第34回 オフショア成功に必要な「ある特性」
トライアンツコンサルティング
野村隆
2008/2/22
■非常識なのは日本人メンバー? オフショアメンバー?
このような状況で押し問答が続いたとすると、日本人プロジェクトメンバーはきっとこういうでしょう。
日「分かった。じゃあ、あなたがお客さまと直接話をする会議を設定するから、あなたの経験、知見をお客さまの前で披露してください。あなたが、お客さまを説得してみてはどうですか」
オ「私は日本語がしゃべれない。日本人のお客さまを説得するのは、日本人プロジェクトメンバーの役割のはずだ。私はERPコンサルタントとして、アドオンを減らすことでプロジェクトに貢献する。私が、欧米のプロジェクトでERPのアドオンを使わずに標準機能を活用するようお客さまを説得したときに活用した考え方をあなたに教えよう。この考え方を使って日本人のお客さまを説得するのは、あなたの仕事だ」
この後オフショアのERPコンサルタント氏は、延々と自説と自分の成功体験を述べるわけですが、経営トップのERPの標準機能を使うことへのコミットメントとか、ユーザーのERP標準機能への理解とか、現場でボトムアップ的に仕様を固めていく日本のERPプロジェクトにはおよそ援用できないような理屈を並べます。
結局、日本人プロジェクトメンバーはお客さまを説得できないわけですが、そういう場合、オフショアERPコンサルタント氏はこういうでしょう。
オ「あれだけ私が自分の経験や知見を説明したのに、なぜ日本人プロジェクトメンバーはお客さまを説得できないのか。日本人のお客さまを説得できない日本人プロジェクトメンバーならば、存在する価値はない。ERPのスキル・経験では私たちの方が上なのだから。あんな出来の悪い日本人プロジェクトメンバーと一緒では、仕事が前に進まない」
日「何をいっているのか。日本での仕事のやり方も知らないのに、自分のERPのスキル・経験にアグラをかいて、お客さまの説得という作業を丸投げしているだけではないか。こんな人とは一緒に仕事できない。ERPの経験が浅くとも、国内のベンダにお願いしよう」
このオフショアERPコンサルタント氏は、スキルと経験という意味では問題がなかったはずです。欧米でのERP経験が豊富だったがゆえに、ERPの標準機能を使うということに固執してしまったのでしょう。日本語が上手ではないことについても、責められることではないと思います。
でも、結果としてコンサルタント氏は、ERPの優れたスキル・経験にもかかわらず、「一緒に仕事はできない」という烙印(らくいん)を押されてしまいました。いったい何が欠けていたのでしょうか。どこで会話が食い違ってしまったのでしょうか。
■決め手は「柔軟性」
私は、オフショアERPコンサルタント氏には「柔軟性」が欠けていたと思うのです。
コンサルタント氏が、「日本市場ではERPパッケージは標準機能を使う割合が低く、アドオンが多い」ということが理解できていたらどうだったでしょうか。ERPのアドオンが多いことを是認しつつ、アドオン設計・開発の知見をプロジェクトに生かす。同時に、不要なアドオンと思われるものがあれば、過去の経験を生かして標準機能を使うことを提案する。そんな行動が取れたのではないでしょうか。
自分の置かれている立場を理解し、会話している相手の立場を理解する。そして自分の持っている力を発揮する領域を正しく把握して、実行に移す。このようなバランスの取れた対応のできる人を、私は「柔軟性がある」と考えます。
このような柔軟性のある人が、オフショア開発で活躍できる人だと思います。
私の経験から考えるに、どちらがいいとか悪いとかではなく、国や地域による文化や習慣の違いは確実にあります。オフショア開発においては国が異なるので、文化や習慣の違いは顕著です。
柔軟性を持った人であれば、さまざまな人が集まるプロジェクトにおいても、自分のいままでの成功体験が通用するかを冷静に判断して行動できると思っています。
■オフショア開発を成功させるには
オフショア開発があまりうまくいっていないとすると、その理由には冒頭で説明した設計書のような技術的な側面もあります。一方で、コミュニケーションの側面から考えると、オフショアから参画するメンバーが日本市場に合わせる柔軟性に欠けているということもあり得ます。
同時に、日本側にも同様の柔軟性が求められることを忘れてはいけません。オフショアメンバーを「日本語ができない付き合いにくい相手」などと思わずに、「スキル・経験豊富な助っ人」というように考える必要があります。そう考えれば、頼りにすべきところ、伝えるべき情報、理解してもらいたいこと、日本側ですべきことなどがおのずと分かってくるのではないでしょうか。
最後に、言語能力について付け加えます。オフショア開発が広まると、英語や中国語を学ぶ必要があるといわれています。
言語能力は高い方がいいのは確かです。だからといって、ネイティブのようにペラペラしゃべれれば、オフショアメンバーとのコミュニケーションで成功できるということではありません。
今回紹介した、オフショアのEPRコンサルタント氏との会話は、語学が堪能になったからといって解消されるような問題ではありませんよね。
語学能力は重要ですし、できるに越したことはありません。しかし同時に、「オフショア開発におけるコミュニケーションにおいては、柔軟性こそが必要である」ということも念頭に置いてもらえればと思います。
今回のインデックス |
オフショアのコンサルタントvs. 日本人プロジェクトメンバー |
互いに必要なのは「柔軟性」 |
筆者プロフィール |
トライアンツコンサルティング エンタープライズアプリケーションサービス ディレクター 野村隆 無料メールマガジン「ITのスキルアップにリーダーシップ!」主催。早稲田大学卒業。アクセンチュアにて、金融・通信業界の業務改革・大規模システム導入プロジェクトに多数参画。ITバブルのころには、少数精鋭からなるITベンチャー立ち上げに参加。大規模(重厚長大)から小規模(軽薄短小)まで、さまざまなプロジェクト管理を経験。SIプロジェクトのリーダーシップについてのサイト、ITエンジニア向け英語教材サイト、人材派遣情報サイトも運営。 |
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