第5回 ひがやすを「SIerは顧客の良きパートナーとなれ」
岑康貴(@IT自分戦略研究所)
2009/12/22
「クラウド」や「内製化」で変わりつつあるIT業界。その中で従来型のSIerはどうなるのか。そこで働くITエンジニアはどうするべきか。講演やブログを通じてSIerやエンジニアについて提言を行ってきたひがやすを氏へのインタビューから、2010年の「自分戦略」を立案するためのヒントを探ろう。 |
1週間にわたってお送りしてきた特集「SIerの未来、エンジニアの未来」。最終回は、システムインテグレータ(SIer)に勤めながら従来型のSIerに数々の提言を行ってきた、Seasarフレームワークの開発者ひがやすを氏に、SIerが今後どうなっていくのか、ITエンジニアはどうあるべきかを聞いた。
2010年のあなた自身の「自分戦略」を考えるうえで、参考になれば幸いである。
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■ 従来型SIerは崩壊する
―― 今年はSIerにとって苦しい年となりましたが、今後SIerはどうなっていくと思われますか。
ひが SIerは「基本的には」崩壊すると思っています。「基本的には」というのはどういう意味かというと、「いまのようなSIerの形は崩壊してなくなる」ということです。
―― 「いまのようなSIerの形」というと?
ひがやすを氏 |
ひが 現在のシステム開発は、設計者と開発者が分かれていて、SIerはプロジェクトマネジメントの部分を担当するのが主な仕事でした。この構造が崩壊するだろうと思っています。
―― 設計と開発の分業についての批判は以前からあったと思いますが、それが崩壊すると思われる理由は何でしょうか。
ひが 今後、経済効率性がますます重要視されていくと考えられるためです。いまのSIerのやり方は経済効率性が良くないんですね。(人月ビジネスのため)効率的に仕事をすると売り上げが減っちゃうんです。おかしいじゃないですか。
それでも不況でなければ良かったんです。ユーザー企業側は切り詰める必要はないし、これまでのビジネスが継続できていれば良しとする、というのがこれまでの流れでした。しかし、不況になって、コストは削れるところから削るという動きがユーザー企業から出てきています。内製化の流れも同じ文脈です。
全部が全部、内製で済むとは思いません。企業の規模によっては開発の規模がかなり大きくなりますから。とはいえ、これまでのように、単に「こんなことをしたい。後はよろしく」という丸投げをしてくる企業は減っています。自分たちでどのくらいコストがかかるのか見積もりをしつつ、少数の優秀な技術者を連れてきて、その人たちと一緒に仕事をするというケースが増えているのです。
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それに加えて、スピードの問題があります。間に入る人が多ければ多いほど意思決定は遅くなります。しかし、ビジネスの意思決定を早くしないと生き残れません。だから、間に入る人を減らそうとユーザー企業は考えているのです。
以前、ある証券会社の仕事をしたことがあります。そのとき彼らはいっていました。「全部、外部にお願いしていると、新たな商品を作るのに非常に時間がかかってしまう」と。最初は一緒に作るとしても、一度プロダクトやWebサイトがリリースされた後、彼らはどんどん新しい商品を作っていかなければなりません。すべて外に任せていると、他社にスピードで負けてしまうんです。
経済効率性とスピード、2つの点から、なるべく間に入る人を減らす方向へとユーザー企業は流れています。これが分業体制の崩壊の根拠です。今回の不況で、この流れは加速するのではないでしょうか。
―― 景気が回復したら元に戻るという可能性は?
ひが 元に戻るところと、もう戻ってこないところ、両面あると思います。元に戻るのは、いま「何もしない」という戦略を取っている企業。ここは、単に発注を抑えているだけなので、景気が回復すればまた外部に発注するかもしれません。でも、いま「自分たちの力で変わろう」としている企業は、「変わる」という方向に舵(かじ)を切っているので、経済が回復しても、以前と同じ行動パターンを取るとは思えません。
前者のタイプは今後、減っていくと思います。歴史上、経済効率性の下がる方向に物事が進んでいくというケースはあまりないので。
■ 「良きパートナー」となるSIer、そこで求められるエンジニア像
―― 丸投げは減る。でもユーザー企業がすべて内製で回せるというわけでもない。SIerのスタンスはどのように変化していくのでしょうか。
ひが 先ほど挙げた企業の2つのタイプのうち、SIerがお客さまとして相手をしているのは前者のタイプが多かった。でも、そういうタイプの企業は減っていきます。パイが小さくなっていくわけです。だから、わたしたちは後者のタイプ、いま「自分たちの力で変わろう」としている企業を相手にしていかないといけない。彼らの「良きパートナー」になることが重要だと思います。
―― 良きパートナーとは、どのようなものでしょうか。
ひが 従来のような「何でもお任せください」というスタンスではなく、(プロジェクトに)最初から一緒に入って、一緒に考えるというスタンスを取るということです。お客さまは自分たちのビジネスには詳しいですが、テクノロジーに関してはそこまで普段からよく知っているわけではありません。でも「変わりたい」という意欲はある。そこでわたしたちは「こういう技術があって、これを使うと御社のビジネスにとって良いと思います。一緒に検証していきましょう」と、最初からパートナーとして接していくのが重要です。
―― ビジネスのやり方が変わりますね。
ひが はい。これまでは技術者を何人、というふうに連れてきて、人月ベースのビジネスで売り上げを上げていました。単価は安いかもしれないけれど、人をたくさん連れてくれば売り上げが上がるという仕組みです。もっといえば、安い単価の人を連れてくれば、その分利益が上がる、というモデルでした。今後も人月ビジネスが大幅に変わるとは思いません。ただし、これまでみたいに、単価の低い人をたくさん入れて売り上げを伸ばすということはできなくなると思います。
なぜなら、お客さまと一緒に仕事をすることになるからです。優秀な人でないと、お客さまはイヤなわけです。良きパートナーとして、お客さまの会社の一員として入ってやらないといけない。だから、人数合わせのような、スキルの低い人では困るわけです。スキルの高い人を入れていかないといけない。逆にいえば、単価は上げられると思っています。
「単価の低い人を入れればもうかる」というやり方がこれまで現実としてあったわけですが、それはもう通じません。総売り上げではなく、利益率を狙うビジネスにシフトせざるを得ないと思います。
―― そうなると、選ばれるITエンジニアと、選ばれないITエンジニアに分かれていくことになると思います。選ばれるような「スキルの高いITエンジニア」とはどのような人を指すのでしょうか。
ひが お客さまとちゃんと話ができる人です。といっても、よくいわれる「コミュニケーションスキルが大切」という話ではありません。これまでSIerがITエンジニアに対していっていた「コミュニケーションスキル」というのは、いろいろなプロジェクトの人たちと円滑に仕事を進められるという当たり前の話でした。そうではなく、「お客さまはこういうことを求めている」ということにちゃんと気付くことができて、「こういうことですか」とちゃんと提案できるというスキルが求められるのです。
技術力も必要です。単に話せるだけでは信用されません。技術的な引き出しがないと、詳しい人に聞いてきます、ということになってしまいます。先ほどスピードの重要性をお話ししたとおりで、それでは遅いんです。良きパートナーとは、話を聞いてすぐ、ある程度のソリューションを提案できるくらいの技術力を持っていないといけません。
敷居は上がると思います。「これまでと比べて明らかにスキルが高い」とお客さまに示せる人でないと、高い単価が付きません。
―― そのようなITエンジニアになるためには、どうしたらよいのでしょう。
ひが 社外の人とちゃんと話せるスキルを獲得するのが重要です。そのためには、いろいろな勉強会やイベントで話す機会をつくるといいと思います。幸いなことに、いま東京では毎日のように技術系の勉強会が開催されています。スピーカーとして人前で話す経験をしたり、スピーカーと意見交換をしたりすることが、お客さまとちゃんと話すスキルの獲得につながると思います。技術力も身に付くので、一石二鳥ですね。
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