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ヒューマンエラーゼロでいこう

第3回 「時間とお金の無駄」な活動って何?

加山恵美
2008/1/28

人間はしばしばミスをしてしまう。エンジニアなら「うっかりデータを消してしまった」なんてことはあるだろう。だがその「うっかり」が顧客のシステムを停止させ大損害を引き起こすこともあり得る。こうしたささいなミスで信用失墜を起こさないように、社員一丸となって対策を実践している会社の努力の軌跡を追う。

頼みの綱、中災防にそっぽを向かれる?

 本連載のメインテーマであるゼロ災運動については、第1回「なぞのゼロ災運動、ITに関係あり?」を参照してほしい。

 前回(第2回)「喜びの大型案件受注。が、崩れる信頼」でも紹介したように、CTCテクノロジー(CTCT)は1999年7月にKY(危険予知)研究会を発足させ、活動を始めてから1年でヒューマンエラーを3分の1に減らすことができ、KY活動による効果が上がった。

 だが、それまでは関係者のみの限定的な活動でしかなかった。2002年6月に社内で重大トラブルが連続し、またもやCTCTは顧客からの信頼関係を失いかねない状況に陥った。そこで社長に直談判して全社的にKY活動を展開することにした。

ヒューマンエラーゼロでいこう 各回のインデックス
第1回 なぞのゼロ災運動、ITに関係あり?
第2回 喜びの大型案件受注。が、崩れる信頼
第3回 「時間とお金の無駄」な活動って何?(本記事)
第4回 ヒューマンエラー、ようやくゼロに近づく

 社長から理解が得られ、すぐにヒューマンエラーゼロ(HEZ)推進委員会が社内に発足した。メンバーは10人、それがスタートしたときの推進委員会の全容だった。これがIT業界では初の取り組みとなった。

 だが、本格的に活動するとなると、これまでのように自社だけで進めるのは限界があるだろう。そういうことから、労働における災害ゼロを目指す「ゼロ災運動」を本格的に学ぶために、中央労働災害防止協会(中災防)に協力を打診した。

 CTCTはこれまでの経緯を話し、「人間の作業で発生するヒューマンエラーから顧客の信頼を損ねることのないように、ゼロ災運動に取り組んでいきたい」と熱く中災防に語った。だが不幸にも真意が伝わらなかった。CTCT 品質管理室 室長 橘博明氏はこう話す。「おそらくいい方がまずかったのです。目標を『ヒューマンエラーゼロ』といってしまったがために、真意を誤解されてしまったのかもしれません」

 ヒューマンエラーが原因で顧客の信頼を損ねる事故をゼロにしたい。この理想を「ヒューマンエラーゼロ」と凝縮してしまった故に、中災防の担当者は顔をしかめた。そしてこう冷たくいい放った。

 「時間とお金の無駄だから、やめた方がいいですよ」

 中災防はCTCTの狙いを言葉どおり「ヒューマンエラーゼロ」、つまり人的ミスをゼロにするための活動と受け取ったようだ。だがゼロ災運動には「人間とはミスをするもの」という前提がある。これをCTCTは否定しているかのように中災防は受け取ってしまったようだ。人間のミスを根絶することを目標に掲げるのなら、究極的には人間が作業にかかわることを否定することにもつながりかねない。中災防はCTCTが基本理念を理解していないと感じたようだ。

全社でKY活動を展開、オリジナル研修作成

 最初から思わぬ壁にぶち当たった。CTCTは中災防に「やめた方がいい」といわれると思っていなかった。だが、CTCTも並々ならぬ思い入れがある。互いに理念を否定されたと感じ、会議は「かんかんがくがく」(侃々諤々)たる大激論が巻き起こった。

 だが、雨降って地固まる、のことわざどおりの展開に。両者が本気で議論したことで、相互の誤解が解けたのだ。それ以来、中災防の協力も得て、CTCTは本格的に全社でKY活動を開始することができた。最初に「やめた方がいい」と発言した中災防の担当者(当時)は、その後、CTCTの指導に最も積極的に関与してくれたという。

 KY活動の理念を浸透させるため、役職に応じた研修を実施した。加えて中災防に協力してもらい、2日間のCTCT独自のKY研修を作成した。中災防にあるゼロ災運動の研修内容を圧縮しつつ、エンジニア向けにアレンジしたものだ。中災防の基礎研修と作業現場のロールプレイングから成る。

 さらにビデオも作成した。実際に起きた深刻なヒューマンエラーを、後の教訓として残すためでもあった。演出と出演はすべてCTCTの社員、撮影のみ外部に委託した。CTCTは次のスローガンとともにKY活動を社内に浸透させていった。

 「ヒューマンエラーゼロでいこう、ヨシ!」

数々の表彰、カウンター設置、しかし……

 その成果もあり、2003年には数々の賞を中災防から受賞した。ゼロ災運動30周年記念表彰のほか、撮影したビデオも安全衛生教育ビデオコンクールに入賞、さらにIT企業では初となるゼロ災運動分科会での体験発表と、輝かしい評価を受けた。

 社内ではKY活動の気運を高めるため、HEZ(ヒューマンエラーゼロ)カウンターを設置することにした。

 工事現場などの近くを通ったときに、「ゼロ災害○○日 達成」というような看板を見たことがないだろうか。それを想像すればよい。災害を起こさなかった日を数えるカウンターを、イントラネットのWebページに掲載したのだ。

 とはいえ、CTCTの作業で人命が失われる可能性は少ない。そこで致命的なヒューマンエラーを起こして顧客の信頼が著しく低下・失墜したときにカウンターをゼロに戻す(リセットする)ことにした。CTCTにとって顧客からの信頼を失うことは、人命を失うに等しいと位置付けたのだ。もちろん、信頼低下の度合いなども、議論したうえで決定した。

 とんとん拍子に良い方向に進んだように見えるが、そうではなかった。

 またしても、活動は壁に直面したのである。成果が思うように挙げられなくなったからである。成果が頭打ちになっただけならまだよかったかもしれない。実は、ヒューマンエラーが再び増え始めてしまったのだ。それはなぜか。

 増え始めたヒューマンエラーに対して、取った手段とは? 以下、次回で結論が……。

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