第2回 成功者の憂鬱
脇英世
2009/5/13
1981年2月、自分で操縦していた飛行機が墜落し、軽い記憶喪失症にかかった。それもあってスティーブ・ウォズニアックは長期休暇を取った。そして、UCバークレーに復学し、1982年にコンピュータ科学と電気工学の学士号を取った。この間、スティーブ・ウォズニアックは2度ほどUSフェスティバルというロックコンサートを後援した。やりたいことが何でもできる身分になったのである。
1983年6月スティーブ・ウォズニアックはアップルに戻り、アップルIIの後継機の開発に助言をする。しかし復帰後のアップルでは、スティーブ・ジョブズの率いるマッキントッシュ計画の方が主流で、スティーブ・ウォズニアックの影は薄かった。しばらく会社を休んでいた人が会社に戻ると自分の席がないのに気が付くということを、スティーブ・ウォズニアックは経験したのである。
1985年、スティーブ・ジョブズとともにレーガン大統領から表彰を受けると、スティーブ・ウォズニアックはアップルを退いた。
スティーブ・ウォズニアックがアップルを退いたのは、テレビと家庭用電化製品用のリモートコントロール製品を設計し、製造するCL9(クラウド・ナイン)という会社を設立するためであったが、1987年にはこれも退いた。その後は、自分の家のあるロスガトス地区の子どもの教育に全力を挙げることになる。10歳から13歳くらいの子どもの教育に情熱を傾けているようだ。スティーブ・ウォズニアック自身、子どもは奥さんであるスザンヌとの間に6人もいる(*1)。スティーブ・ウォズニアックは教育の重要性について宗教的なまでの信念を持っている。ロスガトス周辺地区の学校に12の実験室を寄付したりして、地域に貢献している。教育のコツについてもよく知っているようだ。
(*1)スティーブ・ウォズニアックは1980年にアリス・ロバートソンと結婚したが離婚。1987年にキャンディス・クラークと結婚し、3人の子どもをもうけるが離婚。l990年ごろにスザンヌ・マルカーンと知り合う。スザンヌは人妻で3人の子どもをもうけていた。従ってスザンヌとの間の3人とキャンディスの間の3人で、6人の子どもを持っていたことになる。子ども好きの人らしい。 |
「コンピュータに上達するにはコンピュータでたくさんの時間を使わなければならない。たまたま、まったく簡単にコンピュータを知ったという人はいない。誰が何といおうともコンピュータは簡単ではない。教師としてわたしがいつも考えていることは、生徒が上達できるように、どうしたら十分な時間を費やせるか動機づけをすることだ」
1997年6月、スティーブ・ウォズニアックは第12回マッキントッシュ デベロッパーズ コンファレンスの基調講演で、アップルがスティーブ・ジョブズのNeXTの技術を買うことに反対した。それよりも子どもの教育にお金を使うことがアップルの成功の鍵だと演説した。アップルはラプソディに投入するお金を教育につぎ込むべきだといったのである。
これに対するアップルの反応は「スティーブ・ウォズニアックはアップルの最高経営責任者ギルバート・アメリオのパートタイムの相談役にすぎず、彼の意見はアップルの意見を反映するものではない」とした。これによって、当時のスティーブ・ウォズニアックのアップル内における地位が読み取れる(*2)。
(*2)現在アップルの実権を持つスティーブ・ジョブズによって、スティーブ・ウォズニアックの相談役顧問の地位は取り消されてしまっている。 |
スティーブ・ウォズニアックはお金も名声もある。しかし自分を燃焼させるものが見つからない。彼の最近の発言は過激で、何か鬱積(うっせき)したものを感じる。スティーブ・ウォズニアックは語る。「アップルでは喜びを感じ、この世界で起きている何か素晴らしいことに関与していた。しかし、いま自分のしていることは本当にもっと素晴らしいことと感じている」
でもそれは本当かなと思う。いまスティーブ・ウォズニアックは、この世界で起きている何か素晴らしいことに関与していない。だから過激になるのである。
スティーブ・ウォズニアックの評価は彼自身が一番適切に語っている。
「わたしは非常に少ない部品で回路を設計し、まさに驚異的でトリッキーで天才的なプログラムコードを書いた優秀なコンピュータ設計者として記憶されることを希望する。わたしは子どもを愛した良き父親として記憶されることを希望する」
本連載は、2002年 ソフトバンク パブリッシング(現ソフトバンク クリエイティブ)刊行の書籍『IT業界の冒険者たち』を、著者である脇英世氏の許可を得て転載しており、内容は当時のものです。 |
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