自分戦略研究所 | 自分戦略研究室 | キャリア実現研究室 | スキル創造研究室 | コミュニティ活動支援室 | エンジニアライフ | ITトレメ | 転職サーチ | 派遣Plus |

ITエンジニアを続けるうえでのヒント〜あるプロジェクトマネージャの“私点”


第35回 何でオフショア開発しなくちゃいけないの?

トライアンツコンサルティング
野村隆

2008/3/21

「デキるやつを一本釣りしたい」

 上記のように、オフショアには労働人口の減少への対応策としての側面があると同時に、質の問題に対する側面もあります。IT業界に入ってくる人材の量が減れば、いわゆる「デキる」人材の数も減ります。このことに関しては、私の知人である、某企業のCIOがいっていたことが印象的でした。

 「うちの会社では、たくさんの開発プロジェクトが並行して走っている。小規模プロジェクトが多いので、オフショアに発注して数カ月待つとか、仕様変更が発生したときに対応する・しないの議論でスピードを落とすとかいうわけにはいかない。だから、うちの会社では一般的にいうオフショアは向いていないと思う。

 ただ私は、海外の人材は必要だと思っている。なぜなら、日本にいわゆる『デキるやつ』がいないから。中国人でもインド人でも、国籍は問わない。デキるやつが欲しい。だから、私が海外で人材を探すときは、通常のオフショアのように「大量の技術者を用意します」という会社には興味がない。むしろ、デキるやつを一本釣りとか、優秀な人材の少人数チームを囲い込むという対応をしたいと思っている。こういうアプローチも、海外の人材を活用するという意味では、オフショアなんだろうけどね」

 このように、大規模な作業の外部委託先を求めてではなく、質の高い人材を求めてオフショアを利用する傾向も、今後顕著になるのではと思っています。

 質・量ともに、日本の少子高齢化に伴う対応が必要となってくる、そんな中で、オフショアは非常に有効な施策となり得ると理解しています。

グローバル化への対応

 同時に、日本企業がグローバル化する中で、IT業界もまたグローバル化する必要に迫られています。クライアントが英語圏に進出するにもかかわらず、サポートするIT企業が「英語はできません」では困りますよね。IT企業が「いやいや、漢字やひらがな・カタカナといったダブルバイトの取り扱いもあるし、日本語の仕様書も読めない外国人にシステムの設計・開発は任せられない」といい続けることは困難になりつつあります。

 このような状況では、IT企業が英語を学ぶと同時に、英語圏での優れた技術者の集まる場所(qualified engineering resource pool)としてのインドのオフショアを活用する能力を身に付ける必要があるのではないでしょうか。

 いままでは日本語という見えない障壁のために、海外のIT企業が日本市場に入り込むことは困難でした。しかし、日本のIT企業のクライアントが本格的に海外進出するに伴い、今後は日本のIT企業自身が海外に向けてサービスを提供する必要に迫られているといえるのではないでしょうか。

オフショアは手段の1つ

 上記のとおり、少子高齢化、グローバル化という避けようのない将来を展望するに、マネジメントの視点からは、オフショアを活用する方向で考える必要があると思います。

 一方で、冒頭に述べたとおり、私はオフショアがすべての問題を解決してくれる特効薬とも思っていません。むしろ、用途に応じて使い分ける手段の1つと思っています。

 例えば、短納期で小規模、同時に仕様がコロコロ変わる商用Webサイトの開発。このような場合、私は、国内のメンバーでチームを組む方がいいと思います。短納期ゆえに仕様書をしっかりと書いている時間がない。仮に仕様書を作成してもWebサイトの競合他社、市場動向によって仕様が変わるので、仕様書が固まらない。コミュニケーションを円滑にする必要があるので、日本語で「あうん」の呼吸でスピーディに仕事をしてほしい。こういう場合に、「IT業界の将来を考えてオフショア化しなくては」と短絡的に考えてオフショア化する必要はないわけです。

 一方で、ERP導入の大規模プロジェクトで、なかなか優秀なERPパッケージの経験者を集めることができない、日本企業の海外子会社のプロジェクトなので英語ができる人が集まらないという場合は、無理をして日本の人材を必死になって集める必要はないのではと思うわけです。こういう場合にオフショアを活用できるよう、IT企業としては準備をしておくことが重要と思います。

 換言すれば、オフショアは目的ではなく手段と思うのです。システム設計、開発を請け負ったときに、短納期小規模ならば国内、大規模で経験者が必要な場合や海外プロジェクトの場合はオフショアを活用する。また、少数精鋭の部隊が必要となり、日本人でチームが編成できないときに外国人の精鋭部隊を活用する、というように、手段・選択肢としてオフショアを考えるという発想が必要なのではないでしょうか。

 

今回のインデックス
 オフショアは、問題を解決する選択肢の1つ
 オフショアは、目的ではなく手段

筆者プロフィール
トライアンツコンサルティング
エンタープライズアプリケーションサービス ディレクター 野村隆
無料メールマガジン「ITのスキルアップにリーダーシップ!」主催。早稲田大学卒業。アクセンチュアにて、金融・通信業界の業務改革・大規模システム導入プロジェクトに多数参画。ITバブルのころには、少数精鋭からなるITベンチャー立ち上げに参加。大規模(重厚長大)から小規模(軽薄短小)まで、さまざまなプロジェクト管理を経験。SIプロジェクトのリーダーシップについてのサイト、ITエンジニア向け英語教材サイト人材派遣情報サイトも運営。

この連載の筆者・野村氏の新企画「ITエンジニアをあこがれの職業にするには?」で、インタビューに答えてくれるITエンジニア募集中! ご対応が可能な方は、下記のアドレスまでご連絡ください。連絡先:jibun@atmarkit.co.jp




自分戦略研究所、フォーラム化のお知らせ

@IT自分戦略研究所は2014年2月、@ITのフォーラムになりました。

現在ご覧いただいている記事は、既掲載記事をアーカイブ化したものです。新着記事は、 新しくなったトップページよりご覧ください。

これからも、@IT自分戦略研究所をよろしくお願いいたします。