作表機の覇者IBM、電子計算機を押さえる |
DECの躍進
富田倫生
2010/2/18
本連載を初めて読む人へ:先行き不透明な時代をITエンジニアとして生き抜くためには、何が必要なのでしょうか。それを学ぶ1つの手段として、わたしたちはIT業界で活躍してきた人々の偉業を知ることが有効だと考えます。本連載では、日本のパソコン業界黎明期に活躍したさまざまなヒーローを取り上げています。普段は触れる機会の少ない日本のIT業界の歴史を知り、より誇りを持って仕事に取り組む一助としていただければ幸いです。(編集部) |
本連載は『パソコン創世記』の著者である富田倫生氏の許可を得て公開しています。「青空文庫」版のテキストファイル(2003年1月16日最終更新)が底本です。「青空文庫収録ファイルの取り扱い規準」に則り、表記の一部を@ITの校正ルールに沿って直しています。例)全角英数字⇒半角英数字、コンピューター⇒コンピュータ など |
1950年代のパーソナルコンピュータ★に携わってきたオールセンの起こしたDECは、IBMの目の届かない新しい領域に、コンピュータの用途を切り開いていくことになる。
★この時期に〈パーソナルコンピュータ〉が開発されたきっかけは、第2次世界大戦中の1944年からMITで始まった、ホワールウインド(旋風)プロジェクトが作った。当初、海軍航空兵の搭乗訓練用シミュレーター開発計画として始まったプロジェクトは、戦後コンピュータを利用した防空システムへと拡張されて引き継がれた。16カ所のレーダー施設から送られてくる情報を集めてリアルタイムで処理するホワールウインドは、タイム・シェアリング・システムのもっとも早い応用例だった。さらにリアルタイムで現状を表示するために、ホワールウインドには初めてディスプレイが接続された。 このプロジェクトの成果は、1954年にアメリカが初めて配備した防空用早期警戒システム、SAGE(Semi-Automatic Ground Environment)に生かされた。同時にホワールウインドの開発過程で、信頼性の高い高速の記憶装置として、磁気コアメモリーが開発された。 MITで修士論文の準備を進めていたケン・オールセンは、論文をまとめ終わった直後、磁気コアメモリーの信頼性確認を主目的とする実験機、MTC(Memory Test Computer)の開発を担当するチャンスを与えられた。ホワールウインドは2500平方フィートを占有してしまうような巨大なマシンだったが、これと同じアーキテクチャーを持つものを、オールセンはごく小さく作ることで腕をアピールしたいと考えた。1つの部屋にラックを並べた形で収め、向かい合わせに制御卓を置き、カメラマンがマシン全体を写真に収められるようなものをオールセンは目指した。 当時、ホワールウインドのプログラマーとしてMITのデジタルコンピュータ研究室に籍を置いていたウェズリー・A・クラークは、オールセンのMTCに鮮烈な印象を受けた。 強力なディスプレイを備えている点では、ホワールウインドは画期的だった。だが他のコンピュータの場合と同様、ユーザーはたいてい15分ほどの割り当て時間しかマシンを占有できなかった。ところがはるかに小型化された実験機のMTCは、信頼性には問題はあったものの、分単位ではなく時間単位で自分1人で使うことができた。CRTディスプレイを生かした対話型の操作のメリットを、クラークはこのマシンで初めて痛感させられた。 この体験を通じてクラークは、小規模なコンピュータのビジョンを育てていった。 「コンピュータは道具だ、だから使い勝手は設計の最優先要素だ、大型機は大きな作業に、小型コンピュータは小さな作業に使えばよい、共有空間にいっしょにしまっておくよりも独立したパーソナルファイルのほうが安全だ」(『ワークステーション原典』所収「早すぎた小型コンピュータ『LINC』」) クラークはケン・オールセンの協力を得て、道具としての性格を前面に押し出したTX-1の開発計画をまとめ、リンカーン研究所に提案した。新しい素子としてのトランジスターの実用性確認と、大容量の磁気コアメモリーのテストを公式な提案理由としてかかげたTX-1プロジェクトを、研究所の上層部は却下した。クラークはやむなく、規模を大幅に縮小したTX-0を再提案した。TX-0は1957年には運用開始にこぎ着け、クラークは続けてより大規模なタイプを、TX-2と名付けて開発に取り組んだ。 TX-0はMITの電気工学部に貸与されることになり、道具として開発された対話型のコンピュータに衝撃を受けて、ハッカーたちはこのマシンに張り付いた。 DECの創業にいたる上記の経緯は、『DIGITAL AT WORK』に明快かつ簡潔にまとめられている。 |
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