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こっそり教える組み込みエンジニアの転職事情

第21回 「自分がいなくては」という思い込みを捨てよう

淺井麻里(パソナキャリア)
2009/2/12

「したいことをするため」「条件のいい仕事に就くため」など、人はさまざまな理由で転職する。組み込み業界も例外ではない。同業界を舞台にした転職活動の喜怒哀楽を、キャリアコンサルタントがこっそり教える。

 2回シリーズで紹介する転職の「1社目の壁」。前回は1社目特有の存在である「同期」にまつわる事例を紹介しました。

 今回は「会社との距離感」です。転職を経験した人は、転職することで「会社との距離感」の変化を感じたことがあると思います。

 自分が退職することによる周囲への影響を気にして、転職をためらってしまう――転職経験がない人に多いパターンです。一方、転職経験のある人は、良くも悪くも「会社との距離感」ができているので、転職の決心がつきやすいのでしょう。

 会社との距離感をうまくつかめず、「自分がいなくては……」という思考に陥ってしまうのは考えものです。「自分がいなくては会社が回らない。辞めるわけにはいかない」というパターンだけが問題なのではありません。逆のパターンも存在するのです。

気になりだした待遇と評価

 山本さん(仮名)は大学卒業後、大手メーカー系列のシステム会社に就職しました。プログラミングは中学時代から行っていたため、自信がありました。入社後は一貫して携帯電話に関するプロジェクトを担当。社内でもかなり忙しい部類に入るプロジェクトでしたが、徹夜もいとわず開発を行っていました。

 彼の頑張りは社内でも認められ、同期では最も早くサブリーダーとなりました。それからはプログラミングだけでなく、後輩などの面倒を見る機会も増えました。さらに、リーダーから信頼されていたためか、仕様の調整や進ちょく管理などを任されるようになりました。

 やりがいを持って仕事をしていた山本さんですが、数年すると気になることが出てきました。リーダーとサブリーダーの「処遇の違い」です。

 リーダーはそれほど仕事をしていないように見えました。自分は忙しく働いているのに、処遇は明らかにリーダーの方が上。勤務年数で考えると、自分がリーダーになるのはまだまだ先です。

 気がつくと、いつも最後まで会社に残っているのは自分。後輩のプログラミングの相談や細かな調整雑務に追われ、自分の仕事を片付けるのはいつも夕方から。それにもかかわらず、最近はリーダーから「残業を減らせ、残業が多いようであれば評価も悪くなる」といわれるようになりました。

腹いせのつもりで転職

 山本さんは転職を決意します。自分が辞めたら、きっと会社やリーダーは困るだろうと考えていました。

 同業他社に内定を決め、リーダーに退職の意思を伝える山本さん。リーダーは驚き、残念がってはいたものの、次の会社が決まっていることを伝えると、山本さんの退職届を受理しました。

 少し拍子抜けした感がありながらも、退職のための手続きや引き継ぎの業務を進めるうちに、あっという間に最終出勤日となりました。

 「自分がいなくなったことで業務が回らなくなるだろう。そのとき初めて自分の存在の大きさが分かるはずだ」

「自分がいなくては」なんて思い込み

 新しい会社は、人間関係は良好、給料もそこそこ。それほど大きな不満はないものの、本当に慣れるにはもう少し時間がかかりそうだ――そう思っていたタイミングで、前の会社のメンバーと飲むことになりました。

 自分がいなくなり、プロジェクトが大変だった、という後輩からの感想を期待していた山本さん。ところがそこにあったのは、実に生き生きとした後輩の表情でした。「先輩がいなくなって大変ですよ」といいながらも、仕事への自信とやる気を感じさせる言葉が出てきます。

 山本さんは目が覚めました。正直なところ今回の転職は、自分への評価が低い会社への腹いせのつもりでした。しかし、会社は組織で仕事を進めるもの。自分がいなくても仕事が回る、という当たり前の事実を、山本さんはようやく実感しました。転職をすることで、「会社にとって自分とは、多くの社員の中の1人にすぎない」と気付いたのです。

 現在、山本さんは新しい仕事でやりがいを感じています。今でもリーダーとして活躍したいという気持ちは変わりませんが、自分のキャリアは自分で切り開かなくてはならないことに気付き、前向きに業務を進められるようになっています。

キャリアの責任を持つのは自分

 会社で働き続けることも、辞めて新しい会社で働くことも、自分の意思で決めることです。自分の意思に関わらず、会社を辞める必要が出てきた場合も、キャリアの責任は自分で取らなくてはなりません。「自分がいないと仕事は回らないから」と転職をあきらめても、逆に「自分がいなければ困るだろう」と腹いせで転職してしまっても、会社が自分のキャリアに責任を取ってくれるわけではありません。

 自分がいないと仕事が回らないと思っている人ほど、精神的には会社へ依存しているのかもしれません。責任感を持って働くこと自体は仕事において必要なことです。しかし、自分が会社に依存していることに気付かず、すべての頑張りを「会社や周囲のためにしていること」と考えるのは危険です。自分が思うような評価や処遇が得られなかった場合、過度に落胆してしまったり、不満を持ってしまったりする可能性があります。

 人生、思いどおりのキャリアを築けるとは限りません。「自分のキャリアを選ぶのは自分である」という自覚を持って、状況を見つめ、選択を行うことで、納得できるキャリアを築くことができるのではないでしょうか。

筆者プロフィール
淺井麻里(パソナキャリア)●大学卒業後、半導体製造装置メーカーを経て、パソナキャレント(現パソナキャリア)に入社。企業営業担当として2年間製造業の企業を担当し、現在はキャリアアドバイザーとして、電気・機械・化学などのメーカー系人材の転職サポートを行っている。

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