連載:転職で失敗する人、ダメな人
第7回
転職時にはマネジメントと資本の分析も
内田靖
2002/1/23
人材コンサルタント会社に勤めている筆者が、実際に出合った事例や過去に勤めていた会社での経験を交えて、転職で失敗するエンジニアはどんな人かを毎回紹介していく。これから転職を考えているエンジニアに、転職に失敗しないために気を付けるべきことや注意すべきことを、“転職で失敗したケース”から学んでほしい。 |
入社の決め手は表面的な要因 |
今回は、現在ベンチャー系のミドルウェアソフト会社C社に勤務しているK氏のことを紹介したい。今回の場合、K氏は転職に失敗したわけではない。ただ、K氏の経験を聞くうちに、今後は同じように転職に失敗するケースが出る可能性があると感じたため、まずはK氏の場合を紹介しようと考えた。
K氏の年齢は現在35歳。私立大学工学部を卒業後、大手SIのA社に入社した。当時の日本経済は、まさに“バブル”時代。工学部の学生は、会社説明会に参加しただけで内定をもらうこともあった。当時は学生1人当たりで最低3〜4社の内定をもらうような時代だった。つまりは完全な売り手市場。K氏も7社から内定をもらい、その中からA社を選択した。ただ、当時を振り返ると入社する企業を決めたポイントは、事業規模の大きさ、知名度、給与水準(当時は年収ではなく、月収を中心に考える時代だった)が高い、などといった外部的・表面的要因であったのではないかという。
K氏はA社へ入社後、メインフレームやミニコンピュータ(ミニコン)、UNIX環境で流通系業務アプリケーション開発に5年程度従事した。その後、ハードウェアを制御するファームウェア/ソフトウェア開発に携わった。A社は大手企業であったためか、エンジニアとしてさまざまな業務を幅広く経験できたことは、非常によかったという。その後のバブル崩壊とともに、A社は大リストラを実行した。それでA社の限界を見る思いがして、転職を決意した。
そのとき、今後はインターネットや通信ビジネスの時代が到来すると考え、大手通信会社B社へと転職した。B社では、オンラインサインアップシステムや、オンラインサービスによる業務効率システム、それにWebサーバなどの開発を担当した。K氏はB社への転職後、世の中の流れに乗っていると実感し、毎日充実した仕事ができたと感じていたが、インターネット/通信の技術革新の速さにB社が後れを取り、結局K氏のいた部署が縮小されることになったのをきっかけに、転職を決意した。これでB社での5年間の勤務にピリオドを打った。
現在勤務しているネット系のミドルウェアソフト会社C社(設立間もない会社)は、そのときに転職した企業である。C社での仕事は、パートナー企業とともに顧客へのソリューション提案を技術面から支援する仕事をしている。C社では、ソフトウェアを自社開発しているため、技術志向の人材が集まりやすく、他社と比べて開発力は群を抜いて高い。K氏は今回の転職のとき、外資系のソフトベンダ企業も検討したのだが、外資系の場合、日本でソフトウェアを開発していない、いわゆる海外セールス拠点として日本を位置付けている企業が多く、技術系の自分としては魅力を感じることができず、現在の企業を選択したという。
K氏が悩んだ企業の戦略の裏にあったもの |
K氏がC社に入社して1年ほどしたとき、私はK氏から相談を受けることになった。入社当初の充実していた時期と比較して、パートナー企業が急激に拡大したため、仕事内容が複雑化しているという。それがK氏には不安に思えるのだという。簡単な相談を受けた後、私はC社をさまざまな角度から研究した。そこで気になったことは、出資先企業10社の中に、ベンチャーキャピタルが入っていたことだった。
少し前までは、スタートアップ企業やベンチャー企業といえば、外資系企業をイメージすることが多かった。しかし、最近では日本の企業に日系のベンチャーキャピタルが出資するケースが多く見受けられる。日本のスタートアップ企業の経営者にとっては、ベンチャーキャピタルは事業立ち上げ時の強力な助っ人になるが、ビジネスがうまく軌道に乗るころに増資を行い、非常勤役員や監査役を送り込み、事実上その企業の経営権を牛耳るケースがある。
私なりにC社の状況を推測すると、C社の企業経営者はまだ若く、志は高いがビジネスの経験は浅い。最初は出資先の企業の資金で何とかやっていけたが、業務の売り上げが厳しくなり、ビジネスチャンス拡大のため、パートナー企業を急激に増やしたようにも思える。パートナー企業の拡大自体は悪くはないのだが、やみくもに増やすと収拾がつかないばかりでなく、パートナー企業同士のけん制や要望などに社員が忙殺されるようでは社員のモチベーションも下がってしまう。また、途中でベンチャーファンドに対して増資(第三者割り当て)を行い、それに伴って監査役がそのベンチャーファンドから派遣された。現在は株式公開を視野に入れているという。
重要なことは経営者を育てること |
その後K氏から詳しい話を聞くと、監査役が来てから社員の勢いがなくなったという。社長は監査役には頭が上がらず、パートナー企業の選択や事業方針などは、事実上監査役が決断し、経営権を握っているように見えるほどで、社長は“お飾り”のイメージがするという。
本来なら、ベンチャーファンドは資本だけを出せばいいというわけではないだろう。当然その出資先企業が堅実に業績を伸ばせるように、経営的なサポートが必要となる。重要なことは、ベンチャーファンドはビジネスの先駆者として、経営者を厳しい目で見ながらも、事業家として一流の人に育てる必要・使命がある。K氏の話を聞く限りでは、C社に出資しているベンチャーキャピタルは、厳しく経営者を育てるのではなく、ベンチャーキャピタルやその監査役が、C社の代表取締役の代わりに事業のさい配をしている。それでは起業家から経営者に脱皮しないし、育たないだろう。また、そのような見方しかできないようなベンチャーキャピタルならば、将来が不安になるのではと私は想像してしまう。
K氏には、仕事が問題なわけではないので、しばらく様子を見て、機会があれば経営者と話す場をつくり、今後の方向性を一緒に考える方向に持っていくべきだとアドバスした。
転職希望者の中には、スタートアップ企業やベンチャー企業への転職を考える人も多い。その際には、仕事のやりがいや充実度だけではなく、出資先の資本構成などを事前に分析し、できれば面接時にその点を突っ込んで聞くことをお勧めする。技術者が転職する際に、最も考慮しない弱い分野が、その企業のマネジメントや資本分析であるためだ。
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