第28回 デキる技術者になるためのちょっとした心掛け
野村隆(eLeader主催)
2007/7/27
将来に不安を感じないITエンジニアはいない。新しいハードウェアやソフトウェア、開発方法論、さらには管理職になるときなど――。さまざまな場面でエンジニアは悩む。それらに対して誰にも当てはまる絶対的な解はないかもしれない。本連載では、あるプロジェクトマネージャ個人の視点=“私点”からそれらの悩みの背後にあるものに迫り、ITエンジニアを続けるうえでのヒントや参考になればと願っている。 |
■リーダーシップトライアングルにおける位置付け
この連載では、システム開発プロジェクトにおけるリーダーシップを中心に、「私の視点=私点」を皆さんにお届けしております。
今回は、リーダーシップトライアングルの中心であるLoveに関係します。Loveについては、第10回「正しいことをし、行動力を発揮するココロ」を参照いただければと思います。
図1 リーダーシップトライアングル。今回は「Love」(ココロ)に関連する内容について解説する |
■コーヒーショップでの出来事
ここのところ、ちょっと堅苦しい話が続いたので、今回はちょっと軽めの話から始めます。私の通勤経路の駅の近くにあるコーヒーショップでこんな光景を見かけました。このコーヒーショップは、カウンターで飲み物を購入し、セルフサービスで自席まで持っていくというよくある形式のお店です。この店では焼きたてのパンが売り物のようで、たまにこの店パンを朝食とすることがあります。
ある朝、私はこの店で朝食を取っていました。その際、たまたまレジカウンターの前の席に座りました。当然、レジカウンターの店員さんが目の前にいることになります。私の目の前には、2人の店員さんが並んでお客さんの対応をしました。2人とも若い女性で、おそらく大学生のアルバイトでしょうか。
その店はそれほど混雑するわけでもないので、対応するお客さんが居ないときには、店員さんがおしゃべりを始めます。小声で話をしているので迷惑というわけはありません。
ここまではよくある風景なのですが、この2人の女性店員さんの行動でふと気付いたことがありました。
■ちょっとした行動の違い
2人の店員さんのうち、1人はおしゃべりをしている間に特に何もしていませんでした。しかし、もう1人の店員さんは、おしゃべりはするのですが、おしゃべりをしながら何らかの作業をしています。
例えば、パンを入れるためのビニール袋を広げておいて、お客さんの接客を素早くこなすよう備える。店にお客さんがはいってきたら、おしゃべりをちょっと中断して、「いらっしゃいませ」という。おしゃべりをしている間に接客準備をし、礼節は欠かしません。
この行動の差に気付いた後、店を出るまで二人の行動を見ていたのですが、何もしない店員さんは、最後までおしゃべりの間は何もしませんでした。かたや、おしゃべりをしながら活動していた店員さんは、必ずおしゃべりをしながら何か活動し、お客さんが店にはいってきたら、必ず「いらっしゃいませ」といっていました。
店を出てから、自分の中で次のように考えさせられました。
「おしゃべりをしながら活動していた店員さんは偉いなあ。あいさつも欠かさないのも立派だ」
「おしゃべりだけで、何もしなかった店員さんは、店員としては及第点なのかもしれないが、2人並ぶと店員の質としては、見劣りするような気がする」 「そもそも、あの2人は、同じ時給で働いているのかな」 「私が経営者だったら、おしゃべりをしながら活動してあいさつを欠かさない店員さんに多く時給をあげたいなぁ」 「あの2人の店員は、いまは同じ店員として働いているけど、将来の伸びは違うのではないか」 「おしゃべりをしながら活動していた店員さんの方が、将来、立派な人になるのではないか」 |
などなど。何気なく朝食をとったコーヒーショップでの出来事ですが、何か重要なことを考えされられたような気がしました。
■デキる技術者のちょっとした違い
長くなりましたが、この辺で話題をシステム開発の現場に戻しましょう。
システム開発の現場では、ちょっとした「空き時間」が発生してしまうことがあります。
例えば開発環境、テスト環境のマシンが故障してしまった、ネットワーク障害で作業環境にログインできないなどの障害の場合。打合せで担当者が不在なため、仕様書の不明点を明確にできずに開発作業が停滞する。テスト実行の際に前段のジョブが何度リランしてもアベンドしてしまい、何時間たっても自分の担当ジョブのテスト走行ができないといった、作業の段取りが悪い場合などいろいろあります。
具体例はともあれ、システム開発の現場で「空き時間」が発生する要素が、ままあるということは皆さんも経験していることでしょう。
ここで考えてほしいことは、この「空き時間」に何をするかが大切である、ということです。
「空き時間」にボーっとしている人と、何らかできることを見つけて次の仕事につなげたり、技術関連の書籍やパッケージソフトのマニュアルを読んでスキルを身に付けるという人がいたとします。
さて、どちらの技術者が、将来、デキる技術者になるでしょうか。説明するまでもないでしょう。
■「力耕不吾欺」という考え方
とはいいつつも、いざ自分のこととなると、どうしてもボーっとしてしまう。ちょっとくらいならいいだろう、あるいは、次回時間がとれたら勉強しようなどの理由で、スキルを身に付けるための努力ができず、つい自分に甘くなってしまう人も多いのではないでしょうか。
そんなときに、ぜひ、思い出してほしい考え方があります。
中国六朝時代の詩人の陶淵明の「移居」に、「力耕不吾欺」というくだりがあります。これは、「力耕(りきこう)、吾(われ)を欺かず」と読みます。意味は、田畑を、力を込めて耕せば、その田畑での実りは耕した人を欺かない、つまり、自分が力を尽くせば、望み通りの結果が出るということです。
ちょっとした、「空き時間」でもあっても、自分のスキルを磨くべく、努力する。こういう姿勢は尊いと思います。まさに、「力耕、吾を欺かず」の考え方です。この姿勢を持つか持たないかが、デキる技術者とそうでない技術者の分かれ目の1つなのではと私は思います。
「力耕、吾を欺かず」という考え方を引っ張り出しましたが、もっと身近な例としては、冒頭に紹介した、コーヒーショップの2人の女性店員のことを思い出してください。
おしゃべりをしながら活動していた店員さんと、おしゃべりだけで何もしなかった店員さん。
あなたは、どっちの店員のほうが、将来、立派になるとおもいますか? 日ごろのあなたは、どちらのタイプですか? そして、あなたは、どちらのタイプを選びますか?
ちょっとした「空き時間」を大切にして、デキる技術者を目指しましょう。
筆者プロフィール |
野村隆●大手総合コンサルティング会社のシニアマネージャ。無料メールマガジン「ITのスキルアップにリーダーシップ!」主催。早稲田大学卒業。金融・通信業界の基幹業務改革・大規模システム導入プロジェクトに多数参画。ITバブルのころには、少数精鋭からなるITベンチャー立ち上げに参加。大規模(重厚長大)から小規模(軽薄短小)まで、さまざまなプロジェクト管理を経験。SIプロジェクトのリーダーシップについてのサイト、ITエンジニア向け英語教材サイト、人材派遣情報サイトも運営。 |
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