「自分戦略」とは何か
第2回
失敗する戦略の原因とは!?
アットマーク・アイティ 藤村厚夫
2003/4/4
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■ビジョンを実現する方法が戦略
今回は、前回に引き続き「自分戦略」における「戦略」という主題にこだわってみようと思います。
前回は、ITエキスパートとその社会的文脈(外部環境といい換えてもいいでしょう)の関係について述べました。この数年の間に“ITバブル”という絶頂期があり、そして、いままた“IT不況”というドン底期にあるわけです。
このようなめまぐるしさの中をどう生きるのか。
自分の内部に揺るぎない価値尺度を築かない限り、こんなハードな時代には周囲に振り回されるだけだと。これが私たちの主張です。
こんな反論も聞こえてきそうですね。「自分の価値観だけにこだわっていて、幸せなキャリアが築いていけるのか。自分1人で働いていくのではないのだから」と。
そのとおり。自分の信念にだけ、いい換えれば、自分の内部だけにこだわり続けていくのならばそもそも戦略は不要です。私たちは、自身の内側に宿るビジョン(「自分はいったいどうありたいのか」)を、結局のところ、社会や職場という現実の場を通じて実現していくための方法を、「戦略」と呼ぼうと思います。ビジョンを実現するための方法、それが戦略なのです。
■戦略を欠いた失敗とは
さて、ようやく「戦略」を論じるところに到着しました。早速戦略について述べていきましょう。
失敗の本質 日本軍の組織論的研究 戸部良一、寺本義也、鎌田伸一、杉之尾孝生、村井友秀、野中郁次郎著 中央公論新社(中公文庫) 1991年8月 ISBN4-12-201833-1 762円(税別) |
そのために格好なテキストがあります。『失敗の本質 日本軍の組織論的研究』です。主題は見てのとおり「日本的組織論」の社会学的、戦史的研究です。が、今回はこれを「戦略性の欠如が大きな失敗に至る」過程を説いた書物として読んでみたいと思います。
著者らは太平洋戦争下の大規模戦闘(作戦)をケーススタディに、日本軍組織の特性と課題を抽出し敗北の原因を検証します。私たちの「戦略」という関心に沿って、ポイントを拾い出してみます。
(1)あいまいな戦略目的
(2)長期的展望のない短期決戦の戦略志向
(3)主観的な戦略策定
(4)狭くて進化のない戦略的オプション
どうですか、自分戦略への連想が働きますか。
まず、いきなりインパクトがあるのは「目的のあいまいな作戦は、必ず失敗する」という指摘です。何を実現するのか、の目的が不明確なまま作戦に突入してしまった日本軍。本書で「(作戦目的の)不明確性を生む最大の要因は、個々の作戦を有機的に結合し、戦争全体をできるだけ有利なうちに終結させるグランド・デザインが欠如していたことにある」と指摘されています。個人の戦略づくりに引き寄せても考えさせられるものがありそうですね。
(2)も同様です。長期的展望=「グランド・デザイン」を欠き、一気呵成(かせい)にゴールを目指そうという性急な思考。見ようによっては勇ましいスタイルですが危険をはらんでいますね。ますますわが身を振り返らせる指摘です。以上は戦略の立て方にかかわっての指摘でした。
■現実と会話する、進化する戦略
さて、さらに重要なのは「主観的な戦略策定」の弊害です。著者らの説明はこうです。
まず初めにグランド・デザインがないことで「場当たり的」判断に終始する。次に、思い込みばかり強いことで、外部から得られる情報を軽視し「主観的に状況を判断」してしまう。さらに、思い込んでいた前提が崩れると、「まったく異なる戦略を策定」できない危機に至る。すべて主観に依存しすぎた思考によるリスクです。自分がどんな能力を有するか、自分を取り巻く周囲に何が起きているのか、それをどう判断して的確に対処するのか……。これらは自分の内部にだけ目を向けていると陥ってしまう危機をよく説明しています。
ビジョンを実現するための方法である戦略は、この環境とその中にある自分を客観的に見ることによって、妥当なアクション(作戦)を立案できるのだといっていいでしょう。
従って、最後の「狭くて進化のない戦略的オプション」の指摘は、最も示唆的です。著者らはこういいます。「状況に合致した最適の戦略を戦略オプションの中から選択することが最も重要な課題」だと。
私なりに乱暴に解釈すると、「戦略には、状況に応じた選択をする余地を残しておけ」ということでしょう。状況判断によっては退くこともあれば迂回(うかい)することもあると。戦略は固定的なものではなく、現実と会話することで変化する、生きたものでなければならないのです。
どうですか、少々堅苦しくなってしまいましたが、戦略を取り巻く議論を整理してみました。繰り返しになりますが、「戦略」とは「ビジョン(大きな目標といい換えても可)」を的確に実現するための方法論です。ご紹介した書籍では、この戦略が偏狭すぎたり、固定的であることによって起こる悲劇を解説しているのです。
これからは、現実と会話し、進化するもの、という文脈で、私たちは「自分戦略」を語っていきたいと思います。ではまたお会いしましょう。
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