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パソコン創世記


ケチケチ体制のスタート

富田倫生
2009/9/14

「決断のとき」へ

本連載を初めて読む人へ:先行き不透明な時代をITエンジニアとして生き抜くためには、何が必要なのでしょうか。それを学ぶ1つの手段として、わたしたちはIT業界で活躍してきた人々の偉業を知ることが有効だと考えます。本連載では、日本のパソコン業界黎明期に活躍したさまざまなヒーローを取り上げています。普段は触れる機会の少ない日本のIT業界の歴史を知り、より誇りを持って仕事に取り組む一助としていただければ幸いです。(編集部)

本連載は『パソコン創世記』の著者である富田倫生氏の許可を得て公開しています。「青空文庫」版のテキストファイル(2003年1月16日最終更新)が底本です。「青空文庫収録ファイルの取り扱い規準」に則り、表記の一部を@ITの校正ルールに沿って直しています。例)全角英数字⇒半角英数字、コンピューター⇒コンピュータ など

  大内淳義は、迷い続けていた。

 もともと自分自身、新しいものには人一倍興味を持ちやすい。医用電子へののめり込みも、そうした大内の性格をよく表わしている。

 しかしそうした興味と、経営者としての判断は別物である。

 果たしてPC-8001を立ててパーソナルコンピュータを事業化したとして、いったいどうやって売るか。

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 日本電気には、オフィスコンピュータを取り扱っているディストリビューターとの関係はある。しかし彼らは、1台が何百万円、何千万円となるから売っているので、10万円や20万円のオモチャなど扱うはずがない。家電ルートで流すといっても電気屋でコンピュータが売れるわけはなかろう。カタログやちらしを作り、新聞に広告を打ち、テレビやラジオを売る調子でかりにもコンピュータが売れるとはとうてい考えられない。

 新しい販売ルートを作るとなると、相当の人と金がいる。新しいルートは作ったはいいが、タマがPC-8001 1つではあぶなくてとても手が出せない。

 そうした1つ1つを渡辺に質していくと、即座に切り返してくる。1歩先を行くアメリカの状況を論じ、PC-8001売り込みのシナリオを解説する。何よりも切り返してくる言葉の1つ1つに、勢いがある。

 ユーザーに迫られ、サードパーティーに押し上げられ、東京電機大学の安田寿明や東京大学大型計算機センターの石田晴久らのパソコンイデオローグたちにあおられ、いや何よりも1つの革命が進行しつつあるのだという自らの直観を信じて、渡辺たちは目の色を変えていたのである。

「あのときメーカー側が先に進まなければ、一種の社会的犯罪行為と指弾されかねない雰囲気があった」

 渡辺和也は、今そう語る。

 渡辺とのやり取りを繰り返すうち、大内はゴーサインを出す気持ちに傾いていった。しかし正直なところ、民需向け製品に乗り出す気になった最大の要因は、電子デバイス全体の好調さだったという。石油ショック後の一時的落ち込みから、半導体の需要は急速に回復していた。そしてPC-8001を扱うのはあくまで好調なデバイス部門の一セクションである、マイコン販売部。たとえこれで多少の赤が出ても、全体では楽に吸収できる。

 大内は、ゴーサインを出した。ただし販売ルートに関しては、いっさい冒険はしなかった。秋葉原に続いて、横浜、名古屋、大阪に開設していたビット・イン、そして通常は電子デバイスを扱っている販売店の中で特に希望するところ数か所だけに流すという、新規の経費を抑えたケチケチ体制で臨むこととした。積極的に打って出るのではなく、まずは様子を見たのである。

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