第1回 戦略的な転職をするための7つの法則
リーベル 石川隆夫
2008/4/15
4.「なりたい自分」と「なれる自分」は違う
自分の目標を定め、現在の自分を理解すれば、おのずと現在の自分と目標との距離感がつかめます。その結果、目標が射程範囲であったなら、好機を逃さずに進みましょう。
しかし、自分の位置と目標との乖離(かいり)が大きい場合もあります。「なりたい自分」が「なれる自分」であるとは限りません。現実は素直に受け入れ、対策を考えればよいのです。
現在の会社に残り、もう少し実務経験を積んでからでも遅くない場合もあります。
目標を少し下げる方法もあります。最終目標を下げるのではありません。目標の地点に行くために、まずは一歩手前の会社や仕事を目指すのです。そこから目指す企業に転職することを考えましょう。一度に階段を3段登るのが難しいときは、1段だけ上ればよいのです。
問題は、可能性のない間違ったアプローチをすることです。例えば、システム開発経験だけでコンサルティングの経験がまったくない32歳のITエンジニアが、ビジネスコンサルタント・戦略系コンサルタントになりたいと思ったとします。一念奮起し、会社を辞めて英語を勉強し、米国の大学院に留学してMBAを取得しました。年齢は35歳になっています。
この人が戦略系のコンサルティングファームに応募したとして、書類選考を通過する可能性は少ないでしょう。MBAを取得したといっても、戦略系のコンサルティングファームが評価する大学院は、米国トップテンクラスの大学院です。また、35歳からの挑戦では遅すぎるでしょう。
自分の知らない世界のことは、可能性を見誤りがちなものです。資格や学校の過信には注意しましょう。
5.転職時には何かを捨てることも必要
転職は、あくまでも目的を達成するための手段です。転職そのものが目的ではありません。目的を達成するためには、捨てなければならないものもあります。
例えば年収です。経験はないけれどポテンシャルを評価され、目指す職種で採用されたような場合には、年収は下がる可能性があります。
「やりたい仕事に就きたい、でも年収は下げたくない」。このような人は要注意です。せっかくのチャンスを失う可能性があるからです。
高い年収を期待するのは当然です。しかし、年収よりも仕事が大事な場合もあるでしょう。高いレベルの仕事ができる人であれば、収入は必ず後からついてきます。
目的を達成するため、正社員という立場を一時捨てた例もあります。大学で画像処理を学んだAさんは、画像処理を仕事にできる会社を選んで入社しました。しかし、実際に携わったのはまったく異なる仕事だったのです。どうしても希望の仕事があきらめきれず、2年後に転職を試みたAさんでしたが、画像処理の実務経験が少なく、どこも採用してくれません。
そこでAさんが決意したのは、正社員という立場を捨てることでした。仕事を選べる派遣社員になり、2年と期限を決め、画像処理の実務経験を積んだのです。2年後、Aさんは見事有名メーカーの正社員として採用され、念願の画像処理の仕事を得ることができました。
決断をするときには優先度を決め、優先度の低いものは捨ててもよいという覚悟を持つことが必要です。
6.最後に決めるのは人間力
ここまで、実務経験が大事だということを述べてきましたが、最終的に重要なのは履歴書、職務経歴書に表れない「人間力」なのです。
「人間力」とは何か。定義は難しいのですが、コミュニケーション力、マネジメント力、ストレス耐性、ポジティブ思考などがあります。
転職という場で必要なのは、簡単にいえば、採用する側に「この人と一緒に仕事をしたい」と思わせることです。技術力・知識・経験が50%、人間力が50%で最終決定されると思ってください。技術的に優秀でも、未来の上司や仲間が一緒に仕事をしたいと思わなければ、採用はされません。
人間力は、毎日の仕事で磨かれるものです。ITエンジニアも技術や知識だけでなく、人間としての総合力を上げていく必要があります。
7.準備は慎重に、機会を逃さず果敢に挑戦
ITエンジニアの仕事の方法や技術には企業独自の部分が少ないため、IT業界の人材流動化は今後ますます活発になると思います。人材の流動化は、個人も企業も生き生きした社会をつくり出す原動力です。
新卒採用では、ある程度学歴や学校名で選別される場合もあります。しかし中途採用では、何といっても実務経験が重視されます。能力があればより高度な仕事を得られる、真に自由な社会になってきたと思います。入社した会社で一生が決まっていく時代ではなくなりました。大変良いことですね。ぜひ、戦略を持ってより高いバーに挑戦しましょう。
百獣の王、ライオンが獲物を狩るとき、まずは狙いをしっかりと定め、静かに、ひそかに近づきじっとタイミングを計ります。そして、ここぞというときには果敢に襲い掛かります。
転職も同じです。転職が選択肢の1つになったら、まずはじっくりと慎重に考え、方向が決まったらタイミングを逃さず勇気を持って挑戦することが大事なのです。
今回は「転職活動をする前に知っておくべき7つの法則」として、転職活動以前の心構えについて紹介しました。次回以降、転職の具体的なお話をする予定です。
今回のインデックス |
転職の目的を定め、キャリアプランを確認する |
自分を理解し、慎重に準備し、果敢に挑戦する |
筆者プロフィール |
リーベル 石川隆夫(いしかわたかお)●1949年、福島県生まれ。東芝でのコンピュータのエンジニア経験を経て、商品企画・事業企画に携わる。その後、IT業界に特化した人材紹介会社リーベルを設立、代表取締役に就任。チーフキャリアコンサルタントとしてITエンジニアのキャリアプランの支援を行っている。IT業界での幅広い実務経験、業界知識を強みとしている。 |
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