第44回 私はこうしてITアーキテクトになった
加山恵美
2007/9/12
■客観的な評価はどうか? 年収査定を試す
自然とITアーキテクトとなり、いくつかの開発案件を経験した。そのうちに30歳近くになり、ふと@ITジョブエージェントから年収査定を依頼してみることにした。この時はまだ転職する意思はあまりなく、ただ興味本位で自分の客観的な評価を知りたいと思ったからだ。
ただし漠然とした興味の裏には潜在的な転職への興味もほのかにあったようだ。当時斉藤氏は会社の評価に不満はなかった。だが将来同じ仕事を続けるとどうかという疑問があったようだ。そのきっかけにはITSS(ITスキル標準)がある。ITSSを見ると「自分の現在のレベルより高いレベルとなるには、より大規模なプロジェクトを経験しないとならない」と思えたからだ。「いまの会社では最大規模のプロジェクトをすでに経験した。今後この会社ではITSSの評価を上げることはできないのだろうか」という疑問を抱えていた。
少しするとリーベルの石川氏から年収査定の結果が帰ってきた。加えて転職の提案も添えてあった。だがすぐには転職をする気にはならなかった。会社への不満がまるでなかったからだ。それに30歳直前という年齢からも戸惑いがあった。
「一般的に最初に転職を経験する人のピークは27〜28歳だそうです。それに比べると私はほんの少し遅れています。この年代なら転職はしやすいのかもしれません。しかし、アーキテクトの募集条件にその年代よりも少し上のものが多いとはいえ、30歳となると採用側の企業とジャストフィットする業績やスキルが必要となり、狭き門となるのではないかと考えました」と斉藤氏は話す。
■最初は失敗するも、採用が決まり退職を決意する
多少の戸惑いはありつつも、まずは提案された会社を1社受けてみることにした。しかし結果は採用には至らなかった。だが斉藤氏の心はここで動いたようだ。絶対転職するという意気込みを持つほどではなかったが、「あと4社同時並行に応募して、ダメだったら転職そのものもすべてあきらめよう」という気になった。
4社応募して、2社が残った。うち片方がほぼ内定近くまで到達し、もう片方はまだ進行中だった。後者は希望に近い会社だったが、結果が出るまで時間がかかることが分かっていた。もし後者の就職活動を続けるなら前者をあきらめなくてはならない。採用が確実な前者を選ぶか、前者を蹴って後者に期待をつなげるか。
難しい選択だったが、斉藤氏は前者を選んだ。同時に退職も選んだことになる。「会社には不満がない」と話していた斉藤氏だが、転職を決意するにはいくつか理由があった。1つはITアーキテクトを究めるためである。先述したように、これからITアーキテクトとしてさらに経験を積むには同じ会社ではもう限界と感じていた。
もう1つは給料だ。「独立系なので無理もないのですが、収入が少なかったのです。あと独身だと手当が少なくて不利という面もありました。しかし同僚も似た状況なので、相対的な評価で見ても不満はありませんでした」と斉藤氏はいう。しかし少ないよりは多い方がいい。転職後の年収を聞くと「200万上がりました」と斉藤氏はいう。
■最後の一打席までプロフェッショナルとして
最後に退職時のことを聞くと、斉藤氏の突然の退職に同僚の多くが驚いたそうだ。それまで真摯に仕事に打ち込んでいたので忠誠心のある人物と思われていたからだ。しかし斉藤氏はITアーキテクトを究めるために転職を選んだ。
そして斉藤氏は同僚が見込むほどのプロフェッショナルである。自らを野球選手に例えて「来期に別の球団に移籍することが決まっていても、最後の1打席まではきちんと仕事をこなしますよね」と話す。その言葉の通り、退職の最後の日まで職務をまっとうして会社を去った。今では新しい会社でこれまでの仕事と同じようにWebアプリケーションの開発にITアーキテクト的な役割で携わっているという。
担当コンサルタントからのひと言 |
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■「チャンスを生かした斉藤氏」 斉藤氏との出会いは転職先から内定を頂く6カ月前。 「直近の転職は予定しない、情報収集が目的」という前提でお会いしました。 私はキャリア相談にいらっしゃった方のキャリアプランを考えるときは、具体的な企業名や職種を例として上げて、その可能性やその後のキャリアを具体的にお話しすることにしています。相談される方にとっては、この方が現実と離れない形で具体的なキャリアプランを考えられます。 斉藤氏の経歴をお伺って、日本のトップ企業にも十分に通用する技術力、ヒューマンスキルを持っていると判断し、可能性のある企業や各求人案件を例として提案させて頂きました。その後、本文にあるような経緯で、日本のトップグループの企業に内定し入社しました。結果的に年収も200万円の大幅アップなりました。 斉藤氏の経歴で参考にすべき点は、チャンスを最大に生かしてきた事にあると思います。前職でオブジェクト指向に関るようになった時、必死に頑張って社内でも注目される人材になったこと。今回はさらに大規模のプロジェクトを経験しなければという危機感と、年齢的にもいまがタイミングと思って果敢に挑戦したことです。 新卒で入社したときは『ITアーキテクト』は考えていなかったと思います。ある意味で偶然のチャンスを必然に変えてきたと言えます。今後の活躍を期待します。 |
今回のインデックス |
転職。決断のとき(44) (1ページ) |
転職。決断のとき(44) (2ページ) |
転職。決断のとき(44) (3ページ) |
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