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必要とされるキャリアとスキルを追う!

第5回 オープンソースコミュニティとともに歩んで

加山恵美
2006/8/9

最も影響を受けたのはPythonの創案者

 コミュニティとのかかわりは公私ともにシュタイン氏にとって大きい存在だ。影響を受けたコミュニティの人を何人か教えてほしいというと、「いいよ」と快諾した後に止まらないほど何人も有名人の名前が出てくる。

 まず初めに出てきたのはPython創案者のグイド・ヴァン・ロッサム(Guido van Rossum)氏。「すごく、すごくいい人です」とシュタイン氏。ロッサム氏はオランダ出身で1995年から米国に住んでいる。シュタイン氏が最も注力したオープンソースの言語はPythonだそうで、故にロッサム氏との関係はとても深く貴重なものであるらしい。

 「前から一緒に仕事をしたいと思っていました」

 長年の念願はついにかなうことになった。ロッサム氏も2005年末からグーグルで働くことになったからだ。ほかにもオープンソースの盟友が何人かグーグルにいるという。

 次に挙げたのはLinuxカーネル開発者のリーナス・トーバルズ(Linus Torvalds)氏。同じく「すごくいい人」とシュタイン氏はほめたたえる。初めて会ったのはLinux関係のイベントで、公私両面で仲が良いという。「サンノゼの家にも招待してくれて、とても親切にもてなしてくれました。いまはオレゴンに移りましたけどね」

人柄がコミュニティ活動を成功させる

 Linuxデスクトップ、GNOMEのミゲル・デ・イカーサ(Miguel de Icaza)氏については「すごくエネルギッシュで面白い人です」と満面の笑顔で話す。その表情は思い出し笑いをしているようにも見える。もしそうならイカーサ氏はよほど印象的なことをした人なのだろう。確かにオープンソースの有名人の中でもイカーサ氏は新星のような存在だ。若さからくる行動力は多くの人を圧倒しているのだろう。またイカーサ氏は昨年夏にはGoogle Summer of Codeにも協力し、学生の指南役も買って出ていたという。

 ほかにもPHP創案者のラスマス・ラードフ(Rasmus Lerdorf)氏については「おおらかでいい人、そしてすごい人」、またティム・オライリー(Tim O'Reilly)氏についても「素晴らしい人」と絶賛する。

 「誰もがとてもいい人、ナイスガイです。やはりそうした善良な人柄が彼らのソフトウェアの成功につながっているのだと思います。もしいい人でなかったら、周囲は一緒にやっていこうと思わないですから」

 オープンソースコミュニティで成功するには、人柄が大きく影響するそうだ。いわれてみれば確かにそうだ。コミュニティは仕事ではなく、趣味で皆が参加しているものだ。周囲の人間関係が良好でないと続かないだろう。人を引きつけるような友好的な人柄を持つ人が中心となっているコミュニティは成功するというわけだ。

オープンソース活動がキャリアを広げる

 シュタイン氏は特にITエンジニアに対してはオープンソース活動に参加することを勧めている。これからのITエンジニアにとってオープンソース関係のスキルが必要になるだけではなく、オープンソースコミュニティからは多くのことを学べるからだという。

 「オープンソースコミュニティではチームワークやコンセンサスが重要になります。こうしたことは参加を通じて体得できます。また、オープンソースコミュニティには偉大なITエンジニアが数多くいます。そうした人物と接触することでいい影響を受けることができるでしょう」

 自分の所属する企業内だけでは人脈は限られてくるが、オープンソースコミュニティに接点があれば人脈はかなり広がる。もちろん素晴らしい人ばかりとは限らないが、長年コミュニティで活躍する人には信頼のおける人が多い。自分がどんな会社や学校にいても素晴らしいITエンジニアと出会うチャンスがあるのは、オープンソースコミュニティならではだ。さらにシュタイン氏は付け加える。

 「企業が優秀なITエンジニアを探そうとするとき、オープンソースコミュニティから探すこともあります。オープンソースで活躍すればキャリアの幅も広がるでしょう」

 企業がオープンソース関連の技術を求めているならばだが、コミュニティでの活躍が評価されると、そこから本職への道が開けることもある。企業で働くほかにオープンソースコミュニティへも参加することで「ITエンジニアは2つの世界を持つといいでしょう」とシュタイン氏はいう。

つらかったペン入力システム

 何でもできてしまうように見えるシュタイン氏だが、苦労したことはあるのだろうか。最もつらかった時期はいつかと質問すると、「eShopで働いていたとき」という。まだキャリアがスタートして間もないころだ。

 先に経歴で触れたが、シュタイン氏は卒業後に就職した会社を2年後に離れ、会社を興した。会社の運営からシステムの運営まで、失敗はあまり許されない状態が過酷さを強めたのかもしれない。当時ペン入力のシステムを開発していたという。まだ1990年代に入ったばかり。現在に比べればIT技術は格段に違う。

 「ハードウェアの管理に苦労しました。当時はまだメモリもCPUもパワーがないですし、ペン入力システム用のソフトウェアもありませんでした。ユーザーが使える状態にするにはやらなくてはならないことだらけで、とても苦労しました」

 後に同社はeコマース分野に進出し、それがきっかけでマイクロソフトに編入することになる。マイクロソフトは同社のeコマース技術を高く評価し、シュタイン氏らの技術を特許申請した。シュタイン氏はeコマース関係で4つ特許を保有している。

ITエンジニアとマネージャを比較すると?

 いまでもコーディングをこなし、オープンソースや開発の話になると目を輝かせるシュタイン氏。だが現在の仕事はマネジメントだ。ITエンジニアとして開発するのと、マネージャとして管理するのでは、どちらが好きなのだろうか。

 「難しい質問ですね」

 ソフトウェア開発における実績には自負がある。だがいまはチームで働くことの可能性や面白さも楽しんでいる。仲間がいればより大きなことを達成できる。チームをまとめあげることの醍醐味(だいごみ)もある。だが本音はやはり開発のようだ。悩んだ揚げ句、シュタイン氏はこう答えた。「管理より開発が好きですね。でもいまの仕事も好きです。CollabNetを去った理由の1つに管理の仕事をしたいということがありましたし」

 正直な好き嫌いで判断するなら開発なのだろう。「開発をしているときはパズルを解いているような楽しさがあります」という。だが仲間と働くことの楽しさにも魅力を感じており、自分の管理能力を伸ばすことにも前向きだ。どちらか選ぶのは確かに難しいようだ。

ゲーム好きな一面も

 プログラミングをパズルやゲームのように楽しむ好奇心があるからこそ、幅広くIT業界で能力を発揮できるのかもしれない。実はシュタイン氏はゲームも大好きだ。ゲームに特化したブログ「SO MANY GAMES...」も運営している。ゲームは好きかと聞くと「イエス!」と笑顔で即答した。続けて「“I'm a Gamer”と書かれたTシャツを着たりしますよ」といい、周囲を笑わせる。

 所持しているゲーム機はセガサターン、PS2、Xbox、ニンテンドーDS、PSPなど、ほぼ一とおりそろえているようだ。ゲームの話をするとシュタイン氏は無邪気に笑う。その顔は、かっこいいものが好きで尽きることのない探求心を持つ若者そのものだ。

コミュニティの人間関係は長く続く

 ソフトウェア開発に25年、オープンソースにも12年。「いまのグーグルの仕事はその頂点にあります」とシュタイン氏。これまでに蓄積したスキルを持って、これまでの実績の集大成として、シュタイン氏はグーグルで仕事をしている。新しいもの、面白いものへの興味も尽きない。まだまだITエンジニアとして活躍する意欲は満々だ。

 シュタイン氏の将来がどういう形であれ、オープンソースは外せない要素だろう。彼の頭はオープンソースへの愛着で満ちあふれている。オープンソースとかかわることに純粋に喜びを感じ、人生でも欠かせない要素のようだ。

 「コミュニティでは多くの人に会いました。彼らとコラボレーションすることは楽しいですし、それが活動を継続する動機にもつながります。仕事でソフトウェア開発をしても短期間で終わりますが、コミュニティで培った人間関係はより長く続きます」

 オープンソースがITエンジニアを続ける動機につながること、オープンソースの存在意義など、シュタイン氏はITエンジニアに伝えたいことを多く抱えている。これからも彼はオープンソースの取りまとめ役および伝道者として、コミュニティおよびIT業界を支えていくことだろう。

 

今回のインデックス
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