第11回 転職経験、4回。こんな私でも転職できますか?
アデコ
高野和幸
2007/11/26
数年前と比較すれば、転職は身近なものになってきている。だからこそ気を付けたい「転職でキャリアアップ」の思い込みについて、「ウソ・ホント」の視点で考えてみたい。 |
■こんな転職じゃ、キャリアアップは無理?
さらなる活躍が期待できるステージで新しいスキルを磨くため、転職という選択肢を活用するという考えは、すでにITエンジニアに広く認識されていると思います。特に、いま所属している企業では目指すキャリアプランの実現が困難であるような場合、勇気ある一歩を踏み出し、新しい環境を求めて積極的に行動することで、「待つリスク」を回避することも必要だといえます。
このように転職の可能性が注目される中、最近では転職回数の多い人、前回の転職から短期間での転職を志す人に会うことが珍しくなくなってきたように感じています。
将来を考えればやむを得ない選択であったにせよ、求人企業からは「この人は入社しても、またすぐに嫌になって退職してしまうのではないか」と思われ、評価が厳しくなることは避けられません。
それでは、転職回数が多い人、短期間で転職する人が、転職でキャリアアップを目指すのは難しいのでしょうか? 現在の環境に甘んじて、スキルアップが難しい状況で業務を続ける方がよいのでしょうか?
今回はこの疑問に対するヒントとして、不利な状況を克服し、目指すキャリアプランを実現したケースを紹介したいと思います。
■「自分探し」の代償は
谷原さん(仮名)は33歳のITエンジニア。社員50人ほどのシステム開発会社から、大手メーカーグループのシステム開発会社に派遣されていました。ITエンジニアとしてのキャリアは5年程度。自分よりも若いプログラマたちと一緒に、プログラミングとテストに明け暮れる毎日を送っていました。
その丁寧でまじめな仕事振りは常駐先でも評判。開発技術に関する勉強にも熱心で、常駐先の若手社員たちも谷原さんを慕い、競って質問に足を運ぶほどでした。
谷原さんは楽しく仕事に取り組みながらも、年齢的にそろそろマネジメントの経験をしたいと考え始めました。ところが、会社が受注してくる案件はプログラマレベルのものばかり。プロジェクトマネージャどころか、リーダーとして活躍する機会も望めない状況でした。
会社の状況が劇的に変化するとは考えられず、キャリアアップのための転職を考えたことも1度や2度ではありません。しかし実は谷原さんには、どうしても転職に踏み切れない事情があったのです。
現在の会社に入社するまで、谷原さんはIT業界と一切縁がありませんでした。専門学校を卒業してから20代後半にかけて、コンビニエンスストアの店長、営業、販売員、また営業とさまざまな職種を経験し、4回もの転職をしていたのです。
谷原さんにとっては大切な「自分探し」の期間でしたが、さすがに5回目の転職となると、普通の企業は厳しい目で見るだろうと予想していました。5年間お世話になった現在の会社へ恩義を感じていることもあり、半ばあきらめの境地で業務を続けていました。
ところがある日、社長から久しぶりに飲みに誘われたその席で、「残念だがうちの会社にいては、君はこれ以上成長できない。もっとレベルが上の企業に転職するべきだ」と、悩みを見透かされたようなアドバイスをもらったのです。社長のひと言で吹っ切れた谷原さんは、結果はともかく一度はチャレンジをしてみようと、転職活動を開始しました。
■同じ「失敗」はもうしない。そんなアピールを
私が谷原さんに会ったのは、それからしばらくたってからのことでした。いくつかの企業に応募してみたものの、多くが書類選考で残念な結果となり、何とか面接までこぎつけても、次のステップには進めない状況が続いていました。谷原さんはこの現状を何とか変えたいと考え、アドバイスを求めて私のところにたどり着いたのでした。
谷原さんに面接でのやりとりを確認したところ、私はあることに気が付きました。谷原さんは後ろめたい気持ちの裏返しなのか、これまでの転職が「いかに自分に取って大切な経験であったか」を強調し、あまりにもポジティブ過ぎる伝え方をしていたのです。
企業からすれば、転職の回数が多いことを、谷原さん自身が肯定しているような印象を受けたでしょう。そのため、「これまで同様、わが社でも長く勤めてもらえないかもしれない」と判断されてしまった可能性があります。
私は谷原さんにこうアドバイスしました。「無理に転職回数の多さを正当化しようとするより、過去の『失敗』として認めてしまってはどうですか。そのうえで、今度はいかにそれを繰り返さないようにしているかを具体的なエピソードを交えて話しましょう。その方が、企業も受け入れやすいはずですよ」と。
そして企業への応募の際にも、過去の転職での軽率な判断を深く反省していることを強調し、ITエンジニアになってからは5年間、同じ会社で努力を続けている点をアピールして、しっかりフォローしておきました。
谷原さんにとって、過去の転職は自分の財産となっている経験です。それを否定することは決して愉快なことではなかったはずです。しかし、「ITエンジニアこそ、ようやく見つけた天職だ」と確信していた彼は、そのことを受け入れてくれました。次からの面接では、なぜ転職回数が多くなったかを率直に分析、反省したうえで、今後の強い意欲をしっかりと語れるようになったのです。
その後も谷原さんの転職活動は、決して華々しい結果にはなりませんでした。でも最終的には努力が実り、大手システム開発会社からほぼそのままプロジェクトを任され、リーダーやマネージャとして活躍する機会が多数ある企業から内定をもらうことができたのです。
谷原さんのように転職回数が多い人であっても、客観的にその原因を分析し、いまの自分がそれを克服していることをしっかりと示せれば、企業に対して十分なアピールになると思います。
転職からわずか2カ月で、再びの転職活動……。勝算はある? |
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