第16回 給与が上がっても失敗した転職の話
アデコ
福間啓文
2008/9/1
■会社の業績悪化で人が辞めていく
立花さん(仮名)は35歳。ECサイト構築、モバイルソリューションなどWeb系の受託開発を行うソフトハウスのプロジェクトマネージャで、5〜10人のメンバーの工程管理、顧客との折衝などを担当していました。
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このソフトハウスは大手をはじめとする複数の企業からじかにプロジェクトを請けていました。顧客からの評判も良く、地道に利益を出していました。立花さんは社風や待遇に十分満足していました。
しかし、景気の悪化や受託競争の激化のため、立花さんの会社は以前のように安定して受注することが難しくなり、だんだんと業績が下がっていったそうです。離職者のほとんどいない会社でしたが、20代の将来有望な若手がどんどん退職していくようになりました。その穴埋めは立花さんがすることが多く、業務量が非常に増えていったそうです。
今後の打開策がまったく見当たらない状況から、立花さんは将来のことを考え、やむなく転職を決断したのでした。
■給与の提示金額が最も多い会社を選んだが……
豊富なWeb系システム開発経験とプロジェクトマネジメント経験が武器となり、立花さんの転職活動は順調に進みました。その結果、複数社からの内定を得ることができました。迷った立花さんは、提示の給与が最も高い企業を選びました。提示金額は、ほかの内定企業のものに100万円近い差をつけていたとのことです。
この企業は総合情報サービスを展開している大手企業で、インターネット広告事業を強化している最中でした。ちょうど立花さんのような即戦力を採用したいタイミングだったようです。
順調にスタートを切ったかに見えた立花さんですが、まもなく違和感を覚えるようになりました。なぜなら会社が求めていたものは、どれだけたくさんのプロジェクトを素早くこなすかであり、転職後も以前と業務量は変わらなかったからです。また、ずば抜けて高かった給与は、想定されるインセンティブを含む提示でした。
入社してから分かったことですが、離職率が非常に高い会社だったことも立花さんの想定外でした。ひどいことに、立花さんの面接を担当した社員は、立花さんの入社時にはすでに退職していました。立花さんの最初の仕事は、その人が残したプロジェクトの後処理だったそうです。入社当日から残業が続き、立花さんのモチベーションはみるみる下がっていってしまったそうです。
■「給与が一番高いから」で転職先を選んでいいの?
立花さんが会社の業績不振に将来の不安を感じ、転職を考えたことについては問題はなかったと思います。しかし「給与が一番高いから」という、転職先を選んだ理由は的確なものだったでしょうか。
給与をはじめとする待遇がいいに越したことはありません。しかしなぜその給与なのか、特に高めの提示については要チェックだと思います。
普通に仕事をしていて高い給与を出す甘い時代ではないので、相応の理由が必ずあります。転職後のポジションの特性、会社が期待していることについて、必ずヒアリングをするべきです。
インセンティブを含む給与の提示についても要チェックです。一般的に、インセンティブを含む提示は、ほかの会社の提示と比較して多く見えるためです。どのような実績を出せばどれくらいの支給があるのかなど、仕組みについてもしっかりと確認をしなければなりません。実際、立花さんはこの制度について理解しておらず、想定金額だけで判断したようです。
川中さん、立花さん、それぞれ違う状況ではありますが、2人とも「給与が高い」ことを最重要視し、ほかの条件については熟考しませんでした。もしあくまでも希望の1つとして考えていたならば、違う選択をしていたのではないでしょうか。
転職を決断するとき、例えば下記のような項目に注意していればよかったのではと思います。
- なぜ転職をしようと思ったのか。本当に転職が必要なのか
- 現在の課題は、どのようにすればクリアできるのか
- 転職に当たっての希望、大切にしたい価値観は何か(優先順位を付けられればベストですね)
川中さんは仕事とプライベートを両立する環境を考えるべきでした。立花さんは会社のニーズと自分の仕事に対する考え方のギャップ、会社の離職率を確認するべきでした。
また、2人に共通していえる失敗の要因に、「早く次を見つけて退職したい」という気持ちが強すぎたことがあったと思います。やはり転職活動は冷静に決断をすることが大事です。
今回のインデックス |
「組み込みの仕事」「給与が高い」ならOK? 川中さん |
「給与が一番高い」会社に飛びついた立花さん |
筆者プロフィール |
アデコ 人材紹介サービス部 コンサルタント 福間啓文 1969年生まれ、大阪府出身。私立理系大学卒業後、精密機器メーカーにてソリューション提案営業を経験し、2000年にアデコへ入社。現在、IT系人材・ITエンジニアを専門にキャリアコンサルティングを担当。営業としての観点とキャリアコンサルタントとしての経験から、1人1人のニーズをくみ取り、的確な情報提供・アドバイスをすることを念頭に転職支援を行っている。CDA(キャリア・デベロップメント・アドバイザー)資格取得。 |
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