第18回 「汎用機エンジニアに未来はない」はウソである
アデコ
大田耕平
2008/11/12
■新しい環境で初めての技術を扱うリスク
そんなとき、山根さんは弊社の人材紹介サービスを利用し、私と会うことになりました。
面談ではまず、今回の転職活動で実現したいことを聞きました。山根さんの回答は、以下の2点でした。
- 年収をダウンさせたくない。
- オープン系エンジニアにキャリアチェンジしたい。
どうしてオープン系のシステム開発をしたいのでしょうか。その点についても聞きました。 「雑誌やインターネットを閲覧するとオープン系の求人ばかりが目立ち、将来が不安。年配のCOBOLエンジニアの転職先が見つからない」というのが主な理由でした。
これ以上汎用機の開発エンジニアを続けていても、世間に評価されるキャリアの形成は難しいと考え、オープン系エンジニアへのキャリアチェンジを目指すようになったとのことでした。
さまざまな視点から山根さんにインタビューしたうえで、私から転職市場の状況を踏まえてのお話をしました。
率直にいって、最初から給与を下げずに未経験であるオープン系エンジニアへ転職するのは難しいと思ったからです。新しい環境で、しかも初めての転職で、まったく触れたことのないテクノロジを扱うリスクについてもお話ししました。
転職先では、中途入社の社員には即戦力を求める傾向が強いと考えられます。人間関係を構築できていない場所で、初めて扱うテクノロジで信頼を得るには、並々ならぬ努力が必要です。
■汎用機の開発経験は、大きな武器になる
加えて、これまで身に付けたスキルについては自信を持ってアピールした方がいいと助言しました。
「汎用機エンジニアには未来がない」とネガティブに考えていた山根さんに、汎用機エンジニアの需要についてお話ししました。山根さんの経験に興味を持つ会社は決して少なくないと思ったからです。何しろ、30歳の若さで上流から下流まで汎用機の開発経験を積んでいるのです。転職に当たって、この経験とスキルを武器にしない手はありません。
しっかり話し合った結果、山根さんの転職活動の方向が定まりました。汎用機の開発経験を生かし、給料を下げずにオープン系へのキャリアチェンジが可能な会社を目指すというものです。
私はさっそく、この方向に合致する求人を、潜在的なものを含めてリサーチしました。汎用機からオープン系へのリプレース案件を扱う大手SIer、汎用機とオープン系の両方のプロジェクトを受託しているSIerなどをピックアップしました。そして企業の概要や募集の背景を山根さんに説明し、数社を選んで書類を送付しました。
面接対策をしたうえで選考に挑んだ山根さんは、見事メーカー系SIerの基幹システム再構築プロジェクトのリーダー職で内定を取ったのでした。給与も少しですがアップです。
しかし、転職活動はまだ終わりではありません。内定の取得後、再度面談の場を設けることにしました。山根さんの希望であるオープン系エンジニアへのキャリアチェンジが本当に可能かどうか、確認することにしたのです。
面談後、山根さんはうれしそうに面談の内容を教えてくれました。「社内の教育制度を存分に使ってオープン系の知識を習得してほしい。最初のプロジェクトでは汎用機の開発経験を生かし、プロジェクトの旗振り役として活躍してほしい」との言葉をもらったそうです。こうして山根さんの新たな活躍の場が決まったのでした。
■身に付けた経験を生かして転職活動を
今回は、汎用機エンジニアのキャリアチェンジの事例についてお話ししました。
山根さんの8年もの汎用機での開発経験のように、身に付けたスキルをまったく生かさずに転職活動をするのか、大いに生かして転職活動をするのかで、結果は大きく異なります。
転職活動をする際には、身に付けたスキルをどのように生かすかを考えることが大事なのですね。
さまざまな事例を紹介し、検証した本連載「『転職でキャリアアップ』のウソ・ホント」は、今回で最終回です。
いろいろなケースがあったと思いますが、シリーズ全体を通じていえるのは、ITエンジニアの皆さんそれぞれに、学んできたことも転職で実現したいことも異なるということです。転職に一定のセオリーはありますが、それに自分を無理に当てはめようとすると、残念な結果になってしまう可能性は少なくありません。
そんなリスクを避けるために、セオリーにとらわれない転職活動をしましょう。人材紹介会社のコンサルタントを活用して、視野も広げるのも1つの手だと思います。皆さんの転職の成功をお祈りしています。
今回のインデックス |
オープン系に進みたい山根さん。汎用機の経験は役に立たない? |
これまでの経験は、転職の大きな武器になる |
筆者プロフィール |
アデコ 人材紹介サービス部 コンサルタント 大田耕平 神奈川県出身。大学卒業後、大手独立系システムインテグレータに入社。システムエンジニアとして大手生命保険会社のシステム開発に携わる。アデコではIT業界のエンジニアの紹介を中心に幅広く担当。Webや紙媒体の求人情報では伝わりにくい部分を、ITエンジニア視点で求職者に伝えられるよう心掛けているという。 |
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