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必要とされるキャリアとスキルを追う!

第7回 未来を見据え、どこでも通用する技術を追え

下玉利尚明
2006/9/6

ITエンジニアの第一歩は大手電機メーカーで

 さて、現在、ヤフーのシステム統括部で活躍する鳥谷部氏だが、どのようなキャリアを歩んできたのだろうか。振り返ってみよう。

 鳥谷部氏の学生時代の専攻は、ITとは無縁の「環境工学」だった。「エコロジーという言葉が注目され始めたころでした。水処理や廃棄物処理の技術を専門に学んでいたのです。大学4年生のとき、大学院への進学か就職かを悩んでいたころに『インターネット』と『携帯電話』が急速に普及し始めて、私たち学生でも普通に利用できるようになりました。そのときに、とても大きな衝撃を感じていたのです。インターネットや携帯電話の急速な普及により学生であった私たちの生活も変わりつつありました。『もしかしたら将来、もっとインターネットが普及することで人々のライフスタイルがガラッと変わっていくかもしれない』……。そう感じたときにITに関連した仕事に就きたいと強く感じたのです」(鳥谷部氏)

 鳥谷部氏は大学卒業と同時に、大手電機メーカーのシステム開発を手掛ける部門へと就職した。「文系出身者が多い営業職、文系も理系もいるSE職、そしてプログラムの開発を手掛ける開発職の大きく3種類に職種が分かれていて、その中のSEとしてITエンジニアの第一歩を踏み出したのです。プログラムを開発したいわけではなく、ITシステムを構築しながら多くの人のライフスタイルに影響を与えるような仕事に就きたかった。そこでSE職での就職を目指したのです」(鳥谷部氏)

 鳥谷部氏が入社してすぐに担当した業務は、大手銀行の合併に伴うシステム統合のプロジェクトだった。専攻学科からも分かるように、鳥谷部氏は学生時代にITに関連した専門的な勉強をしてきたわけではない。入社してすぐに、非常にミッションクリティカルで大規模なプロジェクトにアサインされて戸惑いはなかったのだろうか。

 「大規模なプロジェクトであっただけに人数も多かったのです。システム統合に向けて各種プロジェクトが並行して進行する中で、現場の先輩SEを補佐する形で、イチからプロジェクトマネジメントの基礎を学んでいくことができたのです。その意味では、時間のかかる大きなプロジェクトだからこそ、じっくりと『育ててもらえた』と感じています。具体的に担当したのは、システム全体、ネットワークやサーバの構成をどうするかを検討し、要件定義をして、設計を詰めていく作業でした。サーバの構築にも携わりましたが、開発は主に別のチームが担当していましたから、その開発の進ちょく管理を行いました。全体を通じて、いわゆる上流工程でのプロジェクトマネジメント業務で、システム統合までに約2年間、その後の運用とメンテナンス業務に約2年半と合計4年半もこのプロジェクトに携わったのです」(鳥谷部氏)という。

インターネットでライフスタイルを変えたい

 約4年半のプロジェクトマネジメントの経験を積んだ鳥谷部氏は、その後、ヤフーのITエンジニアとして活躍することになる。なぜ、転職を決意したのだろうか。2次請けや3次請けのSIerで日々、コーディングに追われている多くのプログラマからすれば、SEやプロジェクトマネージャという立場で経験を積み上げていける鳥谷部氏のようなポジションは、とても大きな魅力がある。

 そう考えると、スパッと転職に踏み切った鳥谷部氏の真意を探ってみたくなる。「私も4年半の経験の中で、多くのプログラマの過酷な仕事ぶりを身近に見てきました。そんなときには、私が最初からプロジェクトマネジメントの業務を経験できたのはとても幸運だったと思ったこともありました。ただし私の心の中では、どうしてもシステム開発の業務は、クライアントの要望を受けて、その要望に合ったシステムを構築するという『受け身』の業務という印象がぬぐえなかったのです。もともとIT業界への就職を考えたきっかけは『インターネットなどのITシステムで、多くの人のライフスタイルを変えてみたい』と感じたからです。そのためには、自ら何かしらのITサービスを企画し構築し提供するしかない。無我夢中だった4年半が過ぎるころ、そういった気持ちがとても強くなってきたのです」(鳥谷部氏)

 それだけではない。「SEやプロジェクトマネージャはいくつものプロジェクトを渡り歩いて、自らの知識や経験に磨きをかけ、自分自身を高めていくものです。ところが最初に携わったシステムが、あまりにも『大きかった』ために、そのプロジェクトにかかわったSEは、それから先もずっとそのプロジェクトの運用とメンテナンスに携わるように、いわば『レールが敷かれていた』のです。何となく発展性が感じられなくなってしまったのですね。そこで転職を決意したのです」(鳥谷部氏)

 実際に転職をするに当たって、鳥谷部氏はITエンジニアの転職をサポートしてくれる人材紹介会社を利用した。もちろん、大学卒業時に思い描いた「夢」を実現すべく、「インターネットに関連したサービスを一般の利用者の方々に提供できるような企業」への転職を希望した。

 しかし、現実は甘くはなかった。

 「銀行のシステムという、いわばインフラ系のITシステムの構築経験はあっても一般利用者に向けたコンシューマ系サービスの経験がなかったこと、そして、プロジェクトマネジメントの経験はあっても、コンシューマ向けのサービスを企画した経験もありませんでした。それらのことから総合的に判断すると、やはりこれまでの経験を生かしてシステムインテグレータでプロジェクトマネジメントをするのが妥当な選択といわれました。どうしてもサービスの企画に携わりたいのであれば、事業会社の社内SEとして社内システムの企画・立案から構築までの経験を積み、その後にコンシューマ向け企業へのステップアップという選択肢も考えられました。いきなりコンシューマ向けサービスの企画・設計・構築を任せてもらえる企業への転職という選択肢はなかったのです」(鳥谷部氏)

学ぶ姿勢を失わず新しいことへの適応力を養う

 ところが……。「そんなとき、たまたまヤフーで社内SEを募集していると知らされたのです」(鳥谷部氏)。ヤフーといえば、インターネットのサービスで多くの人たちのライフスタイルに変革をもたらしてきた企業である。鳥谷部氏が当初から抱いていた職種の希望にぴったりとマッチしている。

 ただし、ヤフーで担当する業務は一般の利用者向けのサービスの構築ではなく、社内システムの構築となる。「次々に新しいサービスを提供していたヤフーという企業には非常に興味がありました。あれだけのサービスを提供している企業が、いったいどんな社内システムを構築していて、どういった手法で業務を回しているのか。そこまで考えると社内システムの構築という業務を担当させてもらえるとすれば、それは非常に大きなやりがいのある仕事になるのではないかと思ったのです」(鳥谷部氏)

 いまでこそ、一般の利用者向けのサービスの企画と設計などを手掛けているが、入社した当初は社内システムの企画・設計・構築からのスタートとなった。それでも、例えば、社内の電子メールシステムのリプレースなどを手掛けた際には、「多くの人からの要望を吸い上げ、システムを企画し、実現のための要件を定義し、それを外注のシステム開発会社に伝える。従来の業務とは違って、社内システムとはいえ、自ら企画して作り上げる立場になれたのです。その意味では喜びは大きかったですね」(鳥谷部氏)と振り返る。

 さて、約4年半のプロジェクトマネジメントの経験を経て、ヤフーのシステム統括部へと転職した鳥谷部氏だが、ご自身では、自分自身の知識やスキル、キャリアの「どの部分が評価されて」新たな一歩を踏み出すことができたと考えているのだろうか。

 「実は事業部長との面接の際に『ダメもと』で『本当は社内システムではなく、一般利用者向けのサービスの企画・構築をやりたいのです』とアピールしてみました。そのほかにも、学生時代からずっと思い続けていた『インターネットのサービスで多くの人のライフスタイルを変えるような仕事がしたい』『ヤフーならそれができると考えている』というようなことも素直に話しました。やはり、いままでの経験を語り、『いままでこれをやってきました』だから『これができます』とアピールするだけでは、少しも『未来』が感じられないのではないでしょうか。ほんの少しでも将来のこと、これから先のことを視野に入れて話せたことがよかったのではないでしょうか」(鳥谷部氏)

 鳥谷部氏は、「私が銀行のシステム統合のプロジェクトで学んだことは、そのままヤフーで生かせるものではありませんでした」という。「銀行のシステムは『落ちない』『止まらない』が大前提ですから、新しい技術よりも、すでに多く使われている実績のある『安心できる』技術が利用されます。いわば何世代も前の技術をヤフーで生かそうとしても、それはあまり意味がない。役立つことといえばヤフーのサービスも『落ちない』『止まらない』を重視しているというマインドの部分のみでした。自分が持っている知識やスキルが、それほどには役に立つことはないと分かっていたので、過去の実績をアピールするよりも、『新しいサービスの開発に携わりたい』という適応力や柔軟性があることを話せたのがよかったのではないかと思います」(鳥谷部氏)

 そんな鳥谷部氏だが、いつも心に留めていることがあるという。1つは、「ここでしか通用しない技術を極めるのではなく、未来を見据えて、どこでも通用する技術とはどんなものかを考えること」である。もう1つは、「先輩たちの背中を常に見つめて、常に学ぶ姿勢を失わないこと」である。これを実践してきたという。そしていまでは、過去の経験をベースに「新しいことへの適応力を養うこと」にさらに注力しているという。

 既存のサービスの「安心・安全」を高めつつ、利用者に応じての「使いやすさ」や「分かりやすさ」をも追求する。鳥谷部氏は、インターネットの技術やサービス、利用者の変化に柔軟に適応しつつ、常に前を見据え続けているのだ。

 

今回のインデックス
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