第2回 ベンチャーでも、「長くコツコツ働く人」を評価します
唐沢正和
2008/10/9
■新制度の導入で離職率が低下、社内に一体感
これら新人事制度の導入効果は、どんな形で表れているのだろうか。答えは、ここ数年間のサイボウズの離職率の推移を見れば明らかである。
2005年度は、前年度末の社員数84人に対して23人が退職している。2006年度は、前年度末の社員数101人に対して退職者数は16人に減少。さらに2008年1月期は、前年度末の社員数130人に対して退職者数は14人にとどまり、2008年1月期末には社員数が157人に達している。「成果重視型制度」が導入された2006年度以降、離職率が着実に下がっていることがわかる。ちなみに2009年1月期の退職者数は、約半年が経過した2008年7月時点でわずか6人。年度末には社員数を197人にまで増やす予定だ。
具体的な成果をあげているサイボウズの新人事制度だが、導入の効果はそれだけにとどまらない。山田氏は、「成果重視型制度によって原点回帰したことで、『サイボウズにとって大切なものは何か』を全社員が再認識し、共有することができたのは大きな成果だ。これから、全社員が共有できているものを、新しい人材に伝えていくステップに入る」として、社内の一体感が高まったことを強調する。
■大企業を参考に、独自の人事制度にチューンアップ
人事制度は、「導入しさえすればうまくいく」ようなものではない。本当にその会社に適したものかどうかを判断し、方向性や規模に応じて柔軟に対応していかないと、いつまでも迷走し続けることになる。
サイボウズは、試行錯誤の末に、現時点で最も適した人事制度にたどり着いたといえるだろう。そのヒントは意外にも、大企業の人事制度にあったという。
「100年続いている大企業にも、ベンチャー企業の時代はあった。創業期から100年かけて何十万人という会社に成長していく過程で確立された人事制度は、脱ベンチャーを目指すわれわれにとって非常に参考になるものだ。『成果重視と年功重視の選択型人事制度』も、大企業の一般職、総合職という制度にヒントを得ている。ただ、大企業の場合は、長い年月を経て制度疲労を起こしているケースも少なくないため、サイボウズが独自にチューンアップして、会社にとっての合理性と会社からのメッセージ性、そして『ワビサビ』(感情的、情緒的な部分)のバランスを取った人事制度をつくり上げた」
動き始めたばかりの新しい人事制度だが、立ち上がりは好評で、従来に比べて、評価に対する社員からの納得感は着実に高まっているという。
しかし、山田氏の視線は早くもその先をとらえている。経営層が直接、全社員の評価を把握できるのは、現在の企業規模だからできること。社員が500人、1000人と増えていったとき、いまの人事制度のままで対応できるかという問題である。
これについて山田氏は、「社員が増えていった場合、評価基準をもう少し定量化するなど、誰が評価してもある程度同じ結果になるような仕組みが必要だろう。私自身、いまは全社員を把握できているが、これからはそれも難しくなるはず。現場のマネージャに完全に評価を任せても、社員本人から経営層までが納得できるよう、評価に対する考え方を伝承していくことが今後の重要な取り組みになる」と、その方向性を示した。
前回から2回にわたって、サイボウズの人材戦略、それをベースにした新たな人事制度への取り組みを紹介してきた。一連の人事制度が立ち上がったいま、人材戦略の次なる重点施策として力を注いでいるのが教育制度の確立である。次回は、教育制度への取り組みを紹介する。
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