誰がためにレポートを書く? バグレポートを改善せよ
第3バイオリン(@IT自分戦略研究所エンジニアライフ コラムニスト)
2011/8/3
■テストエンジニアが集まるワークショップ「WACATE」
皆さん、「WACATE」(Workshop for Accelerating Capable Testing Engineers)をご存じでしょうか?
WACATEは若手テストエンジニアによる若手テストエンジニアのためのワークショップです。6月25日と26日の2日間、神奈川の三浦半島にて通算8回目となるソフトウェアテストワークショップ「WACATE 2011 夏」が開催されました。
ソフトウェアテストのワークショップといっても、参加者はテストエンジニアだけではありません。普段は開発担当だけどテストのことをきちんと学びたい、高品質なソフトウェアを作りたいというエンジニアも大勢、参加しています。
テストエンジニアはもちろん、開発に携わるエンジニアにも、このようなワークショップがあることを知ってほしいと思います。
■WACATEの主役はもちろん「若手」
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WACATEは若手中心のワークショップですが、年齢制限はありません。ベテランの人も参加できます(WACATEでは35歳以下を若手、36歳以上をベテランと定義しています)。これは、WACATEが単に若手エンジニア同士の交流にとどまらず、若手とベテランが交流することを目的としているからです。交流によってベテランは自らの知見や技術を若手に継承できますし、若手がどういう考えを持っているかに気付くこともできます。
私はWACATEの定義でいうところの若手テストエンジニアです。もともとは開発担当でしたが、3年ほど前にテストエンジニアに転向しました。WACATEを知ったきっかけは、テストの部署に異動したばかりのころ、勉強のために読んだ『ソフトウェアテスト入門』という書籍でした。その書籍を基にWACATEのことを@IT自分戦略研究所エンジニアライフのコラムで取り上げたところ、実行委員の中の人に声を掛けていただいたのです。2009年の冬に初めて参加し、それ以降は毎回、参加しています。
WACATE2011のテーマは「誰がためにレポートはある」。テストに携わるエンジニアならおなじみの、インシデントレポート(バグレポート、障害票とも呼ぶ)がテーマです。
インシデントレポートとは、「発生したあらゆるインシデント(テストの最中に調査を必要とする事象など)を報告するドキュメント」です(JSTQB ソフトウェアテスト標準用語集(日本語版)Version 2.0.J01より)。テストエンジニアはテスト中に不具合を見つけたとき、インシデントレポートを発行し、開発チームに報告します。開発チームはインシデントレポートの内容を基に、不具合を調査し、修正や対策を施します。
インシデントレポートは、どのようにすればカイゼンできるのか? このテーマについて、2日間みっちりとグループワークに取り組んできました。
■まずはポジションペーパーセッション
今回のWACATEの参加者は49名。男性39名、女性10名と、IT系の勉強会としては女性の割合が多い方だと思います。参加者の年齢層は若手が36名で、ベテランが13名。若手のうち30歳以下が12名と、伸び盛りの若いエンジニアの姿が目立ちました。
さて、参加者は2日間にわたってグループワークを行うわけですが、いきなり会ったばかりの人たちとディスカッションするのはなかなか気が引けるし、不安があります。その対策として、WACATEでは1日目の最初に「ポジションペーパーセッション」を行います。
ポジションペーパーは直訳すれば「立場表明書」、WACATE参加についての自分の立ち位置を示すためのレポートです。ポジションペーパーは、単なる自己紹介にとどまりません。テストや品質に関する熱い思いや日ごろの疑問、WACATEで特に議論したいことなどを、文章や図表、イラストなどを使って目いっぱい自由にA4サイズ1枚で表現します。
ポジションペーパーセッションの様子 |
WACATE当日、参加者は5〜6人のグループになり、ポジションペーパーを使って自己紹介をします。与えられる時間は3分間。限られた時間でいかにアピールするかが腕の見せどころです。
参加者それぞれが工夫を凝らしたポジションペーパーを読むのはとても楽しいものです。自分自身についてマインドマップを描いたものもあれば、今回のテーマがインシデントレポートということで、自作のインシデントレポートを載せたものもありました。
■インシデントレポートを改善せよ!
ポジションペーパーセッションでお互いのことを知ったところで、いよいよグループワークが始まります。
ワークショップは、参加者が「WACATE Corporation」のテストチームに所属しているという前提でスタートします。本部長から「ある部署のインシデントレポートに問題があるので、改善してほしい」と依頼を受けたという設定で、社員(参加者)にプログラム仕様書と、インシデントレポート3部が配布されました。このインシデントレポートが、なかなかよくできたひどさ(!)でした。
不具合の再現手順が整理されていない、入力データについての記載がないのは序の口で、「恐れ入りますが修正をお願いします」など、本来インシデントレポートに書くべきでないことを書いていたり、テストエンジニアの主観(しかも妙にカチンとくるような言い方)が入っていたり。今まで何度もインシデントレポートを書いている私は、読んでいて思わずニヤリとしたり、頭を抱えたくなったり、何ともいえない気分になってしまいました。
去年の夏に参加したときも思ったのですが、WACATEのワークショップの教材は本当によくできています。ワークショップの教材を作るために、実行委員は合宿を行って集中して作り込むのだそうですが、今回の教材では、わざとバグを埋め込んだプログラムが一番の苦心作だったそうです。今回プログラムを担当したのは実行委員の加瀬正樹さんと井芹洋輝(いせりひろき)さんですが、井芹さんが「バグを正確に埋め込むのはつらかった」と語っていたのが印象的でした。
■リーダーはチームで最も若い人
ワークショップでは、チームリーダーとサブリーダー、記録係を決めます。リーダーには「業務経験3年以上、20代」、サブリーダーには「業務経験5年以上」という条件があります。メンバーに20代の人がいないチームの場合、最年少のメンバーがリーダーになります。つまり、実務ではまだリーダー経験がほとんどない人が、リーダーやサブリーダーの役割を担うことになるのです。
これが実務であれば、大変なことになります。失敗をすれば大勢に迷惑が掛かってしまうし、金銭的な損失を被る可能性だって十分にあります。しかし、ワークショップは失敗を恐れずに思い切った挑戦ができる良い機会です。
私自身、去年の夏のワークショップでリーダーを経験しました。そのときは本当にハードでしたが、その分、多くの気付きや学びがありました。このときのエピソードは過去のコラムにも書きましたが、スケジュール管理やメンバーへの仕事の振り分け方について、チームをうまく回すにはどうすればいいか、周りのメンバーに助けられながら頭だけでなく体で学ぶことができました。それだけにとどまらず、「優れたリーダーとは、どういう存在なのか?」と、深く考えることができました。
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