第9回 コンサルを目指すなら、楽している暇はない
長谷川玲奈(@IT自分戦略研究所)
2006/11/17
■コンピュータの「使われ方」に興味を持って
大山氏がITエンジニアを目指したきっかけを聞いてみた。「単純に、ITというかコンピュータが好きだったのが理由です」という。コンピュータに初めて触れたのは中学生のころ。「機械系は不得意だった親が、『これからはコンピュータの時代だ』と買ってきてくれたのが最初です。雑誌を見ながら、プログラムを打ち込んで遊んでいました。親自身はまったく使えないので、『何でこんな便利なもの使わないの?』と思っていました」というコンピュータ好きの少年だった。
しかし、コンピュータが好きでITエンジニアを目指した多くの人と大山氏の異なる点は、大学進学の際に理系の学部ではなく経営学部を選んだことだろう。「通常はコンピュータの内部に興味を持って工学部などに行く人が多いと思うのですが、わたしはそうではなくて『使われ方』に興味を持ったのです。例えば会社の中でこういうふうに使えば、業績を上げられるなどです。そこであえて工学部ではなく、経営学部に行きました」。卒業後は「経営の中で一番コンピュータを使っているのはどこかというと、会計です。ITも会計もやっているということで」監査法人系のコンサルティング会社に入社した。
最初の会社ではITエンジニアとして会計を中心としたシステム構築を担当。汎用機の仕事が多かったという。
そんな大山氏に転機が訪れたのは、入社して2年目のころだ。「ちょうどインターネットが出始め、Web系のシステムが走り始めていたころだったかと思います。基幹の照会系システムを作ることになりました。『何か簡単にできる方法はないか』という話があって、規模もそんなに大きくはなかったので、ASP(Active Server Pages)とVBScript(Visual Basic Script)の組み合わせで簡単なWebの仕組みを作ったのです。インターネットで技術的な情報を探すこともまだ普及していなかったころですが、何とか作って、評判も良かったという経験をしました」。サポート役の先輩は1人いたが、ほぼ大山氏1人で作り上げたそうだ。もちろんWebのシステムの開発は初めてだった。
このことがきっかけでWeb系、オープン系のシステムに興味を持ち始めた。「会計以外のシステムも開発したい、オープン系システムをメインにやりたい」という思いが募り、2002年10月にフューチャーシステムコンサルティングに転職した。特にこの会社を選んだ理由は、「年齢層が若いことと、特定のメーカーに偏らず最適解を提供できるところに引かれました。それから、面接のときに『仕事が大変だよ』といわれたことです。若いうちに楽をしても……という考えがあったので、ある程度大変なところに身を置いてみようかという気持ちがありました」という。
実際に以前の会社と比較してどうなのだろうか。「大変です。時間的にも多忙ですし、地方のプロジェクトが多く、体力的にもつらいところがあります。ただ行ってみると、地方にはそれぞれ特色があって面白いと感じます」
「比較的、やる気のない人が少ない」のも特徴だという。「前向きの人が多いです。お手本にしたいITエンジニアもかなりいます。技術的にも尊敬できる人は多いですし、人間的に素晴らしいなという人もいます」
■プロジェクト内で新人指導
さて、今回のプロジェクトで大山氏は、メンバーの技術サポートに加えてあることを受け持った。新人の指導だ。このプロジェクトにアサインされた社員には、研修が終わったばかりの新人が多かったのだ。「だから立ち上がりは大変でした」と大山氏は当時を振り返る。いってみれば大山氏は、プロジェクトの中で、新人メンバー全員のOJTリーダーを務めていたわけだ。後輩の指導をしたことがないわけではないが、今回のように一度に多くの面倒を見た経験はなかった。
「いい経験が積めたと思います」という大山氏が、新人指導で心掛けていたこととは何だろうか。
「新人は分からないことだらけだと思うので、技術的なことはなるべく教えようと考えていました。ITエンジニアの中には、自分の中に知識をため込んでしまってなかなか外に出したがらない人も多いと思うのですが、私はなるべくオープンにしたいと思っています」。新人が分からないところを質問するときには、「『まずは自分で考える』という目標は持ってほしいのですが、その前に必要な情報は与えてあげる必要がある。何もないところから『考えろ』というのは、新人には酷な話だと思うのです。例えば『ここを調べれば分かるよ』とか、そういう情報を与えてから考えさせるというのを心掛けていました」
中には「分かりません、動きません」のように、自分ではまったく何も調べずに質問をしてくる新人もいる。「そのときもヒントをあげています。あげすぎるときもあるかな、どっちにするかは人によります」と笑う。
どうやら大山氏は、かなり新人に優しい先輩のようだ。まったくヒントを出さないというスタンスの先輩も中にはいるだろう。「それだと、そのままダメになってしまう人もいますよね。プロジェクト内での役割として厳しい人がいてもいいとは思うのですが、今回自分は『何でも聞いてあげる立場』だと思っていたので、ちょっとあげすぎるくらいにしていました」
アプリケーションフレームワークを作成するときも、システムの開発規模が大きくなり、新人などさまざまなスキルレベルのメンバーが集まることが予測できたため、使いやすさには十分配慮したそうだ。「知識がなくても……というのは大げさですが、開発しやすいものを作るように心掛けました」という。
この大山氏の意図が見事に成功を収めたのは前述のとおりだ。「ちょっと残念だったのは、フレームワーク内部の作り込みの部分まで理解できる人を育てられなかったことです。工夫した点が全部伝わっていないかもしれません。うれしかったのは、協力会社のメンバーに『よくできているね』といわれたこと。『簡単でいいね、こんなの見たことない』といわれたので、開発しやすいものができたのだと思います」
■仕事は1人でやるものではない
プロジェクトでの新人指導を含めたこれまでの経験から、大山氏が後輩のITエンジニアに伝えたいことを聞いてみた。「仕事は1人でやるものではないということです。周囲の人が完ぺきだとは限りません。新人だったり、スキルが足りなかったりということもあります。いろいろな偶然で一緒に仕事をする人たちと、チームとして力を発揮することが必要です。もちろんそのためには自分にもスキルがないといけません。この『周りを巻き込んで仕事をする』という意識のない人が、意外に多いと感じます」
「仕事を続けて20代の後半ともなると、ある程度自信がついてきているでしょう。『自分は何でもできるんだ』という人もいます。私も昔はそうだったのかなという気もします。しかし、そのうち限界が見えてきます。特に大規模プロジェクトになると、1人の力でできることは限られる。メンバーを巻き込んで、上司も巻き込んで、お客さまも巻き込んでやっていかないとうまくいかないかなと思っています」
新人のうちから要件定義など、いわゆる上流工程をやりたがる人がかなりいると感じているそうだが、彼らにはこのように警告する。「ある程度基礎となるものを持たないといけないと思います。足腰ともいうべき基礎がないと、何もできない」
まずは基礎体力としての技術が必要ということだ。初めのうちは基礎をしっかりと学んで身に付け、それを基にして上流に進む。それが、大山氏が転職を決めた際の「若いうちに楽をしても……」というコメントにつながるのかもしれない。
■変わらない目標に向かって
大山氏の今後の目標を聞くと、「学ぶ技術はいろいろあるかと思いますが、お客さまと接点がある仕事がいいと思っています」との答えが返ってきた。次のプロジェクトへの希望は、「今回は技術寄りだったので、次はお客さまと接点が多いプロジェクトに参加したいです。あまり大きくなく、自分が見切れる程度の規模で、今度はプロジェクトリーダーに近い立場になりたいと思います」という。これからもコンサルティング寄りのプロジェクトを経験し、将来は業務コンサルティングのような仕事をすることを考えているそうだ。
技術的な経験を積んだうえで顧客と接する仕事がしたいという希望は、大学で経営学を学んでいたときから「変わっていない」。そもそもコンピュータの「使われ方」に興味を持ってITの道に進んだ大山氏の視点は、常にシステムを利用する側に据えられ、決して揺るがないようだ。そして厳しい環境で基礎となる技術力を身に付け、それを基にして一歩一歩コンサルタントへの道を進んでいる。
「たくさんの人にITを使ってもらいたいのです。会社なら利益を上げられる、個人なら仕事が楽になるなど、ITの恩恵はいろいろあると思います。そのことを多くの人に広めたい、価値を知ってもらいたいと願っています」と大山氏は語る。
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