10年後も通用するキャリアパス
ステップアップし続けるための選択

第2回 「専門性」と「独自性」の違いが
キャリアを決める

南 和気 (みなみ かずき)
SAPジャパン株式会社 ソリューション本部
エンタープライズマネージメントHCM 部長
2008/10/15


ERPコンサルタントとITエンジニアの最大の違いは、「技術トレンドに左右されることなく、その経験が自分の価値につながるかどうか」という点にあります。なぜITエンジニアは「経験=価値」を確立することが難しいのか、なぜERPコンサルタントならそれが可能なのか、その理由を説明します。

   将来が見えるERPコンサルタントのキャリアパス

 今回は、ERPコンサルタントのキャリアパスについて具体的にご紹介したいと思います。ITエンジニアとERPコンサルタントとのキャリアパスには主に3つの大きな違いがあります。

  1. ERP導入プロジェクトの方法論は業界内である程度標準化されており、業界内ではそのプロジェクト内でのコンサルタントの経験が、価値として理解されやすいということ

  2. プロジェクトの中でのコンサルタントの役割が、コンサルタントの種類によって明確なため、自分のスキルを最も生かすことができるキャリアを選ぶことができること

  3. キャリアパスを重ねていくために必要なスキルや経験が、業界内で共通認識されているため、長期的なスパンで自分の将来を見据えて力を磨き経験を重ねていくことが可能であること

 まず、1についてですが、ERPの導入プロジェクトはある程度標準化されたプロセスに基づいて行われます。顧客の業界やプロジェクトの業務エリア、規模によって期間が長いものや短いものはありますが、プロセスそのものはどのプロジェクト、どのコンサルティング企業でも大きな違いはありません。よって、プロジェクトの中でコンサルタントが担う役割も、業界内では共通言語としてその価値を語られるため、転職をする際にも今まで培ってきた経験をそのまま価値として伝えることができます。第1回「ただの“ITエンジニア”ではキャリアアップできない?!」でもお話しましたが、ITスキルは基本的に経験によって成立っています。そのため「経験の価値を損うことなくキャリアに生かすことができる」ということは、IT業界でキャリアを積む方々にとって非常に重要な要素となります。

 次に、2についてですが、ERP導入プロジェクトにおいて、コンサルタントはその役割によってタスクが分担されています。制度設計、業務プロセス設計、システム導入、追加開発、パフォーマンスチューニング、などです。プロジェクトマネージャを除けば、それぞれのプロが集合して1つのプロジェクトチームを構成しますので、自分が最もパフォーマンスを発揮できる役割を見つけてそれを追及していくことができます。

 通常ITエンジニアの方々は、プロジェクト経験の中で、開発から要件定義、プロジェクト管理というキャリアパスを経ていくことがほとんどですが、ERPコンサルタントの場合は、プロジェクトのタスクそのものに高い専門性を求められるため、単なる管理タスクへのキャリアパスだけではなく、スペシャリストとしてのキャリアパスも存在します。よって、自分の最も得意とする分野でのプロフェッショナリズムを長期間にわたって磨き、コンサルタントとしての価値を高めていくことが可能です。

 最後に、3のキャリアパスについてお話します。ERPコンサルタントのキャリアパスはコンサルティング企業によって差異はあるものの、ある程度は標準化されています(図1)参照。

図1 一般的なERPコンサルタントのキャリアパス

 また、それぞれのキャリアパスに必要なスキルやプロジェクト経験の数や質についても、業界内で共通認識が存在するため、自分がどの役割をいつごろ目指すのかを見定めながら今の経験やスキルを磨いていくことが可能です。ERPコンサルタントが10年後も通用するキャリアである理由が、ここにあるのです。

   専門性と独自性の違い

 ITエンジニアにとって、「専門性」は非常に重要な点であると思います。自分が得た技術や知識が専門的であればあるほどその価値は高いものだと一般的に考えられているからです。しかしながら、どれだけ専門的な技術を持っていようとも、変化の激しいIT業界においては、専門性を維持できる期間はそう長くはありません。その価値はすぐに陳腐化してしまい、多くの経験を積んで専門性を高めれば高める程、時間の経過と共に、逆に価値がより限定的になってしまい、キャリアを高めるチャンスが減っていってしまうというようなことを感じられる方々も多いのではないかと思います。

 なぜなのでしょう?

 それは、ITエンジニアの「専門性」が基本的に技術的なテクニックをベースとしているからです。技術的な課題には基本的にある決まった解決策が存在します。つまり、課題Aに対しては解決策Bによって解決される、といった形です。その解決策はすぐに一般化されて共有され、ノウハウは瞬く間にノウハウではなくなります。よって、その「専門性」が「独自性」を維持できる期間が非常に短いのです。またせっかく得た経験が価値になかなか直結してくれません。

 一方、ERPコンサルタントの場合、その「専門性」は、顧客の業務のあり方とERPパッケージの導入の仕方の両面で成立っています。例えば「在庫の回転率を高めたい」という同じ課題でも、顧客のビジネスや取引先、そしてシステムの状況などに応じて解決策は常に変化し、それに合わせてERPパッケージの導入の方法も大きく異なります。そのため、課題Aに対する解決策が無数にあり、そのノウハウが一般化されにくいのです。さらに顧客に深く関わる情報のため、市場で共有されません。つまり、そこで得られるノウハウは「独自性」を保ち、経験が価値に直結するのです。

   どのような立場になっても価値を高め続けられるか

 この連載では、「10年後に通用するキャリア」をテーマとしています。これは前回にも述べました通り、「10年後にも価値・能力を高め続けられるキャリアかどうか」ということであるといえます。上述したERPコンサルタントのスキルセットは、ジュニアレベルからエキスパートまでまったく同じかというと、必ずしもそうではありません。ERPコンサルタントのスキルセットは「業務」と「ERP導入に関わるIT技術」で成立っているわけですが、キャリアを高めていけばいくほど、そのバランスが少しずつ変化していきます(図2参照)。

図2 ERPコンサルタントの役割と、3種類のスキルの一般的なバランス

 ERPコンサルタントというと、「まず業務を知っていなければならない」と考えられている方もいらっしゃるかもしれませんが、キャリアのスタートに際しては、必ずしも業務の知識が完璧に必要というわけではありません。最初はIT技術をベースにしてキャリアをスタートし、さまざまなプロジェクトでの課題解決のノウハウを身につけながら、自分が得意とする業務エリアを徐々に決めていくことができます。

 ただし、1つ注意しなければならない点は、IT技術をベースにしながらキャリアを高めていくには、現在のスキルを生かすチャンスが多いERPパッケージに携わることが重要であるということです。単にアプリケーション機能だけではなく、IT基盤や開発環境に市場優位性があり、よりオープンなアーキテクチャの製品を選択する必要があります。

 例えば、SAPのERPシステムは、さまざまなハードウェア、OS、DBMSに対応しています。またSOAに対応し、さまざまなサービスをJavaを使って呼び出すことができます。このように多くのテクノロジに対応することによって、より多くのIT技術者が関わるチャンスがあり、IT技術で解決する課題がより広範囲で、今持っている経験を生かすチャンスが多くあります。しかし、これが一定のテクノロジや製品にのみ対応するパッケージの場合、IT技術における課題解決の場面はより限定的になるだけではなく、今後のキャリアにおいても、キャリアを高める可能性が狭まってしまいます。

   ERPコンサルタントとしてのキャリアをスタートさせるには

 さまざまなニュースでも取り上げられていますが、日本のERPコンサルタントの数は現在も深刻に不足しています。しかし、一方でITエンジニアの方々にとっては、ERPコンサルタントは結局経験者しか採用されないのではないか、またERPビジネスを行っている無数の企業の中で、どのような企業にどのように就職をすればERPコンサルタントとしてのキャリアをスタートできるのかが見えない部分も多くあるのではないかと思います。

 次回は、このERPのビジネスが、市場においてどのように流通し、その中でどのようにキャリアを作っていくことができるのかを解説したいと思います。

筆者紹介
南 和気(みなみ かずき)
SAPジャパン株式会社 ソリューション本部
エンタープライズマネージメントHCM 部長


外資系ITベンダで、製品マーケティングにて多くのビジネスを立ち上げたのち、2004年よりSAPジャパン株式会社に入社。現在は、人事アプリケーションビジネスの責任者として、顧客の人事制度の見直し、人材育成の仕組み作りおよび人事システムの有効活用を支援している。

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