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パソコン創世記


草むしりと評価用キットの日々

富田倫生
2009/8/20

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 入社後、後藤は半導体の生産設備を整備する部隊に配属されるのだが、ここで担当したのが、渡辺と組んで進めることになったICテスターの開発業務だったのである。

 IC、つまりは集積回路。

 誕生初期のICは、せいぜいトランジスター10個ほどを1つの部品に詰め込んだものだった。ところがその後、ICの集積度は飛躍的に高まり、ゲートと呼ばれる基本単位となる回路の数が1000を超えるものに関しては、LSI(大規模集積回路)という別の名前が用意されるようになった。

 変わったのは名前だけではない。仕上がった製品の検査法も、集積度の高まりに応じて変わらざるをえなかった。

 ムカデのように足を出した完成品の集積回路――。

 この集積回路が設計図通り仕上がっているかをチェックするためには、それぞれの足からオン、オフの2種類の信号を入れてテストしていく必要がある。

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 ICの集積度が低く、足の本数も少ないうちは、ICテスターも手動のものが使われていた。ところが集積度が高まってくると、そんなものではとても対応しきれなくなり、次に開発されたのが、リレーを使ったテスターである。

 しかし、それでもとうてい間に合わなくなってくる。

 集積度がさらに高まってくるにつれて、超高速でテストを進めていく、コンピュータを使ったテスターの開発が不可避となったのである。

 そして、この業務に携わったことで、後藤と渡辺は半導体屋にはめずらしく、コンピュータもいけるという特異性を身につけることになった。

 あくまでも部品の延長上に発達してきた集積回路、そして1つのまとまったシステムとしてのコンピュータ――。

 マイクロコンピュータとは、部分としての集積回路と全体としてのコンピュータの境界に生まれた異端児である。部分でありながら完結した全体性を持つこの異端児は、半導体屋のセンスからすればわけの分からないゲテ物に見える。また、コンピュータ屋のセンスからすれば、オモチャ以下の取るに足らない存在に映る。

 LSIにコンピュータの中央処理装置の機能を収めたといっても、その力はあまりに貧弱。いくら小さくできたといっても、こんな貧弱なものを何に使うか、ということになる。

 こうしたマイクロコンピュータのわけの分からなさに、埼玉大学理工学部で電気工学を専攻していた加藤明も、頭を抱えていた。後藤富雄が九州で草むしりと評価用キットの日々を過ごしていた1974(昭和49)年の夏、彼もまた本業の卒業研究そっちのけでインテル社のi8008(8ビット)の評価キットに取り組んでいたのである。

 「こんなものを手に入れたから、ちょっといじってみよう」と教授から声をかけられ、さっそく組み立ててテレタイプにつないでみた。

 しかしそこからは、悪戦苦闘である。資料や説明書もほとんどない状態で、たとえば文字を1つテレタイプのタイプライターに印字させるにしても、制御用に組み込まれている機械語のプログラムをいちいち解析しながらの手探り状態。

 そもそもマイクロコンピュータなるものの概念が、どうしてもピンとこない。

 大型のまともなコンピュータの話なら、授業で叩き込まれているしイメージもつかめる。ところが、目の前にあるちっぽけなLSIにコンピュータの中央処理装置が収まっているといわれても、どうしても首をひねりたくなる。コンピュータとLSI 1個とは、どう考えても結びつくように思えない。ただしこのわけの分からなさ、マイクロコンピュータの得体の知れなさは、加藤の頭を悩ませたと同時に強力に彼の好奇心を引き付けもした。卒業までの1年間を、加藤明はテレタイプと向かい合って過ごすことになったのである。

 1975(昭和50)年3月、加藤は埼玉大学を卒業。

 試行錯誤の末、ついにマイクロコンピュータのイメージをつかみきれぬまま卒業することになった加藤だが、石油ショック後の就職難の中で、第一志望の日本電気に職を得ることができた。

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