第6回 システムの全体見るならユーザー企業?
■ユーザー企業とSIer、2つの企業に応募
ユーザー企業に転職したい、と強く望む池山さんに、私はこのように話しました。「システム全体にかかわれる環境は、決してユーザー企業に限ったものではありませんよ。SIerでも、元請けとしてシステム全体が見られるポジションで仕事ができる企業はたくさんあります」
そして池山さんに2つの案件を紹介しました。もともとの志望のユーザー企業である外資系生命保険会社A社の情報システム部門の求人と、生命保険会社金融に特化した元請け準大手SIer、N社の汎用機開発エンジニアの求人です。
N社は銀行、証券、生命保険の分野で元請けの業務を行い、社内の研修体制もしっかりしていて、オープン系の技術を身に付けられる可能性の高い企業でした。また金融システムエンジニア向けの専門書の執筆者など、業界に精通しているITエンジニアが多く在籍しています。池山さんも大変興味を持った様子でした。
A社とN社、両方に応募することを決めた池山さんは、それまでのキャリアの棚卸しをして自身の強みや弱点、仕事に対する考え方などを再確認。しっかりと準備をして面接に進みました。
万全な準備が功を奏したのか、池山さんは両方の企業から内定を獲得することができました。
■やはりSIerへの入社を決意
2社の業務内容の詳細を確認するオファー面談が終わった後、本人から連絡がありました。「N社が私の志向に合っていると思います。N社に入社して自身のスキルを磨きたいと思います」。もともと希望していたユーザー企業であるA社の内定辞退と、SIerであるN社への内定受諾の連絡でした。
さて、どのようなことが決め手になって、池山さんはA社ではなくN社への入社を決意したのでしょうか。
A社のオファー面談の内容は、以下のようなものでした。
A社のヘッドオフィスはアメリカにあり、ブランチオフィスである日本では本国で使用しているパッケージ製品を使っての開発が主となる。そのため、希望していたシステム全体が見える企画とは異なる業務内容になりそうである。また開発のほとんどはベンダが行っているため、入社後に任される仕事はベンダとの調整業務などが主となり、自分自身が技術に触れる機会が極端に減ってしまいそう。かねてから希望していたオープン系の技術を身に付けることもできそうにないとのことでした。
ITエンジニアとしてまだ4年目の池山さんは、管理業務が主となってしまうことに物足りなさを感じたようです。
一方N社では、幅広い保険業務知識が身に付けられるのはもちろん、これまでの汎用機での開発経験を生かしつつ、今後はオープン系の技術にかかわれるようなキャリアパスを会社が面談時に提案してくれたとのことでした。また入社後はプロジェクトリーダーを任される予定で、ほかのプロジェクトとも密接にコミュニケーションができ、システムの全体が見られるポジションであるとの詳しい説明を受け、入社後に自分が活躍するはっきりしたイメージが持てたそうです。
加えて面談に同席した金融エンジニアの、金融システムに対する熱い思いに感銘を受け、「ぜひともこの人と働いてみたい!」、切実にそう思ったとのことでした。
池山さんはまだ26歳という若さです。いまの段階ではマネジメント業務に特化するよりも新しい技術を身に付けたいと考えたため、このような決断に至ったのです。私としても本人の意見には賛成でした。
もともとの希望であったユーザー企業への転職という選択肢がありながらも、SIerへのステップアップ転職を選んだ池山さん。今後、マネジメントスキルや保険業務知識、オープン系の技術スキルを身に付け、大きく成長していくことでしょう。
■「転職先で何を学びたいのか」こそが重要
今回の池山さんのケースからいえるのは、ユーザー企業に固執するのではなく、「転職先でどのような仕事を任されるのか、その企業で何を学びたいのか」を重要視することこそが成功の鍵だということです。
ユーザー企業もさまざまなので一概にはいえないのですが、一般的には、教育制度についてはSIerほどは整っていないことが多いと思います。
このようなことからも、「ユーザー企業への転職は、必ずキャリアアップにつながる」とは限らないといえます。
ユーザー企業なのか、それともSIerなのか。求人内容や求職者の考え方によってさまざまだと思います。1人で悩まず、キャリアコンサルタントに相談してみてはいかがでしょう。新しい発想が得られるかもしれません。
今回のインデックス |
「転職でキャリアアップ」のウソ・ホント(6) (1ページ) |
「転職でキャリアアップ」のウソ・ホント(6) (2ページ) |
筆者プロフィール |
アデコ 人材紹介サービス部 コンサルタント 大田耕平 神奈川県出身。大学卒業後、大手独立系システムインテグレータに入社。システムエンジニアとして大手生命保険会社のシステム開発に携わる。アデコでは主にIT業界のエンジニアを中心に幅広く担当。Webや紙面上では伝わりにくい部分をITエンジニア視点で求職者に伝えられるように心掛けている。 |
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