Tech総研
2010/8/9
沖縄を例に、 IT系エンジニアの年収を考える |
ここで1つ、地域の特性を知るために例を挙げてみよう。最近、米軍基地移転問題で社会をにぎわせた沖縄だ。沖縄県の1人当たりの県民所得は全国最下位で、全国平均の70%程度。また失業率は全国一高いといわれている。それでも沖縄に製造業がまったくないわけではないが、この調査ではサンプルが得られなかった。ただ、IT系では11件のサンプルが得られており、その平均年収は368万9000円。IT系だけの年収ランキングでは、30位と全体の中位につけており、長崎、熊本、岐阜を上回っている。
沖縄が地域IT産業のフロントランナーと目されるようになったのは、2000年ごろから。内閣府の沖縄総合事務局や県がグランドデザインを描き、従来の農水産業や観光業に依存しない自立した経済力を生み出すために、積極的に情報通信産業関連の企業誘致に動いた。2000年の情報通信産業の企業数が30社、雇用者数が8600人だったのに対して、2007年には、企業数162社、雇用者数は2万人に達している。県内の自治体でも独自にインキュベーター施設を用意して、ITベンチャーの誘致や創成に動いているところがある。そうした助成策を受けて、東京のWebデザイン会社が沖縄事務所を開設する例もある。高速回線を使えば、ネットワーク・カンパニーとして十分活動ができるのだという。
2007年度からは、IT業務のアウトソーシングの拠点として「沖縄IT津梁(しんりょう)パーク構想」も持ち上がっている。報道によれば、県内で10〜50ヘクタール規模の土地を開発し、企業のコールセンターやデータセンター、ビジネスプロセスアウトソーシング事業の集中した受け皿となることを目指しているという。2万4000人分の居住施設を含めた計画。いわば国内オフショアの拠点づくりといえる。
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沖縄の企業の賃金は関東、関西地区に比べ決して高いとはいえない。IT産業にしても県内の市場はいまだ小さく、その多くが「本土」の受託にならざるを得ないのが現状だ。とはいえ、ライフスタイルという面では魅力的な要素がいくつもある地域である。例えば沖縄本島でさえ車で30分も飛ばせばビーチリゾートに到着する。オフィスの立地次第では、窓外に常に青い海を見ながら仕事をすることも夢ではないだろう。夕方には仕事を終えて、ダイビングざんまいというライフスタイルの実現可能性は、少なくとも首都圏にいるよりは高いというべきだ。
東京で500万円もらって満員電車に揺られ、狭いアパートで暮らす生活がよいか、沖縄で370万円の年収でも、自然に恵まれた生活をするのがよいか、という選択肢があるということだ。東京と沖縄の比較は極端な例かもしれないが、地方勤務を検討する際には、賃金が相対的に低いというネガティブな条件だけでなく、ほかの生活の諸条件──物価の安さ、地域性、自然環境、趣味の実現性など──も検討対象にすべきなのだ。
「高賃金=高満足度」とは 必ずしもいえない |
実際に、現状の年収への満足度を聞くと、年収の低いところでは満足度も確かに低いが、とはいえ、年収が高いから満足度が高いとは必ずしもいえない、ということも分かる。
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満足度が高いランクには、三重(5位)、鳥取(35位)、香川(10位)、青森(45位)、奈良(8位)、石川(25位)、佐賀(18位)などが並ぶが、これらは三重、香川、奈良を除けば、いずれも年収ランキングでは中位から低位の県だ(※カッコ内が年収ランキングの順位)。逆に、東京(3位)、神奈川(4位)は、満足度が40%を切り、満足度ランキングでも中位に甘んじている。
都会では年収がいくら高くても、食費や住居費、交際費などが高くつき、生活が苦しいということの表れかもしれない。逆にいえば、年収が低い県で満足度が高いのは、それ以外の諸条件が満たされているということでもあるだろう。もちろん、沖縄や秋田、宮崎のように年収も低く、満足度も低い地域もあるから、このあたりは一概にはいえないけれども……。
今回の調査では、企業規模や年齢はあえて無視して結果を紹介している。ただ、ハード・ソフトウェアのエンジニアの全体的な傾向はつかめるはずだ。今後、地方勤務を含む転職を考えている人にはぜひ参考にしていただきたい。
この記事は、Tech総研/リクルートの2010年6月11日公開の記事を 再編集して掲載しています |
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