第8回 30代・下請け。上流工程に行くのは難しい?
■木下さんには強みもある
木下さんの年齢とキャリア・経験環境だけを見ると、確かに難しい現状ではありました。ですがよくよくヒアリングしてみると、木下さんは下記のようなアピールポイントを持っていたのです。
- 業務・業界(金融業界、特に一番長く携わったクレジット業界)の知識がある
- マネジメント経験(現プロジェクトでは5人の進ちょく管理)がある
- 対人能力(ロジカルな折衝スキル)が高い
- オープン系(Java・C)の自己啓発をしている
業務・業界経験については、木下さんは補助的な立場であるにしてもプロジェクトの基本設計からの参加経験があったので、設計のポイントや考え方についてのイメージを持っていました。また、現場でマニュアルを積極的に読んだり、業務に詳しい担当者から話を聞いたりして、積極的に知識の習得をしている点は高く評価できると思います。
マネジメント経験については、木下さんは10年以上のシステム構築経験があったことから、サブリーダーに抜てきされていました。リーダーは存在していましたが、木下さんが実質的なリーダー業務を行い、協力会社のITエンジニアの進ちょく管理・技術指導を行っていましたので、これも評価できると思います。
また対人能力についてですが、私としてはこれが木下さんの最大のアピールポイントだと感じました。プロジェクトを推進するうえでは、何よりもコミュニケーション能力が大事です。また当然ながら、上流工程でユーザーに近い位置になればなるほど顧客折衝・調整能力が重要になります。この点は木下さんの明るい性格と論理的な考え方、営業職としても通用するほどのコミュニケーション能力と折衝スキルをアピールできるはずです。
■強みを生かした転職活動を
これら木下さんの強みを確認した後、「上流工程に携わりたい」という木下さんの希望に沿って、金融業界を中心としたシステム構築が行える企業を探すことから始めました。
しかし現在の情報システムのトレンドはオープン系であり、多くの求人案件では「オープン系・Web系のシステム開発経験者」であることを必須条件としています。また上流工程を担当できる企業になると、一般的には大手SIerなど特定の会社になるため、採用ハードルは低くはありません。
そこで独自のルートから非公開求人のリサーチをし、経験環境より顧客折衝能力などの人物評価と金融業界での経験を重要視する求人を探しました。結果、金融系(特にクレジット系)に強みを持つ大手SIerを中心に、7社に求人があることが判明し、紹介を進めることになりました。
木下さんにとっては、これが初めての転職活動です。企業を探して応募することと並行して、面接指導にも注力しました。
木下さんの場合、上流工程の経験がないことをどのように補い、それを上回る魅力を感じてもらうかが最大のポイントになります。「経験の特徴は」「なぜ応募をしたのか」「自分の強みを生かし今後はどうなりたいのか」を中心に、ご自身の強みをどのようにアピールするかを確認し、繰り返し模擬面接をすることで面接のイメージを明確化していきました。
また、企業へ推薦する際にも注意が必要でした。レジュメだけでは年齢と経験のバランスが悪いと判断されかねませんので、業務経験と人柄を強力に推薦することで、面接のチャンスを勝ち取ることができました。
面接では、指導の甲斐もあってか、強みをアピールすることに成功したようです。複数の企業から内定を得ることができ、中でも第1志望であったクレジット系に強い大手SIerに無事に転職することができました。年収も120万円アップが実現しました。
■木下さんの勝因は
「30代・下請け」という状況から上流工程を目指し、見事成功した木下さんの勝因として、下記のようなことが挙げられます。
- 「上流工程に携わりたい」という転職テーマを明確に持っていた
- 複数の強みを自覚できていた
- 非公開求人に応募できた
- 準備(適切なレジュメを作成し、積極的な面接指導を受けたなど)を怠らなかった
- 面接時、経験が少ないことで弱気にならず、信念・迫力を持って強みを的確にアピールできた
これらは木下さんの例だけのものではなく、皆さん自身の転職活動にも通じるポイントだと思います。ぜひ、明るい転職活動に生かしてください。
今回のインデックス |
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筆者プロフィール |
アデコ 人材紹介サービス部 コンサルタント 福間啓文 1969年生まれ、大阪府出身。私立理系大学卒業後、精密機器メーカーにてソリューション提案営業を経験し、2000年にアデコへ入社。現在、IT系人材・ITエンジニアを専門にキャリアコンサルティングを担当。営業としての観点とキャリアコンサルタントとしての経験から、1人1人のニーズをくみ取り、的確な情報提供・アドバイスをすることを念頭に転職支援を行っている。CDA(キャリア・デベロップメント・アドバイザー)資格取得。 |
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