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採用の舞台裏から見える転職事情

第5回 年収にこだわるべきか?

山本直治(キャリアコンサルタント)
2007/1/26

転職を考えるITエンジニアは、つい書類選考や面接をどうすれば突破できるかに目が向かいがちだ。そんなとき、転職者を募集する企業の舞台裏では、どんなことが起きているのだろうか。まずは己の敵を知れということで、キャリアコンサルタントが求人企業の裏事情を紹介する。転職する際の参考にしていただきたい。

 電車の中やインターネットに躍る人材紹介会社の広告を見ると、「転職で年収アップ」や「○○○万円転職」という文字が並んでいます。そりゃあ誰だって、給料は1円でも多い方がいいでしょう。でも年収へのこだわりは、時として、毒にもなります。今回は、採用選考に当たって企業が年収というものをどう見ているかということについて考えてみたいと思います。

転職希望者と年収について企業はどう見ているか

 採用選考段階で、企業側が考えることは、(1)その人の現在の年収はどれくらいか、(2)入社後の希望年収はどれくらいか、(3)採用したとして、自社が実際にどれくらいの年収を出す(出せる)か、という3点です(同じことは、転職希望者も考えていることですが)。

(1)現年収

 現年収は、現職でのその人の労働の価値(生産性・能力ともいい換えられる)を「一応、建前として」表しているものと推定されます。とはいえ、年功序列の会社もあれば、実力主義の会社もあります。また、IT業界ならではのピラミッド構造により、上流の会社ほど人月単価が高く、必然的に給与も高くなる現実があります。業種によって、給与ベースに差があるということもあるでしょう(例えば、金融業界は高めといわれる)。さらに、正社員かどうかによっても給与は大きく異なります。時期的に残業が多かったため、その分年収が膨らむこともあるでしょう。

 そう考えると、実態ベースの現年収は、その人の本当の労働価値と必ずしも一致するわけではない、といえます。

「客先の正社員が持っていないスキルを協力会社(あるいは派遣社員)の私が補っており、私がいなければこのプロジェクトは回らないのに、なぜ自分と彼ら(正社員)との間にはこんなに待遇格差があるのだろう(もっともらってもいいはずだ)」
「こんな仕事でこの給料だと、もらいすぎだってことは分かってはいるんですが……」
「こんなに遅くまで働いても、うちは年俸制だから残業代がつかないんです」

 キャリアコンサルタントをしていると、このような、能力・仕事内容と待遇の不一致に関するお話をいつも聞きます。特に、2次請け以降の会社で技術力や業務知識を磨いている人たちの不平不満の声が多いように感じます。しかしただ嘆いていても始まりません。現状の待遇が不満なら、自分の能力に見合った待遇を自らの手で勝ち取るべきですし、それが現在の会社では不可能なら、取るべき手段は1つしかありません。

(2)希望年収

 誰しも転職するからには年収アップ、最悪でも現状維持を、と考えるのが人情です。ただ、先ほど挙げた2つ目の声のように、「いまがもらいすぎ」だと割り切れる方、あるいは「激務ゆえの現年収」からの脱出を考える方にとっては、年収ダウンの転職も現実的な選択肢に入ってきます。

 キャリアコンサルタントとして難しいと思うのは、業界水準や、その人のスキル・職位から見て相当と思われる額よりも現年収が高めの方から「転職したい」と頼まれたときです。「年収を下げなければ転職先はあまりありません」とお伝えしても、ご理解いただけないことが少なくありません。

 そもそも、年収は上がりさえすればいいものなのでしょうか。私は必ずしもそうだとは考えていません。例えば、営業職を筆頭に、初年の年収が高く提示されると、求められるもの(責任)と、それにまつわるプレッシャーも大きくなります。

 顧客を転職先にごっそり持っていけるとか、技術やマネジメントによほど自信のある方でない限り、希望年収が高すぎることは、今後その会社で働くことになるあなた自身にとってはいいことばかりとは限らないのです(転職に当たり家族と相談するときは、特にその点に気を付けることをお勧めします)。

 現に、私がかつて転職をサポートした方で、最終面接で社長から「君の希望する額を払おう。いってみてください」といわれたものの、社長の前で高い額を宣言するとそれが後々プレッシャーになると考え、控えめな数字をいってその額で入社した人もいます(社長の作戦勝ちという考え方もありますが……)。

(3)現実年収

 では、内定したときの現実の年収はどう決まるのでしょうか。これは業種・職種・職位・社格・経験・年齢などの複数の要素により変わってきます。

 現実的な話をすれば、これだけ中途採用が一般的なIT業界においてさえ、年功序列をベースに給与体系が組まれている会社はまだたくさんあります。

 一方で、年齢にかかわりなく、それまでの経験を基準として、入社後についてもらうべきポジションを想定して、それにふさわしい職務給・職能給などを算出する会社もあります。さらには、そう多くはありませんが、初年度は前職の給与額を保証することをうたう会社もあります。

 総じて、2次請けから元請け、子会社から親会社に移ると給与水準は上がるようです。

 ただ、個別の企業ごとの給与水準は、結局実績ベースで見ないと分かりません。「自分の経歴だと○○社でどれくらいの給与が出そうですか」と、応募前に人材紹介会社に聞いてみることをお勧めします。

現年収が低いと足元を見られるか

 転職希望者を企業にご紹介する際に、「この方の現在年収を教えてください」と聞かれたり、あるいは面接の中で企業がご本人に直接聞くことはしばしばあります。それは何のために聞いているのでしょうか。

 その人を採用すると仮定した場合に、どのようなオファー(入社条件提示)をするかの判断材料を得るためです。その際には、その転職で年収を少なくとも維持できるかどうかに注意が払われます。

 しかし、ここで素朴な疑問がわきます。書類選考と数回の面接で、客観的にその人のスキル・経験、いや実際現場に出てどれだけ活躍してくれるかまでを見抜き、転職先企業の従業員とのバランスを取った客観的な年収を出せるのか、ということです。

 実態をいえば、年収は、以下の複合的な要因で決められているのだと思います。

・自社の同クラスの従業員の給与水準に合わせてその人の年収を決める。その際、その人の業務経験内容・年数、年齢、面接の結果などから、「おそらくこれくらいやってくれるだろう」と想定する。あるいは、前職で年収を○○○万円ぐらいもらっていたのなら、それ相応の経験をし、成果を出しているはずだ、と想定する。

・最低限、転職に当たりその人の年収が減らないように配慮する(もちろん、配慮しきれるとは限らない)。

 この仮説が正しければ、どんなに素晴らしい経験をし、実績を上げている方でも、前職が薄給の会社だったら、足元を見られてしまうかもしれない。そんな気がするのです。

ある企業の本音

 一方で、ある企業からはこんな意見も聞こえてきました。

「1年目の年収は、客観的な評価よりも少し低めに出す」

 人材紹介会社への支払いを抑えるため(笑)というのは冗談として、本音は次のようなところにあるようです。

「この人はここまでやれる、と思って採用したのに、見込み違いの場合というのはどうしてもある程度発生する。そんなとき、『あなたは思ったより働いてくれていないから2年目に給料を下げる』とはいいにくい。逆に『期待どおり(以上)の活躍だ』という人に、(本来1年目に乗せておくべきだった分も含めて)2年目以降に給料をアップさせる方がやりやすい」

 転職時の年収がいくらになるかというのは、とにかく複雑怪奇な問題です。目先の変動には、こだわるべきときも、こだわらない方がよいときもあります。ぜひ、信頼できるキャリアコンサルタントに相談し、「成功した」といえる転職ができるようお祈りいたします。

筆者プロフィール
山本直治
労働市場の限界と格闘しながらITエンジニアのキャリア形成をサポートする公務員出身の異色キャリアコンサルタント。 現在はロード・インターナショナルで活躍中。



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