10年後も飛躍し続けるためのスキル
なぜ、SAP ERPに関わるスキルは10年後も通用するのか


第1回 いつの時代も
通用するスキルを身に付ける

有村 大吾郎 (ありむら だいごろう)
SAPジャパン株式会社 ソリューション本部
パートナソリューション部 部長
2008/9/1


今回の連載では、「10年後も通用する人材になるために」というテーマで、ITエンジニアの「キャリア」と「スキル」という2つの側面を説明していきます。本連載では、「10年後も使えるスキル」をテーマに話を進めます。

   そもそも「スキル」とは何かを考えてみる

 そもそも「スキル」とは何でしょうか。何かを知っていたり、何かを作れたり、というような個別の知識・技術要素とその集合を指すのでしょうか。

 仮に、スキルが個別の知識や技術要素だけを指し、単にそれが多くあればあるほど良くて、実業務での価値指標に直結するのであれば、例えば「より多くの資格を持っている人ほど優秀である」ことになります。しかし多くの皆さんが気付かれているように、実際の業務現場では何かの技術や資格があるだけで優秀な結果を出せるわけではありません。

 これから「SAP ERP」とそれに関するスキルの話をしていくに当たり、ここでは日々の業務における社内外の課題や、お客様が抱えている課題・達成したいビジネス目標に対して、いかにして課題を的確に把握しさまざまな技術要素を活用しながら課題を解決して目標を達成できるか、そのトータルでの実務遂行能力を「スキル」と定義したいと思います。ただし、スキルを高めるに当たり、どのような専門領域を持って取り組んでいくか、そのキャリアステップなどの説明については、「10年後も通用するキャリアパス〜ステップアップし続けるための選択〜」にゆずります。

   技術力、企画力「だけ」では通用しない

 IT業界・ソフトウェア業界ではスキルというと、とかく開発言語そのものや開発環境、ネットワーク技術・システム管理技術・構築技法などの「技術」そのものに目が行きがちです。もちろんそれらの要素技術は非常に重要で、ソフトウェアというモノ作りの根幹を成しているものだということ自体に、疑いの余地はありません。

 しかし、ソフトウェアに限らず、時々見られる「技術に偏重した製品」「企画者の一方的な想いによる商品」が、最終的な利用者からは受け入れられず、その製品・商品が市場からすぐに消えてしまうことがあります。それらの商品を作った開発者や企画者は、自分が持つ最新で最高の技術やアイディアによって製品・商品を作っていて、その観点では素晴らしいモノが作られているでしょう。

 なぜ売れなかったのかを考えると、使う人の課題を適切な形で解決してくれていなかったり、実際に利用する状況に対して適切な形態で提供されていなかったりするからです。このような事実について、誰もが頭の中では言葉として分かっていると思いますが、現在も時々同じことが繰り返されています。

 ソフトウェアの世界も同様です。では、どのようなスキルを身に付ければ、そのような事態を防げるのでしょうか。

 「最高の技術、アイディアをつぎ込んでも、なかなか売れない」――こうした問題を防ぐスキルは、ソフトウェアの世界だけに必要とされているわけではなく、どの仕事の分野でも活かせるものであるはずです。

 この話は一見、SAP ERPに関連するスキルとは離れた話に聞こえるかもしれません。この問題を防ぐことにもなるスキルが、SAP ERPを学んでそのビジネスに関わる事で備わるスキルの1つであることを、次に説明していきたいと思います。

    いつでも、どんな分野でも必要とされる視点とは

 使われないソフトウェアとなる事を防ぐ対策の1つとして、ソフトウェアを作り上げる前に、「そのソフトウェアが利用される状況」と「最終的にそれが何をもたらすのかを事前に明確に認識または想像しておく」ということがあります。また、「その実現に当たっての課題」「将来に起きうる問題「影響する範囲の事前想定と対策の検討」も必要です。

 これについても「そんなの当たり前」と思われるかもしれませんが、それを誰もができているかどうかは別です。実際、きちんとこうした点を想定・想像できず、当初予定した結果が出なかったり、ソフトウェアができ上がってから問題が出る例も多いはずです。

 この「認識力」「事前想定力」と「課題解決力」は、前述したとおり、単にソフトウェアだけの世界ではなく、どの業種・業界で仕事をするに当たっても重要なスキルの1つになり得るものです。

   3つのスキルを身に付けるために、やるべきこと

 ソフトウェアの世界でも特にこの「認識力」「事前想定力」「課題解決力」が必要とされます。このスキルの有無によって、ソフトウェアがもたらす価値に大きな差が表れるのが「企業の業務活動を支援する」ソフトウェア、つまり「業務ソフトウェア」です。なぜなら業務ソフトウェアは、その利用者が一般消費者ではなくさまざまな企業で各社各様の役割を持った個人となり、それぞれの役割におけるソフトウェア利用シーンを事前に詳しく分かっているか、もしくは利用シーンを分析し、詳細に理解・把握して、それを今後どうすべきなのかを考えられなくては、各社の業務ひいてはその企業業績に影響が出るからです。

 以上のことから、業務ソフトウェアに携わることは、

  • ソフトウェアを作り上げる前に、そのソフトウェアの適用対象となる業務の現状と、将来に利用される状況を意識・想像して、そのソフトウェアが最終的に何をもたらすのかを明確に認識するスキル

  • その実現に当たっての課題を想定・認識し、解決策を講じるスキル

を習得する1つの手段になります。

 しかし、業務ソフトウェアに携わるなら何でも同じというわけではありません。次に、世界中の企業が最も多く選択した「統合業務パッケージ」ソフトウェアである「SAP ERP」を学び、そのビジネスに携わることがもたらすスキルについて説明していきます。

   「全体最適」という視点を身に付ける

 業務ソフトウェアは一般的に、個別業務単位に検討されます。つまり、ソフトウェアに対する個別業務単位での要望を実現するというアプローチが取られます。例えば、「注文を受ける業務」「会計仕訳をする業務」「モノを選択して購入する業務」「人事業務」などがあり、それぞれの業務がそれぞれの要望を持っています。しかし実際には、それら個別の業務活動がつながって一連の業務の流れを作り、この一連の流れによる企業活動の結果が、最終的には貸借対照表・損益計算書という形で数字として現れてくるのです。これはどの企業も同じです。

 つまり、ソフトウェアを利用する現場や個人は、自分たちの立場における要望を伝えようとしますが、単にその要望に沿って対応するのと、要望を理解してその背景や流れを考え、彼らの要望が企業のどこにつながってくるのか、さらには企業の財務諸表のどこにインパクトしてくる話なのかを理解・想像した上で対応するのとでは、まったく異なる価値が生まれます。どちらの対応ができた方が良いかというと、もちろん後者です。これは、「個別最適がもたらす価値」と「全体最適がもたらす価値」の違いになります。

 だからといって、急に「業務ソフトウェアの開発をやろう」「全体最適の考えを持って事前に業務を想定して対応しよう」と決めても、企業内における各業務の理解やつながりの把握、想定力や課題解決力といったスキルは、一朝一夕に身に付けられるものではありません。

 では、どのようにして各業務とそのつながりを学べば良いでしょうか。企業の業務部門へ転職をしたり、本を読んだりといくつかの方法がありますが、実はSAP ERPを学ぶことが、「業務のつながり」も含めて全体的なスキルを学ぶ最適な方法の1つになります。

   SAP ERPに関わるスキルが普遍的に役立つ理由

 SAP ERPはその設計コンセプトから企業活動を一元管理できる仕組みになっています。SAP ERPを学ぶことは、各業務を理解するだけでなく、どの業務が別のどの業務とつながっているのか、最終的にはどの会計処理に影響していくのかを理解させてくれます。これが、単なる業務ソフトウェアに取り組むこととの違いになります。

 事実、世界中の大学や高校の教育現場でも、一般的な業務プロセス(業務の流れ)や業務のあるべき姿、会計実務の実際、内部統制の基本理念、原価計算などを学ぶ「教材」としてSAP ERPを使っています。日本では、早稲田大学や青山学院大学などを始めとする数十校が、SAP ERPを学校運営の業務システムとしてではなく、「教材」として活用しています。

 さらに昨今では、単なる統合業務パッケージソフトウェアという側面だけでなく、市場の変化へ企業として素早く対応するための技術である「SOA:Service Oriented Architecture」への対応も重要です。SOAをベースするとその業務ソフトウェアの構築に当たっては、企業の「コア業務=強み」つまり「差別化」となる業務とそのシステム対応、ほかの企業にも共通する「一般業務」(コンテキスト)、つまり「効率化」をすべき業務とそのシステム対応、というように大きく2つに分けて考えるスキルも必要となります。これらSOAに対応したスキルについての詳細は、後の連載で説明したいと思います。

   今、この瞬間もSAP ERPのスキルは必要とされている

 このようにして、業務ソフトウェアとしてのSAP ERPを学び、そのビジネスに関わることは、各業務そのものとその関連性も含めた全体的な業務知識、さらに全体最適とその実現に向けた「認識力」「事前想定力」「課題解決力」をもたらします。これらのスキルは、例えIT技術が10年進化しても色褪せないビジネスパーソンとしての基盤となるスキルです。

 一方で、SAP ERPを始めとしたSAPが提供するさまざまな統合業務パッケージソフトウェアやSOAに関するスキルを持つ人は、未だ足りていないのが現状です。

 以下のグラフが示すように、近年では伸び率は落ち着いたものの、日本においてもERPパッケージソフトウェアに対する需要は着実に伸びています。欧米諸国と比べると未だその採用・導入率は低いことから、日本においても対象とする企業を拡大しながら今後10年も伸びていくことが予想されています(図1参照)。

図1 ERPパッケージのライセンス売上高の推移(エンドユーザー渡しベース) 出典:「ERP市場動向に関する調査」(矢野経済研究所 2008年3月)

 これに対して、前述のようにSAP ERPに関する「スキル」を持つ人はニーズに対して不足している状況です。時には、業務ソフトウェアを検討している企業がSAP製品の利用を決定したにも関わらず、その導入に必要なスキルを持つ人材の不足が理由で、プロジェクトの開始時期を遅らせざるを得ない状況になることもあります。

 よって、今こそSAP ERPを学びSAPビジネスの世界に飛び込んできて欲しいと思います。次回は、SAP ERPにまつわるスキル群を、「ITスキル標準」を参考にして整理し、それぞれの説明をしていきたいと思います。

筆者紹介
有村 大吾郎(ありむら だいごろう)
SAPジャパン株式会社 ソリューション本部
パートナソリューション部 部長


SAPジャパン株式会社入社後、SAP ERPコンサルタントとして様々なSAP ERPプロジェクトへ参加。その後、SAP初のCRMソリューションを日本で立ち上げ、SAP CRMソリューションのプリセールス(技術営業)活動とコンサルタントとしてSAP CRM導入プロジェクトの両方を経験し、SAP CRMソリューション部長となる。現在はSAPパートナ企業のSAPビジネスを支援するプリセールス部隊の責任者として、SAPソリューションの拡販を推進している。

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