサルティング企業の採用担当者によると、そのような条件に合う人材は少ないという。
今回の転職者のキャリアは |
今回紹介するK氏は、私立有名大学を卒業した28歳。大学卒業後、大手メーカー系のシステム受託開発企業G社に入社した。G社を志望したのは、システムの単純な開発だけではなく、クライアントと話しながらコンサルテーションを行い、それを基に開発を行う社風が気に入ったからである。
K氏は、G社に入社すると金融系のアプリケーション開発プロジェクトに配属された。そこでは、Windows NT、SQL Serverを利用したVisual Basicによるプログラミングを経験した。その後、大手情報系企業の社内情報インフラ構築のプロジェクトに配属され、メール環境の整備、ファイルサーバの構築、Windows NTとMicrosoft Exchange Serverでのユーザーのグループ管理などを担当した。その後、今度は大手流通系企業のLAN/WAN構築プロジェクトに配属され、新たにUNIX、Oracleなどを利用する機会があったという。そして最後に、大手カード会社のインターネットシステム構築で、開発環境の整備、プロジェクト管理などを担当した。
G社の方針なのか、プロジェクトに配属されても開発業務よりも事務業務が多く、本人としては本来のエンジニアの仕事に力を注ぎたいとの不満をずっと持っていた。また、これも会社の方針なのか、システムを知らない営業が、決まったクライアントからお金になりそうな案件だけを受注し、それを単純に開発していくといった仕事がほとんどで、コンサルティングしながら開発するなどといった案件はほとんどなかった。
システムコンサルティング企業への転職を決断 |
K氏は30歳という区切りを前にして、G社にこのままいても自分のキャリアにとってプラスにならないと判断し、転職を決断した。転職先の希望は、基本に戻り、技術力を軸としたシステムコンサルティング企業であった。実際に15社ほど面接を受けることができたが、どの企業もスキルが中途半端であると判断した。K氏のスキルは、開発はVisual Basicなどでのプログラミング技術があるものの、システム周辺の整備などが多く、またプロジェクト管理についても、実際の話を聞くと、ほかでは通用しないというのである。どの企業も、採用するとしても第2新卒として扱うといわれ、K氏はかなりのショックを受けた。
しかし、幸いにも5社からオファーがあり、K氏が慎重に検討した結果、設立して10年ほどの新興システムコンサルティング企業B社に転職した。ただし、入社の際にB社の人事担当者からは、かなりがんばってスキルを向上させなければ、新卒の新人に追い抜かれてしまうだろうと忠告された。
K氏はまず、金融系のアプリケーション開発のプロジェクトに配属された。そのプロジェクトを統括しているマネージャは29歳で、メンバーはK氏を含めて15名(平均年齢は27歳)で構成されていたという。K氏は、システム開発の基本からやり直すため、プログラミングを担当することになった。ただし、プログラミング担当とはいえ、プロジェクト全体を見ることがシステム構築やビジネス基盤構築の成功に結び付くということで、時折クライアントとの打ち合わせにも参加した。
プロジェクトは最小限の人数で構成されていた。各担当とその責任範囲は明確で、毎日アウトプットを求められる環境に、K氏は“プロフェッショナル”とはどういうものかを肌で感じたという。ただ、K氏はそうした環境に慣れておらず、付いていくのがやっとだった。また、自分よりも年下で経験の少ないメンバーが、どんどん仕事をこなしていく姿を見ていると、かなりのストレスを感じたという。プロジェクトが進行していく中で、次第にK氏だけがスケジュールどおりに仕事のアウトプットが出せないようになり、最終的にプロジェクト開始後3カ月目にしてプロジェクトから外され、B社の社内システムを担当している部署に配置転換された。
エンジニアに必要なもの |
今回の転職の例は、失敗というよりもスキルマッチが合っていなかったケースであろう。転職市場のITシステムコンサルティング企業が求めている人材は、これだけはできるという人材ではなく、マルチプレーヤである。プロジェクトを進めながら、不足しているスキルやキャリアを短期間に吸収していく意識が必要となる。基本的にそうした人材は、だれかに教えてもらうとか、トレーニングしてもらうといった発想を持っていない。どんなポジションだろうが常に全体を見渡しながら問題意識を持ち、問題点に対する解決方法を見つけ、実行していく。これらは、いわゆる旧来のシステム開発会社などで働いている人材には、あまりいないタイプの人材だろう。
同じ企業に勤め続けていると、すべてを社内の基準や尺度で測ろうとする。スキルやキャリアの能力、出世の早さなどだ。しかし、どのような職業でも同じことだが、閉ざされた企業内での価値基準は、まったく意味がないと考えるべきだ。エンジニアにとって重要なのは、“世の中での基準”で考えることである。これは、エンジニアならずとも、意識すべき問題である。
これからのシステムエンジニアに必要なのは、スキルの積極的な吸収はもちろんのこと、受動的に業務をこなすのではなく、能動的で果敢に物事に挑戦する心と行動である。
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