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連載:転職で失敗する人、ダメな人
第8回
転職のタイミングと状況を見極める判断力

内田靖
2002/4/5

人材コンサルタント会社に勤めている筆者が、実際に出合った事例や過去に勤めていた会社での経験を交えて、転職で失敗するエンジニアはどんな人かを毎回紹介していく。これから転職を考えているエンジニアに、転職に失敗しないために気を付けるべきことや注意すべきことを、“転職で失敗したケース”から学んでほしい。

   人材紹介会社のいい分

 求人企業が人材を採用する場合、最近では新聞や雑誌よりもWebサイトでの募集に力を入れている。IT業界で現在一番求められている人材層は、年齢33歳ぐらいまでで年収700万円程度までのエンジニアだ。そしてこの層の求職者は、使い慣れたWebサイトで仕事を探す傾向があるため、求人企業はWebサイトに求人情報を掲載するようになったのだ。

 少し脱線するが、複数の人材紹介企業を集めたWebサイトが存在する。実は、私の会社でも研究を兼ねて利用しているのだが、そこで気になっているのが、面談前の求職者との電子メール(テキストベース)でのやりとりである。正直なところ、人材紹介会社としては相手がどんな人物かは、会ってみないと分からないことが多い(これは求職者も同じだろう)。電子メールによるテキスト情報だけでは、記述次第でどうにでもできるからである。さらに、Webメールで容易にやりとりができることの裏返しなのか、求職者と会う約束をしても何度もキャンセルされたり、企業面接の段階でも突然キャンセルする人が多い。求職者にとっては、手軽にやりとりできるため、キャンセルも手軽にできると考えているのかもしれない。ほかの人材紹介会社や企業との面談や内定が決まったとしても、正直にいってほしいものだ。

   インターネットビジネスに興味を持つ

 今回紹介するのは、転職のタイミングを間違えて失敗したJ氏のケースだ。転職のタイミングは、経済状況や転職先の企業の状況(スタートアップ時、成長時、成熟時)などの条件によって異なるだろう。もちろん、不況時のスタートアップ時の企業だから失敗するといった、単純な条件ではない。J氏の場合、そうした状況を忙しさゆえに把握できなかった判断力の低下にも問題があった。それはどのような意味なのか、その点も紹介する。

 J氏は30歳のエンジニアで、高等専門学校(高専)を首席に近い優秀な成績で卒業後、大手システムインテグレータ(SI)のS社に就職した。そこで3年近く構造解析に関するシステムサポートを経験した。その後、業務アプリケーション、特にデータベースを中心とした開発に3年ほど従事した。そのころテクニカルスキルを磨くために読んでいた本に影響を受け、インターネットビジネスに興味を持つようになった。具体的には、インターネット関連のシステムエンジニアやシステムコンサルタントを目指したいと考えた。J氏はそれを上司に伝えて相談した結果、ネットワーク関連の部署へ異動できた。

   そして転職の決断

 その部署の業務の中心は、ネットワークを含むシステム提案、構築、それにサポート業務であった。J氏は、その部署で、サーバ構築やルータの設定など、これまで経験しなかったスキルを身に付け、その環境を楽しむことができ、仕事にも力が入ったという。J氏はさらにスキルを磨きたい、そしてインターネットの通信テクノロジ関連の仕事をしたいと考え、転職を決断し、大手通信サービス企業のT社へと移った。

 T社では、インターネット事業部に配属され、Webのサービスシステムの開発に従事し、Webサーバの構築スキルを身に付けた。しかし、そのころから企業間競争が激化するとともに、テクノロジやサービスの変革スピードがより速くなり、次第にJ氏は周囲を見渡す余裕がなくなってしまい、ひたすら仕事に打ち込んでいたという。そうはいっても当時のことをJ氏は、毎日充実し、まさに自分が最先端テクノロジの場にいると実感していたという。

   周囲を見渡す余裕をなくす

 一方、専門分野以外のテクノロジに目を向ける余裕がなくなったため、インターネットのトレンドがどう進むか、ネットワークテクノロジの行方など、技術トレンドの動向がよく分からなくなってしまったという。とにかく、最先端企業にいれば技術革新の波に乗り切れるはずと、安心していたという。

 結局、J氏がT社にいた約2年の間に、世間ではインターネットビジネスの急成長時代が終わり、実態のないドットコム企業が倒産に追い込まれていった(ネットバブル崩壊)。J氏はこうした状況を見て、インターネットのインフラ系企業はドットコム企業と異なり、企業基盤は強いと過信した。ちょうどそのころ、J氏はこの分野のさらなるスペシャリストを目指すべく、外資系のホスティング企業U社へと転職した。U社は、前職と重複するビジネスも行っていたが、J氏が担当したのは、ホスティングのコンサルティング業務と、サーバのログ解析ソフトのテクニカルコンサルティング業務であった。

 なお、J氏がU社に転職したころ、すでにホスティングビジネスの成長には陰りが出始めていた。しかし、J氏は今後もU社を含め、ホスティングビジネスはまだ成長余力があるはずだと判断した。そのうえ、外資系企業であれば新しい技術をどんどん導入する環境にあり、盤石な基盤にいると考えたという。J氏の入社後のU社は、ホスティング以外の売り上げなどで好調さを維持していたが、入社6カ月後に米国本社が買収された。その買収とともに、ワールドワイドでリストラ策が発表され人員整理が行われた。日本法人の人員もかなり整理されたのだが、そこにはJ氏もリストアップされていた。U社を買収した企業は、現在順調であっても先行きが怪しく、業績が落ち込むと予想したセクションを徹底的にスリム化する方針を取ったのだ。

   タイミングを誤った理由は?

 U社でのリストラ後に、私はJ氏と会った。私の印象として、J氏はビジネスマンとしても、エンジニアとしてもいいセンスを持っている人だと感じた。そのため、インターネットバブルや仕事によって自分を見失い、タイミング悪く転職したことが残念でならない。

 仕事で忙しいことはいいことだ。しかし、そのために自分を見失うとなると、洞察力、判断力、分析力までが衰え、知らず知らずのうちに仕事ができなくなる。転職を希望する人は、そのことを肝に銘じておいてほしい。また、エンジニアがコアスキル以外の周辺スキルを学ぶことは、非常に大切なことだ。その場合、最先端スキルだけを追うのではなく、実際に企業で導入されているコアスキルと関連した周辺技術を学ぶのがいいだろう。それにより、これからの技術も自ずと見えてくるからだ。

 さらに、最近の動向や技術が企業でどう必要とされているのか、自分の基準だけで見るのではなく、森全体を見ることが大切だと思う。バランス感覚を失い始めると、人間は暴走するようである。また、バランス感覚を失っても、自らはそれに気付かないことが多い。自分をコントロールできるものは、結局自分自身しかいない。仕事で忙しいときこそ、ひと休みすることを忘れないでほしい。

連載:転職で失敗する人、ダメな人

 

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