10年後も飛躍し続けるためのスキル なぜ、SAP ERPに関わるスキルは10年後も通用するのか 第2回 ITスキルの全体像と SAP ERP関連スキルのポイントとは |
有村 大吾郎 (ありむら だいごろう)
SAPジャパン株式会社 ソリューション本部
パートナソリューション部 部長
2008/10/1
SAP ERPに関わることで身に付けられるスキルは、単にソフトウェア自体の設定方法や機能知識を得るだけのものではありません。さまざまな職種への可能性を開き、グローバルの業務や業界に関するノウハウを得る、最良で唯一の手段です。そして来るべきSOA時代においては、SAP ERPに関わる事が、SOAという新しいITアーキテクチャの真価を発揮するための礎になるということについてお話しします。 |
10年後も通用するスキルのポイントを整理する |
前回は「なぜSAP ERPに関するスキルは10年後も通用するのか」として、SAP ERPそのもののスキル/製品知識の話ではなく、まずは業務ソフトウェアに関わることがどのようなスキルをもたらすかの一例を説明しました。また業務ソフトウェアの中でも、SAP ERPに関わることがERPの本質である「全体最適」という視点を学び、さらに最新の「SOA」に関するスキルの取得への近道であることもお話しました。
今回は、改めてITスキルの全体像とSAP ERPに関するスキルを照らし合わせて整理したうえで、「10年後にも通用する」にはどのようなポイントが重要になってくるのかを説明したいと思います。
ITスキル標準を基本に 「普遍的に必要とされるスキル」を洗い出す |
一般的にITスキルを語る時に参考になるのが、 独立行政法人 情報処理推進機構(略称:IPA) ITスキル標準センターが定義している「ITスキル標準」(略称 ITSS:IT Skill Standard)です。
ITスキル標準は「1部:概要編」「2部:キャリア編」「3部:スキル編」の3部で構成されています。「2部:キャリア編」ではITサービスの分野を、「マーケティング」「セールス」「コンサルタント」「ITアーキテクト」「プロジェクトマネジメント」「ITスペシャリスト」「アプリケーションスペシャリスト」「ソフトウェアデベロップメント」「カスタマサービス」「オペレーション」「エデュケーション」の11分野に大別し、それぞれの専門分野ごとに達成度指標などを7段階で定義しています。
今回はキャリアではなくスキルにフォーカスしますので「3部:スキル編」を参考にしたいと思います。「3部:スキル編」には「スキルディクショナリ」というものがあり、ここにITスキル標準で定義されているすべてのスキル項目と知識項目が網羅・整理されていて、それらと各職種との対応も一覧形式で示しています。
図 独立行政法人 情報処理推進機構 IT人材育成本部ITスキル標準センター 「ITスキル標準V3 3部:スキル編」より |
各スキル項目は、下記の表のようなカテゴリに分類されています。この中で、技術の進化と共に激しく変わっていくのが「テクロノジ」で、そのテクノロジに合わせて変化するのが「メソドロジ」と言えます。
前回、私が一例として話に上げた「認識力」「事前想定力」「課題解決力」をあえて分類するならば、それらはスキルカテゴリのうち「パーソナル」に分類されると思います。しかしこの「パーソナル」というスキルカテゴリには、「リーダーシップ」「コミュニケーション」「情報の整理・分析・検索」「ネゴシエーション」「聞くスキル」「情報伝達」といった切り口しか含まれていないので、私が説明した「認識力」「事前想定力」「課題解決力」という視点は標準化して測るには難しいスキルなのかもしれません。しかし、前回の説明でそれらのスキルがより良い結果をもたらすのに重要であることは、理解していただけていると思います。
スキルカテゴリ | 説明 |
テクノロジ | 業務を遂行するに当たり必要とされる技術的なスキル |
メソドロジ | 業務を遂行するに当たり必要とされる手法、方法論、解決技法等のスキル |
ビジネス/インダストリ | その職種、専門分野において知っておきべき知識。業界に特化した事象や業界動向、法律、規則など |
プロジェクトマネジメント | プロジェクト遂行に当たって必要となるスキル |
パーソナル | 業務を遂行する際に必要とされる人間的側面のスキル |
表 独立行政法人 情報処理推進機構 IT人材育成本部ITスキル標準センター 「ITスキル標準V3 3部:スキル編」より |
「SAP 製品に関するスキル(製品知識)」 とそれ以外のスキルの価値 |
SAP ERPなどのパッケージソフトも次々と新しいバージョンが出てきて進化していきます。それゆえ、その製品知識自体はネットワーク技術やプログラミング言語やデータベースなどのスキルと同じように、ある時点で身に付けたスキル(製品知識)がそのままだと、10年後になれば多くの人が身に付けている一般的なスキル(製品知識)となってしまう、もしくは古くて使えないスキル(製品知識)になってしまう可能性があります。つまり製品知識自体は一度身に付けてもそのままだと、いつかは価値のなくなる可能性があるスキルであるとも言えます。もちろん中には、なかなか陳腐化しないニッチな領域もありますし、新しいバージョンや新たな製品に対するキャッチアップによってその価値は再び上がりますが、昔に身に付けたSAP製品のスキル(製品知識)でもなお、前回言及したように、市場ではSAP関連知識を持ったビジネスパーソンに対する需要は逼迫(ひっぱく)している状況なので、少なくともここ数年では非常に価値のあるスキルであることは間違いありません。
また、私があえて「SAP ERPコンサルタント」という言葉を使わず、「SAP関連知識を持ったビジネスパーソン」と言っているのは、SAPビジネスに関連する役割は多種多様だからです。SAPシステム導入を担当する「SAPコンサルタント」や「プロジェクトマネージャ」だけでなく、「営業」「プリセールス」「サポート」「エデュケーション」など、すべてがSAPビジネスに必要な役割で、かつ10年後も通用するスキルをつける「きっかけ」になり得るので、あえて間口を広くした書き方にしています。ぜひ、ご自身に合った役割/キャリアでSAPの世界に飛び込み、スキルアップにつなげていただければと思います。
以上のことから分かるように、今回の連載のテーマである「10年後も通用する人材になるために」としてお伝えしたかったのは、単に「SAP ERPの知識を付けて欲しい」ということではなく、SAP ERPを始めとした関連知識を学び、SAPビジネスに関わることで、単に製品のスキルやテクニカルなスキルを付けるだけではなく、「どんなビジネスにおいても重要となる『パーソナルスキル』を、ぜひ意識して磨いていただきたい」ということです。
さらに、「ビジネス/インダストリ」に関するスキルも、簡単には陳腐化しないスキルです。時が経つにつれ、各ビジネス(業務)や各インダストリの最も注目されている課題やトピックは変遷(へんせん)していきますが、そのスキルが役に立たなくなるわけではありません。むしろ過去を理解していることは、現在と未来に向けた新しい提案の基礎となり、顧客への提案の品質と提供スピードに影響する大変価値のあるスキルになります。
1つの業務を深く知るか、幅広く業界知識を得るか…… |
IT業界で働いている人はIT業界のことがよく分かるのと同じように、この「ビジネス/インダストリ」スキルを付けるならば、実際にスキルを付けたい業務の部門へ異動または転職したり、スキルを付けたい業界に転職すれば実現できます。しかし、それだけのために転職するのはもともとの目的からずれていく可能性がありますし、何よりも時間と手間が掛かります。
これに対して、SAPビジネスに関わりSAP ERPを始めとしたSAPソリューションに触れることで、この「ビジネス/インダストリ」スキルを身に付けることができます。これは、SAP製品が世界中の企業の「ベスト・プラクティス」と言える業務を吸収しながら成長してきた製品であり、それを学ぶこと自体が各業務や各業界を理解することになるからです。
「個別の業務を深く理解すること」と、「ある業界を広く知ること」を同時に実現するのは難しいのですが、どちらかから始めて、将来的には両方ともスキルとして身に付けることが重要です。なぜならば、業務を深く知っているだけでは顧客の要件や悩み・課題に対して業界の動向や方向性を踏まえた解決策を提供できないですし、逆に業界の動向や特徴だけを知っているのでは、実際に各業務を本質的に理解して現実的な解決策を提示できないからです。
SAPは、各業務を包含するERPやCRM・SCMなどといった業務ソリューションと、各業界に特化したインダストリソリューションの両方を提供しているため、そのどちらに触れても「ビジネス/インダストリ」のスキルを付けられます。
「ある業界では当たり前のこと」が「別の業界では新鮮なこと」というのはしばしば見られることなので、「業務特化型」として業務に深く根差しながら、さまざまな業界に触れる「業界横断型」のスキルを付けていくことは、顧客との会話において非常に役立ちます。
一方で、業界に特化して業務を広く見ていく「業務横断型」では、その業界のビジネスや常識を熟知して言葉を理解し、全体最適での視点で考えて提案できるスキルが身に付きます。
もちろん先ほどからお伝えしているように、ゆくゆくはその両方を兼ね備えていく必要があるのですが、10年後に向けて来るべきSOA時代においては、さらにもう1つのスキルとして「サービス」という視点を持つことが必要になります。
ビジネスを理解して初めてSOAの真価が発揮できる |
SOA時代に対応していくためには、まずビジネスプロセスを理解した上で、そのビジネスプロセスを意味のある「サービス」という単位で切り出して考えられなければなりません。このサービスという単位とその組み合わせは、SAP ERPなどのSAP製品だけでなくSAP社以外のサービス化されたパッケージや手組みシステムも含めて捉える必要があり、また特定の業務だけのサービスが分かっても、業界の特性やトレンドを理解していなければ、SOAが実現する新しいアーキテクチャを正しく適用できず、その価値を十分発揮できないことになります。
10年後も陳腐化しない「パーソナル」なスキルを向上しながら「ビジネス/インダストリ」のスキルを付けていく方法として、今こそSOAに対応したSAP ERPなどのSAPソリューションに触れる、それが来るべきSOA時代にも通用する人材となるスキルを身に付ける第一歩になります。つまり、SAPビジネスに関わる事はSAP製品の知識だけでなく、「パーソナル」スキル・「ビジネス」スキル・「インダストリ」スキル、そして「SOA」に対応したスキルをもたらすのです。
次回は、従来の「プロジェクトマネージャ」「上流系コンサルタント」「アプリケーションコンサルタント」「運用担当者」「開発者」といったロール/役割がSOA時代において何へと変わり、それぞれの新しいロール/役割に求められるスキルがどのようなものかについて説明していきたいと思います。
筆者紹介 |
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有村 大吾郎(ありむら だいごろう) SAPジャパン株式会社 ソリューション本部 パートナソリューション部 部長 SAPジャパン株式会社入社後、SAP ERPコンサルタントとして様々なSAP ERPプロジェクトへ参加。その後、SAP初のCRMソリューションを日本で立ち上げ、SAP CRMソリューションのプリセールス(技術営業)活動とコンサルタントとしてSAP CRM導入プロジェクトの両方を経験し、SAP CRMソリューション部長となる。現在はSAPパートナ企業のSAPビジネスを支援するプリセールス部隊の責任者として、SAPソリューションの拡販を推進している。 |
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