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「転職でキャリアアップ」のウソ・ホント

第17回 「少数派」が武器になる女性エンジニアの転職活動

アデコ
高野和幸

2008/10/7

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女性であることは、むしろ個性や武器でもある

 江本さんが私の元を訪れたのは、「転職でのキャリアアップはあきらめて、現在の会社で細々と仕事を続けることが女性エンジニアの幸せなのかも」と、無理やり自分を納得させようとしていたころのことでした。

 江本さんからこれまでの転職活動の経緯を聞いた後、私は最初にこう伝えました。

「もし日本中の企業が、社長さんと同じことを考えていることが判明したら、そのときに転職はあきらめましょう」

 江本さんは一瞬驚いた表情を浮かべましたが、少し力が抜けたのか笑顔を見せてくれました。

 私は江本さんに、男女を問わず優秀なITエンジニアを確保することが、システム開発会社にとっては厳しい競争を勝ち抜くために不可欠なテーマであること、子育てしながら仕事をしやすくするために、さまざまな制度を導入している会社が増えてきていることを丁寧に説明しました。

 「確かに、女性であることがネガティブにとらえられることもあるでしょう。もしかすると、これまでチャレンジした企業の中に、同じような考えを持った企業もあったかもしれない。でも、もし出産や育児を厄介なことだと考える企業があったとして、どんなに素晴らしい実績を残せるとしても、そんなところで頑張って働きたいと思いますか?」

 私の質問に対して、江本さんは首を横に振りました。

 積極的に女性の割合を増やして、女性が働きやすいことをアピールしようとしている企業さえあることをお伝えすると、江本さんは「女性であることは、むしろ個性や武器でもあるんですね」と思いついたようにつぶやきました。

 常駐先の企業では女性エンジニアの離職率がとても高く、「どうしたら定着するようになるか、意見を聞かせてほしい」と相談を受けたことがあったそうです。モデルになる先輩がいないことなど、女性の目線からはいたって自然な内容をまとめて報告しただけなのに、とても感謝されたことに驚いたとのことでした。

 ITエンジニアとして活躍している女性がまだまだ少ないのであれば、それを成し遂げることが周囲からの注目を集めるきっかけになって、もしかすると「雑誌に載るようなITエンジニアになる」という目標に近づくチャンスになるかもしれない。新しい可能性に気付いた江本さんは、「自分が女性であることを意識させてくれた社長に感謝したい気持ちです」と、ほっとした表情を見せてくれました。

女性エンジニアのトップランナーとして活躍できる環境へ

 私との面談を終え、「重荷」を「武器」へと変身させた江本さんのその後の転職活動は、まさに順調そのものでした。難関だと考えていた大手企業からも、転職にかける前向きな姿勢が突破口となり、学習意欲の高さなどポテンシャルを評価され、次々と内定を得ることができたのです。

 しかし、最終的に転職先を決定する段階では、私にとって予想外の展開となりました。

 転職活動中に、女性が働きやすい環境かどうかをしっかりと見極めていた江本さんだけに、私は育児制度がしっかりと整っていることで定評のあるA社、あるいは女性の管理職が多いB社を選ぶのではないかと考えていました。

 ところが、江本さんが選択したのは、優秀な技術者が多数在籍することで非常に高い評価はあるものの、ほとんど女性を採用した実績のないC社だったのです。

 私の心配をよそに、江本さんはとても明るい口調で、選択の理由をこう話してくれました。「A社もB社もすでに多数の女性が十分に活躍をしている環境。C社では私が女性エンジニアのトップランナーとして活躍できる余地があったんです。“C社で女性初のアーキテクト”って、相当インパクトがあると思いませんか?」

まずは大切にしたい目標を意識することから!

 このケースを通じて、女性であることがときに不利に働くことも、そして大きなチャンスになることもあると理解していただけるのではないかと思います。

 転職活動では、大切にしたい目標をしっかりと意識すること、その目標のため、自分が持っているあらゆるものを活用することがとても重要です。

 当初はベストだと考えていた選択肢でも、周囲の人たちがどんなに素晴らしいと考えている選択肢であっても、自らの目標にフィットしないのであれば、勇気を持って捨てる覚悟が必要だと思います。

 本当に大切にしたい目標に気が付くことができれば、女性であることを「個性」として活用できる環境を選んだ江本さんのような、「視野の広さ」を得ることができると思います。

 もちろん、自分にとって大切な目標が何かを整理するのは、なかなか難しいステップです。普段から少しずつ時間をかけて、気持ちを観察するところから始めてみるとよいと思います。

 

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今回のインデックス
結婚している女性エンジニアは、転職できない?
本当に大切にしたいものは、何ですか

筆者プロフィール
アデコ 人材紹介サービス部 コンサルタント
高野和幸
1974年埼玉県生まれ。大学卒業後、テレビゲーム雑誌、パソコン雑誌の編集・ライターを経て、2001年アデコに入社。スーパーバイザーとして、通信キャリアや大手航空会社のユーザー系システム開発企業にて派遣スタッフの管理を担当し、厚い信頼を得る。現在はキャリアコンサルタントとして、IT関連職種を中心に転職希望者のサポートを行っている。日本産業カウンセラー協会認定 産業カウンセラーおよびキャリアコンサルタント資格取得。

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