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エンジニアライフ時事争論(1)
デジタルネイティブと「無料文化」の未来

@IT自分戦略研究所
2008/12/9

 2008年11月10日、NHK総合テレビで放送された「NHKスペシャル デジタルネイティブ 〜次代を変える若者たち〜」。子どものころからインターネットに囲まれて成長してきた世代「デジタルネイティブ」にフォーカスを当てたこの番組は、インターネット上で話題を集めた。

 @IT自分戦略研究所 エンジニアライフのコラムニスト専用メーリングリストでも、「デジタルネイティブを見て、こんなことを感じた」という投稿を皮切りに議論が巻き起こった。

 「デジタルネイティブをテーマにしたコラムを書いてみないか」という編集部の呼び掛けに応え、持論を展開してくれた5人のコラムを紹介しよう。現代のエンジニアはデジタルネイティブとどう向き合っていけばよいのか。そのヒントを探る。

デジタルネイティブは「鉄道マニア」

 最初にコラムニスト専用メーリングリストでデジタルネイティブに対する「違和感」を表明したのは、『これはもうダメかもわからんね インフラ系SEの波瀾万丈伝』を執筆する田所稲造氏だった。メーリングリスト上でのやりとりを踏まえて11月15日にコラムを公開した。

 田所氏は、デジタルネイティブとシステムエンジニアを、それぞれ「電車・鉄道」のメタファーで表現している。

  • デジタルネイティブ=電車を上手に乗りこなせる人々。鉄道マニア

  • システムエンジニア=鉄道を作り、整備する人々。鉄道員

 「デジタルネイティブの分際で威張るんじゃない」と田所氏は主張する。「僕たちは、インターネットができる前から、情報技術者だったんだよ」。

 一方で田所氏は「デジタルネイティブは銀河鉄道999のお客さんだ」とも表現する。メーリングリスト上で『下流から見たIT業界』の後藤和彦氏が「エンジニアもまた、かつては銀河鉄道999のお客さんだった」と返答。後藤氏のコメントの引用でコラムは締めくくられている。

特別ではないデジタルネイティブ

 11月25日、遠く北海道から「デジタルネイティブは特別な存在ではない」というメッセージが届いた。『地方からの戯言』の執筆者 Ahf氏だ。

 Ahf氏は「デジタルネイティブは時代の変化の象徴」と語る。年功序列から成果主義へと、働く人々の価値評価基準が移り変わってきた。1つの到達点がデジタルネイティブである。インターネットの普及によって、年齢に関係なく実績を出せる人たちが増えた。

 デジタルネイティブに対する判断について、Ahf氏は「ケータイ小説」を取り上げる。デジタルネイティブもケータイ小説も、従来の環境や価値観からは考えられない現象だ。だが、環境や価値観そのものが移り変わっているのだから、既存の価値観で判断することは無益である、とAhf氏は主張する。

 デジタルネイティブには若さがある。むしろ、Ahf氏を含む「非デジタルネイティブ世代」であっても、デジタルネイティブのような思考や行動ができたとしたら。Ahf氏は「その人たちこそ特別な存在だ」と語る。まずは行動する、というデジタルネイティブの行動特性には見習うべきところがある。

価値観の変化

 『アーキテクトを目指して 社会人大学院生の挑戦』の阿部聡氏は、「非デジタルネイティブ世代ですら、考え方は変わってきている」と主張する。

 例えば、企業の基幹システムを開発するとき。かつては機能が最重要で、デザインは二の次だった。顧客からの要望も、慣れ親しんだ操作性をできるだけ変えたくない、デザインや操作性は以前のものを踏襲してほしい、というものが一般的。

 しかし阿部氏は、ここ2年ほどで状況が変わりつつあると語る。2000年ごろの基幹システムのデザインといえば「背景が灰色で飾り気がない」。だが、近年はデザイン面での一新も求める顧客が増えているのだという。たとえ基幹システムであろうとも、インターネットに慣れ親しんだ世代が台頭してくれば、機能性とデザインを考慮し、新しい価値観に合ったものを提供する必要が出てくるだろう。

「情報は無料」が当たり前?

 デジタルネイティブについての言及が多かったのは、『フリーなスキル』のはがねのつるぎ氏と、『下流から見たIT業界』の後藤和彦氏の2人だ。12月9日現在までに、はがね氏は3本、後藤氏は2本のコラムを公開している。

 くしくも両者はデジタルネイティブを生み出したインターネット社会への分析を主眼とする点で一致している。特に2人が12月8日に公開したコラムは、いずれもデジタルネイティブのある特性に着目している。

 デジタルネイティブは、「情報は無料と考える」。

 決してデジタルネイティブに限った話ではない。インターネットの普及に伴って、多くの情報が無料で得られるようになったのは事実だ。両者は、「情報は無料」というインターネット時代の価値観を、それぞれ独自の視点から分析する。

 はがね氏は「水と安全はタダといわれた時代があったが、今やどちらもお金を払って得るものになった」と語る。また、無料サービスの代表的存在である「テレビ」の広告モデルを踏まえた上で、インターネット上に溢れる無料サービス/無料情報を考察する。

 多くの人がブログで自ら情報を発信できるようになり、同時にそれらの情報を無料で得ることができるようになった。しかし、情報はあまりに増えすぎて、数多くの情報が見向きもされなくなった。では、金を払う価値のある情報とは何だろうか。有益であればお金を出すことも厭わないという「デジタルネイティブを超えた人」は出現し始めている、とはがね氏は主張する。

 無料の情報とは知識の断片にすぎない。情報をまとめ、整理し、加工することで、高い価値を持った情報が生まれるのではないか。はがね氏はそう結論付けている。

お金が媒介しないネット社会はユートピアか

 後藤氏はよりストレートに、インターネット上の「無料文化」に疑問を投げかける。情報は本当に無料なのか。後藤氏は「情報には値段がつけられない」と語る。これまで雑誌や新聞に人は対価を支払っていた。情報に対して支払っていたのではなく、情報を運んでくるメディアの費用を支払っていたのだ、と後藤氏は主張する。

 情報には値段がつけられない。だが、それは「情報に価値がない」ことを意味しない。

 エンジニアであれば、オープンソースソフトウェアの恩恵は無視できない。オープンソースも無料文化だ。現在は金銭以外のインセンティブで支えられているオープンソースだが、果たして金銭というインセンティブなしに継続可能なのか。

 「お金が媒介しないネット社会はユートピアか」という疑問を後藤氏は投げかける。デジタルネイティブ論からスタートして、インターネットが生んだ「無料情報」文化の是非へと問題は移行する。

 あなたはどう思うだろうか。各コラムニストへのコメント、編集部へのメール、自分のブログへの引用、あるいは、あなた自身がコラムニストとなって、あなたの考えを教えてほしい。

田所稲造 これはもうダメかもわからんね
インフラ系SEの波瀾万丈伝
Ahf 地方からの戯言
阿部聡 アーキテクトを目指して
社会人大学院生の挑戦
はがねのつるぎ フリーなスキル
後藤和彦 下流から見たIT業界

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