第5回 コミュニティとつながるフリーペーパー「EM ZERO」
岑康貴
2008/10/23
■コミュニティ活動に影響を受けたメディア作り
EM ZERO Vol.1 |
EM ZEROが目指すものは何か。野口氏は目的の1つとして「エンジニアのイメージを変えたい」と話す。
「エンジニア以外の人にも読んでもらえる媒体を目指しています。そのため、お会いしたエンジニアにEM ZEROを渡すときは、2部以上渡すんです。1部は本人のために、残りはお知り合いの方に渡してください、と」
ジュンク堂書店池袋本店への設置も、こうして多く渡されたEM ZEROを、読者の1人が書店に持ち込んだのがきっかけだという。読者や執筆者が、EM ZEROの営業活動を自主的に行ってくれる。
「編集の面白さとは、人とのつながりが生まれることだと思います。この楽しさを、EM ZEROにかかわるすべての人に伝えたいですね。執筆者にも、読者にも、デザイナーさんにも、イラストレーターさんにも、印刷会社の人にも」
人とのつながりというと、これもエンジニアのコミュニティ活動に通ずる面がある。コミュニティの現場に接近し、コミュニティのにおいのするメディアを作ろうとした編集者は、「ソフトウェア業界の、そうした活動の在り方に影響を受けている」と語る。
■コミュニティは「何でも試せる場」
野口氏は、コミュニティとはどんな場であると認識しているのだろうか。
「何でも試せる場であり、やる気が最も重要視される場だと思います」
会社の中での仕事が物足りないと思っている人は、人生のベクトルが「会社」に偏っているからではないか、と野口氏は主張する。企業は利潤追求というベクトルに従って駆動するが、コミュニティは、人によってさまざまな思いを持って集っている。
「非常にカオスな場です。にもかかわらず、そこには秩序のようなものが出来上がっている」
目的意識だけが重視されるのではなく、自己組織的に「やってみよう」が増殖する場。EM ZEROも、そうしたコミュニティと同じ特性を持った場に育てるのが、目下の野口氏の夢だ。現在も、自己組織的な組織運営のために、Webサービス(Google Docs、Google Sites、Wikiなど)で相互に投稿・編集できるシステム化を進めている。システム作りも有志を中心に行われているという。
「情報メディアではなく、感情メディアにしていきたい」と野口氏は力を込める。情報を得るという目的のためのメディアではなく、さまざまな感情が集まり、伝わっていくメディアを目指している、ということだろう。
■「EM ZERO」という名前に込めた意味
最後に、「EM ZERO」という名称について聞いた。「EM」とは、かつて野口氏が担当していた「エンジニアマインド(Engineer MIND)」の頭文字だろうか。
「それももちろんありますが、いろいろな言葉を当てはめてほしいと考えています。“E”は、エンジニアのEかもしれないし、エレクトロニックのEかもしれないし、エモーションのEかもしれません。“M”も、マインドだったり、ミッションだったり。“ZERO”も、ゼロから始める、という意味であり、ゼロ円(フリー)ということでもあります」
執筆者の原稿料が「今のところゼロ円という意味もありますね」、と野口氏。
エンジニア・コミュニティと接し続け、その在り方に影響を受けた編集者。彼は、エンジニアがコミュニティ活動を行うがごとく、その近くで会社という枠を飛び越えてメディアを作り始めた。
これから、EM ZEROを中心とした「人のつながり」はどうなっていくのだろうか。エンジニア・コミュニティとメディアの新しい形として、その動向に注目したい。
EM ZERO Vol.0とVol.1を手に |
参考:5分で絶対に分かるテクニカルトーク
@IT自分戦略研究所 via kwout
(EM ZEROでも執筆している、あまのりょーさんの記事)
参考:pivot_root via kwout
(EM ZEROでも執筆している、西河誠さんのコラム)
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