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「転職でキャリアアップ」のウソ・ホント

第10回 せっかくの大手なのに。転職するなら離婚する!

アデコ
福間啓文

2007/10/24

複数の内定獲得。さて選んだのは?

 27歳の上出さん(仮名)は、高等専門学校を卒業後、中堅SIer(社員数約200人)で活躍しているITエンジニアです。この会社は主に、大手SIerの2次請けとしてプロジェクトにかかわっていて、常駐して開発を行うことがよくありました。上出さんはWebアプリケーション開発を中心に、これまで多くのプロジェクトに携わり、詳細設計から実装・検証と幅広く経験していました。

 最近は基本設計フェイズも手掛けるようになっていましたが、これまでの経験は詳細設計以降のフェイズに偏っています。上出さんは今後のキャリアを考え、もっともっと上流工程を経験したいと思うようになりました。具体的には自社パッケージ開発にかかわり、より顧客に近いところでキャリアアップがしたいと強く希望するようになり、転職活動を始めたのです。

 上出さんは人事給与系のパッケージベンダ、自社パッケージを持つソフトウェアベンダなど、複数の企業に応募しました。その中には大手SIerも含まれていました。

 意欲もスキルもある上出さんは、選考に順調にパスし続け、結果として5社もの内定を得ることができました。この中から希望に合った企業を選ぶ段階になりました。上出さんの第一声は「ぜひ大手SIerに行きたい」というものでした。

 実は上出さんは新卒での就職活動時、大手企業を志望し、大手を中心に面接を受けていたそうです。しかし当時、新卒採用の基準は非常に厳しく、結果として現在の会社へ入社したといういきさつがありました。上出さんの中には、大手に対する「あこがれ」がいまだに強く残っていたのです。

あこがれの大手に内定、うれしいけれど……

 上出さんの現在の会社での経験の中には、流通業界にかかわるプロジェクトがいくつかあり、現在担当しているプロジェクトも流通に関するものでした。内定を出した大手SIerは、大手流通企業の大規模なWeb受発注システムの開発・運用プロジェクトを受注していて、システム導入を終え、運用フェイズに入るタイミングでした。

 大手SIerはこのシステムの運用担当者を探していました。そこにちょうど流通業界の受発注システムの経験があり、人当たりも良い上出さんが現れ、適任であると判断して内定を出したようです。

 上出さんから見れば、自分のキャリアを生かせるポジションであり、ましてや「あこがれ」の大手であることで、非常にうれしく感じられたに違いないでしょう。しかし、もともとの転職テーマから考えるとどうでしょうか。

1.なぜ転職を考えたのか

 上出さんは上流工程でのキャリアアップを強く希望し、ユーザーに近いところでの自社開発にこだわりたいと考え、転職活動を始めたのでした。

2.大手SIerで、その希望はかなえられるのか

 転職後の上出さんのポジションは運用担当者であり、上流工程でのキャリアアップを望む上出さんの志向からは大きくずれてしまいます。

 上出さんはひとときの喜びを抑え、「自分は何をしたいのか」にもう一度立ち返り、転職テーマの再確認をしました。それからまもなく、大手SIerの内定は辞退する決断をし、テーマに沿った転職先選びを始めました。

イメージのみでの転職は危険

 立川さんと上出さん、2人のケースに共通しているのは、「安心感」「あこがれ」という漠然としたイメージが先行しそうになってしまったことです。

 やりたいことやキャリアプランに従って転職活動をした結果、大手企業に転職が決まったのであれば、もちろんまったく問題はありません。しかし、「大手なら安心」というイメージのみで転職するのは危険です。

 現在はどの業界においても、特に大手を中心に企業買収・合併、事業部の売却、人員削減、早期退職制度の活用などの動きがあります。「大手だから安心」という時代ではなくなりました。

 ITエンジニアの皆さんにとっては、どんな状況にも対応できるスキルやキャリアを築くことが一番のリスクヘッジだと思います。ぜひ、明確なキャリアビジョンを持ってください。

 

今回のインデックス
「そんな会社にいくのなら、離婚します!」……どうする?
希望のキャリアパスを取るか? 大手を取るか?

筆者プロフィール
アデコ 人材紹介サービス部 コンサルタント
福間啓文
1969年生まれ、大阪府出身。私立理系大学卒業後、精密機器メーカーにてソリューション提案営業を経験し、2000年にアデコへ入社。現在、IT系人材・ITエンジニアを専門にキャリアコンサルティングを担当。営業としての観点とキャリアコンサルタントとしての経験から、1人1人のニーズをくみ取り、的確な情報提供・アドバイスをすることを念頭に転職支援を行っている。CDA(キャリア・デベロップメント・アドバイザー)資格取得。

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