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IT業界の冒険者たち

第54回 ホームブリューコンピュータクラブのモデレータ

脇英世
2009/8/10

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 さて、ホームブリューコンピュータクラブの運動はたちまち盛り上がり、3回目の集会では参加者が数百人にも達し、ゴードン・フレンチのガレージには収まらなくなった。さらに参加者は増え続け、多いときには1000人に届かんばかりに膨れ上がり、スタンフォード大学のリニアアクセラレータセンターの講堂を使うまでになった。ベイエリアのマイコン革命運動に火が付いたのである。

 ここで、リー・フェルゼンスタインが活躍する。ゴードン・フレンチは彼の才能を見抜き、ホームブリューコンピュータクラブにおける集会のモデレータ役を任せた。その期待に違わず、司会の才能に長けていたリー・フェルゼンスタインは、ウィットやユーモアを織り交ぜつつ、当意即妙の進行を行った。

 ホームブリューコンピュータクラブの集会は、スティーブ・ジョブズ、スティーブ・ウォズニアック、テッド・ネルソン、アダム・オズボーンなど、後にパソコン業界の有名人となった人物を大勢輩出した。リー・フェルゼンスタインは、マイコン革命の運動を育むのに一役買ったわけである。同クラブの運動は次第に衰えていくが、公式の記録によると、リー・フェルゼンスタインは、1975年から1986年までの間モデレータを務めたことになっている。

 リー・フェルゼンスタインは、コミューン運動に強く影響されていたため、お金をもうけることには多少の抵抗があった。そのためか、生活していける程度にしか稼がなかった。それとは反対に、友人のボブ・マルシュはマイコン事業に突進していく。ボブ・マルシュは、メモリボードを設計した報酬として500ドルをリー・フェルゼンスタインに払いたいといったが、50ドルしか受け取ろうとしなかった。結局は半ばで折れたが、ボランティアという姿勢は崩さなかった。当時、MITSのメモリボードは、その多くが欠陥品であったため、リー・フェルゼンスタインが設計したメモリボードは、MITSに大きな打撃を与えている。

 続いて、リー・フェルゼンスタインは、ボブ・マルシュに頼まれて、MITSのオルテアー8800b用のビデオディスプレイモジュールVDM-1を設計した。オルテアー8800bの表示装置は発光ダイオードだけであった。TV受像機に接続して、画面に文字データを表示することを可能にしたもので、TVタイプライタのようなものである。画面には、64字×16行を表示できた。昔、日本でもTK-80ボードに、ビデオモジュレータを付けて、TV受像機に接続した覚えがある。

 リー・フェルゼンスタインは、このほかにも大きな技術的足跡を残している。1つは1975年にソル(SOL)というマイコンを設計したことで、もう1つは1981年に有名なオズボーンIを設計したことである。

 まず、ソルについて述べよう。ソルはポピュラーエレクトロニクスの編集者ル・ソロモンとボブ・マルシュの話し合いから生まれた。ボブ・マルシュはこの設計をリー・フェルゼンスタインに託した。リー・フェルゼンスタインは、ソロモンの智恵から生まれたマイコンということで、新しい機械をソロモン、もっと短くしてソルと呼んだ。これが名前の由来である。無用になったデジタル時計用のクルミ材を大量に持っていた友人から、これを安く引き取ったボブ・マルシュは、ソルの側板に採用した。昔、どうしてマイコンの側板にクルミ材の板を使うのだろうと首をひねったものだが、要はボブ・マルシュがケチであっただけの話である。

 最後に悲劇のオズボーンIを紹介したい。1980年、ボブ・マルシュと疎遠になったリー・フェルゼンスタインは仕事に困っていた。そんなとき、オズボーン・コンピュータのアダム・オズボーンが救いの手を差し伸べた。ポータブルコンピュータの設計を依頼してきたのである。完成したポータブルコンピュータすなわちオズボーンIは、飛行機の座席の下に置ける本体サイズにアダム・オズボーンがこだわったため、CRTディスプレイの大きさが極度に制限され、画面が小さくて使いにくかった。価格は1795ドルで、最新のハードウェアこそ使っていなかったが、ソフトウェアが山のように付属していた。いうなれば、ハードがソフトのおまけのような機械であった。最初はかなり評判になったが、殺到する注文に生産が追いつかないうえに、ライバル会社の追撃にも遭い、オズボーン・コンピュータは1983年9月に倒産している。

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