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必要とされるキャリアとスキルを追う!

第15回 インターネットのライフラインを守リ抜け

長谷川玲奈(@IT自分戦略研究所)
2007/6/26

さらに大きなステージへ

 2002年、そんな板垣氏に2度目の転機が訪れる。在籍企業から分社化した企業が買収で楽天グループに参画し、その社長から「楽天に来てみないか」という打診を受けたのだ。インターネットバブルの崩壊後、小規模ベンチャー企業ではあまり大きな投資はできず、手掛けるサービスも小粒になってしまっていた。「楽天は当時従業員300人くらい、まさに成長真っ盛りという時期でした。より大きいサービスを手掛け、世の中のより多くの人たちに使ってもらうために、楽天というステージで活躍したいと思い、転職を決意しました。ひと言でいえば、より大きな舞台を求めたということです」と板垣氏は笑う。

 以来5年間、板垣氏は一貫して楽天の会員システムの企画・開発・運用を指揮している。冒頭で述べたように、新規のサービスをいかに会員システムに連携させていくかが板垣氏のミッションだ。「楽天グループ内を走り回って、サービスをつなげることに努めています。いまは対応していないサービスを探す方が難しいです」という。

 板垣氏が会員システムにかかわり始めた当初、管理する会員数は200万ほどだった。それが現在は2600万人を管理する。理想どおりの大きな舞台を得て、「ものすごく巨大なシステムを手掛けることができるようになったのは大きなやりがいです」と語る。

 それだけに、責任も重い。まずセキュリティ管理には万全の体制をもって臨まなければならない。「ソフトウェアのぜい弱性に関するニュースに目を配ったり、最新の暗号化技術を勉強したり。文献を読む、カンファレンスに参加するなどしてどんどん情報を吸収していく必要があります。クラッカーの攻撃手法も変化していくので、いろいろな情報ソースを活用しながら最新のトレンドを追いかけています。そして2600万人の個人情報をきちんと守ることを心掛けています」

 セキュリティと同時に求められるのがアベイラビリティだ。「とにかく、決して止めてはならないシステムです。会員システムに楽天グループの全部のサービスがつながっているということは、すなわちそこが止まると全部止まるということです。例えば買い物かごのシステムが止まっても、買い物機能は止まるがほかのサービスは止まらない。会員システムが止まると、本当に何もできなくなってしまう。いわば楽天グループの生命線です。なので、いかに止まらない仕組みを構築するかというのは大きなテーマ。そのためにどういう方法があるかについては、常に勉強しています」という。

「電気、ガス、水道、ID」

 この「生命線」に関連して、板垣氏は興味深い話を聞かせてくれた。「部内では、『電気、ガス、水道、ID』といういい方をしているんです。IDのない楽天なんてもう考えられない。そういう点で、IDは電気やガスのようなライフラインとほぼ同等なのではないかと思います」。インターネット生活のライフラインを守るという観点で考えると、実は意外な業種にヒントを見いだせるというのだ。

 「例えば、メンテナンスのためにサービスを止めなければならないことがあります。これを細かく行うのではなく、いくつかまとめて行う形に変えた。これは実は、高速道路の集中工事を参考にして取り入れた方法です。

 高速道路も昔は頻繁に工事をし、そのたびに渋滞が起きていた。工事の実施回数を減らしたことで、コストも下がって渋滞もそんなにひどくなくなりました。それと同じで、毎月1回止めるよりは年に2、3回の方がユーザーには迷惑が掛からないだろうと考えて変更しました」という。

 視野を広く持っておき、アンテナを張り巡らせておくことでさまざまなヒントが見つかる。技術を追求しながらもそれ以外の視点を忘れない、板垣氏ならではのアドバイスといえそうだ。

目標は「技術も、マネジメントも」

 「楽天のサービスは商取引が発生するので、求められるのはミッションクリティカルシステムにかなり近いもの。それを支えているライフラインとしての責任は重くなります。逆にそれを背負っているからこそ、やりがいが感じられます」と語る板垣氏。今後の目標は、「まず自分自身のテクニカルスキルを高めていくこと」だという。「現在、弊社ではRubyへの取り組みなど新しい動きが出ています。Rubyに代表されるような新しい技術を取り入れて、自分自身のエンジニアとしての器を大きくしていきたい」と話す。

 もう1つの目標は、「ほかのエンジニアとコミュニケーションしながら、より優れたものをつくっていくこと。そのためにマネジメントといわれる部分、組織や体制、枠組みづくりに取り組むこと」。これは学生時代からの板垣氏のテーマである。

 「エンジニアであれば、新しい技術を勉強したり、いろいろなプロジェクトに携わることで新しい経験をしたり、いい仲間と仕事をしたりということを望んでいる人がたくさんいます。1人1人のそういうところを生かして、高い品質で世の中の人に評価され、たくさん使われるサービスを出していけるような開発チームをつくっていきたいと思っている」とのことだ。技術とマネジメント、両方の分野で、板垣氏は成長し続けていくことだろう。

 「これまで蓄積してきたもの、例えば暗号化技術、できる限りどこでも使える汎用的な仕組みや止まらないシステムをつくるといったノウハウは、ほかにも転用できるもの。楽天のほかのサービスに織り込んでいけるかなと思っています」。楽天という大きな舞台で、活躍は続く。

 

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